64話 魔物相手にあくどいも何もないよね
会議は盛大に話がずれた。
でも、情報が足りなくて推測ばかりだったから、あのまま話していてもあんまり進展は無かったんじゃないかな。
というわけで情報収集。
今回は緊急性が高いため、人数を増やしている。ざっと五人ほど暇そうにしていたのを連れてきた。
「じゃあ、皆頑張ってね。僕は夏服探してくるから」
「旦那がそれだとやる気出ねーぜー」
「情報収集にはある程度投資が必要だからね。皆にはお小遣いをあげるよ」
「任せとけ旦那ぁ! 任せといて大丈夫だから、取り敢えず別行動な!」
「……ちゃんと情報を持ってこなかった人には罰ゲームだから」
「ま……任せとけぇ……」
それでも任せろというなら、まあ、任せるけど。うん、個人の自主性を尊重するよ。
さて、買い物買い物。といっても、どうせ幻術を被せるから、いつも通り肌を隠せる服を選ぶだけだけどね。
そんなわけでパーカーを購入。夏用の薄い生地。フードが必要だからパーカー一択だった。ズボンも色揃えるくらいで、特に深く考えずに購入。だって、男物でコーデ気にしてもしょうがないし。
思ったより早く買い物が終わったことだし、僕も情報収集しようかな。
選択肢。冒険者ギルド、商業ギルド、適当な酒場、街道が交差する広場……。取り敢えず、最近通っている商業ギルドだね。
ちなみに、したっぱ君は冒険者ギルドに行っている。聖女とかに絡まれるかもしれないけど、僕が行かなければ大丈夫だろう。知り合いから聞いた方が情報も集まるだろうしね。それでも僕は会いたくないから行かないけど。
……はい、私は商人Aです。只今商業ギルドに到着しました。どうぞー。
見た目はしがない中年男性。
冒険者は声がデカいし、向こうから勝手に話しかけてきたりするから噂話に困らなかったけど、商業ギルドでは知人同士で話し合うことが多い。商人ネットワークというやつだろう。僕もその輪に入りたい。そしておいしい話を教えてほしい。
問題は、僕が何を取り扱っている商人なのかということ。
売るかどうかは別として、部屋にあったガラクタをかき集めてみました。
怪しげな薬品(複数)に魔道具未満の小物。どれも作って満足して放置した手慰みものだ。何も持っていない商人なんて変だからね。一応用意しておきました。
「それ、商品ですか?」
小物を手に持って弄っていたら早速声を掛けられた。こっちから行く手間が省けたね。
「ええ、そうです。魔力で動く物なんですがね、魔道具と言うには性能が低いおもちゃのようなものですよ」
「へえ、魔力でですか。魔力を扱える人自体が少ないですから、そういった物は珍しいですね」
「少しの魔力で動きますから、練習すれば誰でも使えますよ。こんな感じに」
言いながら魔力を流す。魔道具未満の棒はそれに反応して、先端からにょろっと袋状の物が出てきた。笛のように息を吹き込むとびにょーんと伸びてくる玩具。あれの魔力版みたいなものだ。
魔道具作成の練習に作った何の役にも立たない物だけど、目の前の商人さんは面白がってくれた。
「なるほど、魔力で動くというのは魔道具の性質ですが、その効果を極限まで簡易なものにして魔道具としての最低限の機能だけを持たせたものというわけですね。魔道具の仕組みを理解するのに役立ちそうです。お値段はどのくらいでしょうか?」
暇潰しで作ったおもちゃなのに有益な使い道を見つけるとは、流石商人。
値段、値段ねぇ……考えてなかったなぁ。
「銅貨3枚」
「やっす!?」
軽食代程度。でも、ちょっと伸びるだけのおもちゃなんてそんな程度だと思う。駄菓子屋に売ってるレベル。
「ごほんっ……それ、買ってもいいですか?」
「ええ、勿論です」
毎度あり。
まあ、この安さの分情報をくれれば問題ないよ。
