62話 変なの解析しちゃったじゃん!?
今日も詩人活動を終えて。
最近まとわりついてくる不死身君を撒いて。
したっぱ君と合流してから商業ギルドへ向かう。
ここ数日の行動パターンだ。
不死身君は弟子を断って以来、詩人姿でいると追っかけ回してくるようになった。
なんでも、その技術を目で盗んでやるぜ的な発想らしい。余計なことを思いついてくれる。
まあ、不死身君はどうとでもなる。【虚像】があれば簡単に撒けるから、そこまで問題はない。
さて、商業ギルドで情報収集だ。
冒険者ギルドの情報は、護衛が付く商人が誰か分かるから、この荷馬車を襲うのはやめようという消極的な判断をする情報だった。
けれど商業ギルドでは、誰それが貴族の品物を運ぶなどといった、襲いたくなるような積極的な決断をしたくなる情報ばかりだ。
こういう誘惑に負けると、安全策が疎かになりやすい。気を付けないと。
「お、今の話聞きました? 領主のもとに運ぶ稀少食材ですって。あの領主、食へのこだわりが強いらしいっすからきっと美味いやつですよ」
「領主って、あのデブい人か」
食べ物を盗るのは結構いいかもしれない。
商品を盗んでも、それを売りさばくことができないからね。足がついてしまう。
今は魔物姿で家業をしているから、あんまり金銭だけを狙って奪うのも不自然なんだよね。襲っても、人は殺さないようにしているから。あんまり凶暴扱いされると討伐依頼が出ちゃうし。飢えて食べ物の匂いを嗅ぎつけたちょっと強めの雑魚魔物というのが理想だ。
……襲っちゃう?
いやいや、良い物運んでいるなら護衛もちゃんとしているだろうし……。
=====
襲っちゃいました。
でも、今回ばかりは【虚像】に頼りきりになってしまった。
幻術の雑魚魔物をけしかけて、そっちに護衛の注意を引かせているうちに荷馬車に忍び寄って奪取。荷物を盗む人員が何人かいたくらいで、殆ど僕がやった。これもう盗賊『団』じゃないな……。
……疲れた。
【虚像】は使う能力で疲労度が違う。
幻術を生み出したり姿を変えるのは大して疲れない。しかし、姿や気配を完全に消そうとすると、かなり疲れる。【虚像】は映し錯覚させる能力だから、それを応用して見えなくすることもできるけど、専門外なんだよね。ホログラムを使って光学迷彩をやってみせるような……。
あと、この方法だと団員が使えない。僕の負担が多すぎて、どうにも割に合わない感じだ。
うん、失敗だったね。
なんだか、町の動向を意識していると活動しにくい。
町の近くで活動しているんだから、警戒するのは当然なんだけど……。
いっそ、町から離れた場所で盗賊するか。
活動範囲を広げたほうがアジトを発見されにくいだろうし、討伐依頼も難しくなるはずだ。
問題は、僕が長距離移動をしたくないことなんだけど。
「う~ん……」
難しい問題だ。
人員は余っているのだから、班分けして別行動すればいいという考えもある。
だけど、僕から離れるのは危ない。過保護なのかもしれないけど、何かあってからじゃ遅いからね。
魔物に襲われる危険もあるし、返り討ちに遭うかもしれない。みんな弱いからなぁ……。
「旦那ー! 盗品のチェック、旦那も参加してくれー。よく分からない物が多いんだよ!」
「ういー」
呼ばれたから考え事終了。
よく分からない物ってなんだろ。デブ領主への物だから食べ物ばかりのはずだけど。
どれどれ……?
「珍味……だね」
「げ、これ、食い物なのかよ……」
偉い人の食べるものは、よく分からないです。
何かの尻尾(毛付き)、巨大な節足動物の脚(光沢を帯びた殻付き)、カタツムリ(背中の貝が気持ち悪い形状)、何かの睾丸(これが何か説明するの恥ずかしかった)。
……変なのばっかり食べないでよ!!
「僕、これを調理するのはちょっと嫌だなぁ……君達勝手に食べていいよ」
「いやいやいや、俺らだって嫌ですよ! そもそも調理方法分からないし! 旦那なら知ってるでしょ!?」
「なんで僕なら知ってると……まあ、知ってるけどさ。じゃあ僕が頑張って調理したら食べるの?」
「う……でも、旦那の料理なら不味くはないだろうし……」
「え、また兄貴が作ってくれるんすか? 楽しみです!」
半端に話を聞いたしたっぱ君が無邪気に喜びだした。
いけない、早いうちに訂正しないと。
「材料これだけど?」
「へー、高級食材にもこういうのあるんすねぇ」
嫌悪感がない!?
