63話 会議は踊る、そして踏み外してずれる
「うわぁ……あれは無理だね……」
領主宛ての荷馬車を襲って数日後、また領主宛ての荷馬車が来たから襲えるか偵察に来た。
離れたところから様子を窺ったけど、護衛の冒険者が複数人。もしかしたら二桁居る。それに馬車が一台じゃなく四台あった。
前回僕達が魔物を装って襲ったから、魔物対策に人数を増やしたようだ。複数の商人が合同で護衛依頼を出したのだろう。
あれを襲うのは無理。撤収撤収!
偵察と言いつつも襲えそうだったら即襲うつもりだったため、少し離れた場所に団員達が待機している。
合流して、さっさとアジトに戻った。
うーん、今後もこの調子だと盗賊ができない。
厄介な魔物が道中に出るという話でも広まっていれば、商人は対策として同行者を増やしてくるだろう。さっきの商人のように。
これは今後に関わる話だね。アジトで作戦会議だ。
「デブ領主が対策してきたんだろうね」
「あー、食への執念が強そうすよね」
「隣町とはそんなに距離が離れてないし、一時的に商人同士で連むのも難しく無いと思うわ。それに、もし領主から警告でも出ていれば殆どが従うはずよ」
「前回襲ってからそんなに日は経っていないし、この間商業ギルドに行ったときにはそんな話は聞かなかったけど」
「それにしては、完璧に警戒してたのでしょう?」
そうなんだよね。
ここら辺に大した脅威はない。そうじゃないと僕達も危険だから、そういう場所を狙って拠点にしたんだし。
だから本来なら護衛を十人以上雇う必要なんて殆どない。あれは明らかに僕達を警戒していた。
「やっぱ、護衛が多めの馬車を襲ったのはまずかったかなぁ。幻術の魔物は雑魚だったけど、いつの間にか荷物が奪われていたってのは警戒心を煽っちゃったかも?」
「それ、襲う前に気付いて欲しかったっすね……」
「襲い方も考え直したほうが良さそうね」
「まあ、前回のは失敗だったと自分でも思うよ。ミルピィ様の個人プレーだったから疲れた。最近暑くなってきて、体調もあんまり良くないから余計にね」
「ミルピィって夏に弱いの? 今後はもっと暑くなるけど」
「夏と冬と季節の変わり目に弱い。あと、春や秋に涼しいからって油断するとすぐ風邪引く」
「コンプリートしてるじゃない……」
「アジトの中って洞窟だし、夏でも幾らか涼しいよね? 冬籠もりならぬ夏籠もりが必要かもしれない」
「兄貴が暑いのって、その服装のせいじゃないすか?」
「「あっ……」」
……確かに。
いや、どう考えてもそうでしょ。この格好が当たり前になっていたから気付かなかった。なんで暑い暑い言いながらダボダボパーカーなんて着てるんだろう。仮面も蒸し暑いし。
「今回の議題を追加。ミルピィ様のクールビズについて。何か案のある人ー」
「さっきの議題はどうなったのよ……」
「こっちの方が緊急性があるから」
僕が熱中症になったら大変じゃないか。ちなみに僕は、そんなになるまで外に出たり運動したりしたこと無いから、熱中症にはなったこと無いんだよね。でもきっと辛い。
「旦那はどんな基準で服装を決めてるんだ? と言っても、旦那はいつも同じ服装だが」
さっきまで聞きに徹していた団員が僕に質問してきた。
作戦会議に参加していたのは四人だ。僕と団長は当然として、町や領主のことを一番知っているしたっぱ君と最年長でよく団員を仕切っている団員のおっさんも参加している。
「身体を隠せて、身体的特徴も見えないようにしているかな」
ダボダボパーカーとズボンで全身を隠して、フードと仮面で顔も隠している。
あと、僕のブーツは多少身長を誤魔化せているはずだ。どれくらい効果があるかは分からないけど。
「普通に半袖じゃ駄目か?」
「肌が見えるのはちょっとね」
僕の細腕を見たら普通に女だとバレると思う。ちょっと見えるくらいならまだしも、半袖はねぇ。
「そのパーカー、結構厚手ですよね。薄手にするだけでもだいぶ違うんじゃないすか?」
「そうだね。夏物でも探せば長袖で良いやつがあるかな」
「ミルピィってそこそこ服を持ってたわね。その中に無いの?」
「んー……ちょっと見てくる」
一旦部屋に戻ってクローゼットを確認。
どう見ても女物のやつと今着ているのと同じ物を除くと……あんまり無いね。
……コーディネート中……。
ハーフパンツとシャツの上にパーカーを羽織る。
長ズボンじゃないけど、ブーツのお陰で露出しているのは膝辺りくらいだ。パーカーはいつも着ているやつだけど、前を開けているから幾らか涼しい。パーカーだけは新しく買ってもいい。
……どうなんだろ?
自分ではよく分からないから、団長達に見せてみた。
「ハーフパンツにしてチャック開けただけですよね」
「ズボンに隠れていたブーツが強調されるようになって、上げ底が分かりやすくなってるわよ?」
「そのブーツ、結構目立つな。その格好だと仮面の次に足に目が行く」
ブーツが……!
足に目が行くなら、数少ない露出である膝にも目が行ってしまう。自慢の柔肌が注目されるのは困る。
しょうがない、暑いけど長ズボンで我慢しよう。
自室に戻り、再検討。
着替えて、再び披露。
パーカーの代わりに白衣にした。
サイズが大きくて、裾や袖が長いのもいい。フードが無いからたまたま部屋にあった麦わら帽子を被っている。髪は束ねて帽子に詰め込んだ。
「仮面に麦わら帽子で白衣……凄いチグハグな印象ね」
「仮面に麦わら帽子は無いな」
「その仮面、どうにかならないんすか?」
仮面は今更じゃない?
何着ても変になると思うんだけど。
でも、あまりに不評だったから麦わら帽子を外した。
ぶわさっと髪の毛が広がった。
「こわっ!?」
「……兄貴、そんなに髪長かったんすか」
「随分伸びたわよねぇ」
もさっと髪が広がったことを驚かれた。これはちょっと不本意。傷つくよ?
フードには髪を隠す意味もあったけど、これはそんなにこだわっていない。前髪もそこそこ長いから仮面に掛かっているし、後ろ髪を適当に纏めて服に中に入れているだけだから、横の髪は動くとフードから出てきたりしていた。あんまり隠せていなかったんだよね。
それに、最近は腰下まで伸びてきて、パーカーの裾から少し出ていたりもしている。後ろ髪、束ねて適当なところで縛ってるだけだから。
それに何度か団員の前でフードを外したこともある。髪の長さは結構今更だ。したっぱ君は知らなかったみたいだけど。
「あー、たまに服に付いてる長い髪って兄貴のだったんすね。背中に長い黒髪が付いてるのを見つけたとき、俺、呪われてるのかと思いましたよ」
したっぱ君にはよく背負ってもらってるから、そのときに付いたのだろう。でも、その言い方は普通に傷付くんだけど。乙女の髪を何だと思ってるんだ。
長い髪が動きにくいから、いつものようにリボンで縛る。
リボンって言っても、ただの帯状の黒い紐だ。おしゃれでも何でもない。
「まあ、さっきの麦わら帽子よりはマシになったな」
白衣には長髪が似合うようだ。仮面はどうか知らないけど。
白衣はパーカーより薄地だから暑くないね。これは寝巻きから格上げされるかもしれない。