それから、雑談を交わす形で情報交換を行った。
商人ネットワークで情報がまとまっているお陰で、一人から聞いただけで結構な情報が集まった。最近の商人事情をゲット。
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時間になったから集合場所に集まった。
この場所で報告だと、遠慮なく聞くことができないから報告は帰ってからだ。
「おしおきは誰になるかな?」
「少なくとも俺じゃあないな」
「俺も今回は自信あるぜ!」
ほうほう、自信ありげだね。
まあ、報告は後で聞くことにするとして。
「じゃあこれから買い出しだから、荷物持ちよろしくね」
「「「うーい」」」
重めの物は今日で一通り買っておきたい。
そう、薪だ。薪を切らしたままだったんだよね。その辺の枝を拾って薪にしていたんだけど、やっぱりちゃんとした物も用意しておかないと量とか火力が足りない。大鍋だからある程度の火力で持続してくれないと困るんだよね。
団員たちには薪を積ませた背負子を背負ってもらう。
あとは食材の買い足しくらいかな。
買い物を済ませたら町を出てアジトに戻る。
「重い……」
「旦那、ちょっと買いすぎじゃねえ……?」
「アジトの在庫が空っぽなんだからしょうがないよ」
「薪を買ってきて炊事する盗賊ってのもなんだかなぁ」
「せっかくミルピィ様が門を通れるんだから、生活水準を上げるのは当然でしょ」
盗賊は町に入れない。これがこの世界の常識だ。
この世界の人達は高い城壁で囲われた町に住んでいる。城壁の無い開拓地なんかは、魔物に襲われて村が壊滅なんて珍しくもない。それくらい魔物というのは脅威だ。
壊滅といっても村人全員が殺されるほどではないことが多い。それでも作物を荒らされて、働き手が減ったら食べてはいけなくなる。
流民でも難民でも、他の町に行けばある程度は受け入れてくれるのではと思う。だけど、城壁に囲われているせいで、町は一切拡張することができない。そのせいで住む場所を失った人々を受け入れる余裕がないのだ。そうすると、生きるための残された道は盗賊くらいなわけだ。だから盗賊となる者は後を絶たない。
それでいてステータス鑑定の魔道具のような便利アイテムが存在するせいで、一度盗賊になると二度と町には入れなくなる。
この世界、実はいろいろ厳しいところなんだよね。
まあ、それでも僕には関係ない。虚像さまさまだね。
と、魔物だ。この道は魔物があんまり来ないんだけど、珍しいね。
「うわっ魔物!? 旦那頼んだ!!」
情けない子分だこと。
しょうがない、【投擲】でさっさと終わらせよう。
コボルトAが現れた。
コボルトBが現れた。
コボルトCが現れた。
コボルトDが現れた。
コボルト……え、多くない?
総勢9匹。きりが悪い。
ごめんね【投擲】、君の出番はちょっと待ってね。筋肉痛にはなりたくないんだ。【虚像】のアニキ、お願いします。
突如、仲間割れを起こすコボルトたち。
その間にワイヤーとナイフを取り出して繋ぐ。そしてナイフの付いたワイヤーをブンブン振り回して遠心力を加えて――投じる。
この方法でも【投擲】スキルの効果は発揮される。狙い通りに飛んでいったナイフは、コボルトの頭蓋に食い込んだ。致命傷。
ワイヤーはそんなに長くないから手放してナイフと一緒に飛んでいった。わざわざ取りに行かないといけない。でも、ナイフだけはマジックアイテムだから転送で楽々回収だ。
ワイヤーは3本持っている。仲間割れで数を減らして、あと2匹になったらそれで終わりだ。
「えげつねー……」
ボソッと小声で言われたけど、僕はきちんと聞き取った。
……確かに。幻術で仲間同士争わせて、数が減ったら始末する。結構アレな手段だよね。