なんと言うことだ。彼にとっては等しく食材ということだろうか……。
……いや、高級食材『にも』?
まさかしたっぱ君、ひもじいときに虫とか食べていたんじゃ……恐いから訊くのはやめておこう。彼の闇が見えた気がする。
「兄貴が作るのって、今日の夕飯ですか? それとも明日?」
……どうしよう、勢いで言ったことだけど、引っ込みが付かなくなってしまった。
くっ、いいでしょう。したっぱ君のために美味しい珍味を作ってあげようじゃないか!
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そういえば、いかがわしい食材が混じっていたよね。
あれも歴とした食材なんだし、プロの料理人は気にしないんだろうけど、僕は気になる。
思春期の少女に何を扱わせる気なのだろうか。
はずかしめだと思う。
……変に意識し過ぎた。
これだと、調理した後誰かがあれを食べたときに変な反応しちゃいそうだ。
一旦、あれのことは忘れよう。今日使わなくてもいいでしょう。
今日のお手伝いさんは……したっぱ君のみ。
あいつら、逃げやがった……。
僕は指示するだけだから実質したっぱ君が作るようなものなんだよね。まあいいか。
本日のお料理は、節足動物の脚の蒸し焼きとカタツムリのバターソテー……です。ちなみに、食材が少ないから数量限定だ。他の人には美味しいスープを作るよ。ちゃんとゲテモノ以外にも収穫はあったからね。
脚を蒸す。気持ち悪い。
脚がデカくて入らない。二つに切断して投入。気持ち悪い。
カタツムリを貝から出します。
……変な形の貝の中から、おぞましい生物が……!
…………気持ち悪い。油断した。想定外。
したっぱ君、どうして君はそんなに淡々と作業できるの? 見ているだけでも辛いよ……。
一通り調理を終えて厨房を出ると、心配だったのか何人かが厨房前で待っていた。
「…………ぉぇっ」
「うわああ!? 旦那、すまなかった!!」
念のため言っておくと、プライドは守った。吐いてないよ。吐きそうだったけど。
僕はその後、担架で自室まで運ばれた。何故担架があるのかというと、僕が倒れるからだ。今みたいにね。……いや、これは想定外だったけど。
部屋で休んで、ミルコレ(写真集)を見て精神力を養って、復活。
こうしてはいられない。僕だけこんな辛い目に遭うのは不公平だ。被害者を、増やすのだ……。
早めに作り始めたから、夕食の時間まではまだ少し余裕がある。今はしたっぱ君がスープを煮込んでいるはずだ。
厨房に向かい、料理の最終チェック。はい、おっけー。
料理を広場に運ばせて、あとは配膳して食べるだけ。
ゲテモノは早い者勝ちで自由に食べることができる。ふふふ、思った以上にグロイ仕上がりになったからね。是非とも食べてもらわないと。
僕の不穏な気配に気付いたのだろう。誰も夕食を取りに来ない。
したっぱ君は平気そうだけど、彼は配膳係りだからまだ食べられない。
しょうがない、直々に配ってあげようじゃないか。
それぞれを皿に盛って、近くに居た団員に迫る。
「ふふふっ、ご飯ですよー」
「こええよ! 何その皿に載ってるやつ!?」
「カタツムリのようなものの中身だよ」
「食材の名前知らないとか、もういろんな意味でこええよ!? それ食って大丈夫なんだろうなあ!?」
「ミルピィ様が調べたんだから大丈夫」
「旦那の情報源が謎なんだが!?」
「そういうスキル持ってるんだよ!」
「初耳だわ!?」
「――【虚像】!!」
追いかけ回したけど、一向に追い付かなかった。しびれを切らして幻術に掛ける。……捕縛。
座らせて、料理を持たせる。
「持ったね? 持ったからにはお残しは許さないからね?」
「幻術使いやがった……鬼かよ……」
僕の所業にびびった他の団員も、諦めて配膳に並び始めた。
したっぱ君のを残して、ゲテモノ品切れ。
「最初に言っておくけど、見た目と食感はどうにもならなかった」
「見た目は見りゃ分かる……」
「逆に言うと、味はどうにかなったんだよな。信じるからな?」
ゲテモノを持った全員が、一口。
皆、釈然としない顔をしながらも美味しいと言ってくれた。
その後、したっぱ君は美味しそうにゲテモノを頬張っていた。……うん、満足そうで良かったよ。




