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61話 詩人姿で怖い話する奇抜さ

 今日は町に行く。

 最近は買い物とかの必要最低限しか通ってなかった。

 遠征依頼で他人と絡みすぎた反動で、ちょっと引きこもり気味になってたんだよね。


 あれ以来冒険者ギルドにも行ってないし。

 ……あっ、遠征依頼の報酬まだ貰ってない。


 えぇー、行かなきゃ駄目かな?


 まあ、それは一旦置いといて。

 【虚像】で詩人姿になる。

 語りも最近サボリ気味だったからね。これは頻繁にやらないと客足が遠のくから、町に来たときは大体やってる。最近はそもそもあまり町に来ていなかったけど、今日はちゃんとやろう。


 したっぱ君には買い物を頼み、その間に詩人として詩曲を歌う。怪談は人が集まってきてから。途中からだと怖さ半減だからね。

 【虚像】は意識に作用する。僕の歌は人の心を惹き付ける(スキルで)。


 うん、集まってきた。

 いいねいいね。お、今の人結構お金置いてった。


 興が乗って参りましたので、ここらで心身震える恐怖を語りましょう。


 最近暑いから、怪談日和だよね。

 騎馬と騎手がぐちゃ混ぜになった彷徨う怪物『嘶く甲冑』。

 何でも揃った完璧な貴婦人なのに、顔だけが無い『顔無し貴婦人』。

 この二つは定番として育てている怪談。語りの技量(虚像さんプレゼンツ)もあって認知度もそこそこ上がってきた。


 でも、飽きのこないように今回は新しい怪談も語る。



 『闇招き扉影』



 事故物件を購入した男は、建物の陰に知らない扉があることに気が付いた。

 男はその扉を開けて中に入ると、そこには全く知らない広い部屋があった。

 家具は黒一色だが高価なものが揃っていて、ソファも座り心地が良い。

 男は何度もその部屋を訪れるようになり、仕事終わりにそこで寛ぐようになっていった。

 そんなある日、男の仕事が久しぶりの休息日となり、男は朝から一日中黒い部屋で過ごすことにした。

 ソファで寛ぎ、少しの間うたた寝をしていた男は、ふと扉が消えていることに気付いた。

 不安に思い部屋を探し回るが、どこにも扉がない。

 すると今度は、部屋がだんだん小さくなっていることに気付く。

 部屋はどんどん小さくなり、それにつれて部屋の物が真っ黒から白に変わっていった。

 部屋の端にあった棚が真っ白になると、それは薄れて消えてしまった。

 家具が消えていき、部屋も狭くなっていく。

 焦った男は部屋中を動き回り、そして、殆ど白くなった鏡台に映る自分の姿が目に入った。

 その体は全身が黒色で、端の方からだんだん白くなっていた。



 概要はこんな感じ。

 今回は伝承みたいなやつではなく、如何にもな怪談っぽくしてみました。

 考え方によって解釈に幅がありそう。

 僕としては、日が当たると消える影の扉とそれに入って影となって消えてしまった男という感じだけど、こういうのは軽くボカした方がいいよね。想像力にお任せします。

 だからこの男がどうなったのかと訊かれても、薄い笑みを浮かべるだけ。こういう語り手の言動も大切なのだよ。


 足下に置いてある空き箱にお金が入れられていく。

 もう、この仕事でも食べていけそうな気がしてきたね。吟遊詩人。


 飽きられないためには、もう少し聴いていたい、そう思わせることが重要だ。

 いい感じに盛り上がり、恐怖を与えたところで撤収。


 さてと、どこかで幻術の姿を変えてしたっぱ君と合流しないと。


「弟子にしてください!」


 スマートに去った僕のことを無粋にも追いかけてきた誰かに、唐突な申し入れをされた。

 人混みをかき分けて現れたのは、どこかで見たような男。というか、不死身君だった。


「風変わりな詩を歌う詩人さん! 是非俺を弟子にしてください!」

「うん、帰れ」


 君の思いつきには付き合ってられないよ。


「どうして!?」

「私は今のところ、弟子を取るつもりはありません」


 僕の今の姿は、長身の男性の詩人だ。冒険者ミールではないから、気を付けないと。


「お願いします! 俺もたくさん観客を引き込んで金を稼げる詩人になりたいんです!」

「私は自分の詩を世間に広めるために活動しています。私の詩を喜んでくれた方がこころづけとしてお金を置いてくれますが、別に私は金銭のために詩を詠んでいるわけではありません」

「うぐっ、でも、それなら俺が弟子としてあなたの詩を歌えばもっと詩を広めることができるじゃないですか!」


 お、不死身君にしては考えた言い返しだね。

 確かに僕の怪談を語る人が増えれば今よりも認知度が上がる。


「しかしそれは、君が詩人として上手く歌うことができればの話です」

「……そこはぁ、長い目で、ご教授頂けると有り難いです」

「私には、一から仕込まなければいけない弟子を取るほど余裕はありません」


 言い負かしてやった。

 もうこれ以上言うことはないとばかりに背を見せて歩き始める。


 今の姿は長身で、実際の僕とは歩幅が違う。

 普段のペースで歩くと詩人姿ではかなりゆっくり歩くことになるから、若干早歩き。白鳥は水面下で忙しなく足をもがいている。それと同じだね。優雅な詩人の雰囲気を出すためにせかせか歩く。



=====



 路地裏に入り、冒険者ミールの姿になってから冒険者ギルドに顔を出すことにした。

 遠征依頼、報酬は結構良かったはず。一応はマジックアイテムを手に入れて持ち帰っているから、その分も上乗せされているはずだ。


 貰えるものは早いところ貰っておきたい。明日をも知れぬ家業だもの。


 ギルドの扉を開けて――索敵!

 敵性反応あり! 危険人物の存在を確認! 撤退します!


 ……あぶなぁ。

 聖女が居た。警戒しといてよかった。どうにか見つかる前に逃げられたよ。

 それにしても何あの聖女、変装して思いっきり寛いでいたんだけど。もしかしていつも居るの? だいぶ馴染んでる感じだったよ。


 したっぱ君に行かせよう。

 あー、でも情報収集しないとなぁ。あの聖女、幻術効かないせいで変装することができないから辛い。

 冒険者ギルドは情報収集に最適だったんだけどねぇ……。危険な魔物の出現情報、盗賊討伐が出ていないか、獲物である商人の護衛依頼等々。聖女の対応策でも考えた方がいいかもね。


 しょうがない、取り敢えず依頼報酬はしたっぱ君に取りに行かせて、情報収集は別のところでしよう。

 盗賊的に良い情報が集まりそうなのは、次点で商業ギルドかな。


 そろそろ合流時間だから待ち合わせ場所に向かうとしよう。

 余裕があればカフェで軽食でも食べるんだけど、最近は稼ぎが少ないから自粛。

 遠征依頼の報酬がまだだからそれだけで数日分稼ぎが無いし、その後しばらくサボってたからね。


 それに情報収集してからじゃないと盗賊家業はリスクが高くて。僕はこの程度ならギルドや街は動かないだろうっていうラインを攻めているからね。最近は幻術で魔物を装って襲ってるけど、その魔物の討伐依頼が出ても面倒だし。


 慎重に、忍んで獲物を定めているのだ。


 というわけで、待ち合わせ場所は詩人活動をしていた場所とは違う広場。分かりやすく石像があって、待ち合わせに最適な人気スポット。カフェとは違ってお金が掛からない。

 ……でも、今日はおひねり多めに貰ったし、ちょっとだけなら屋台のアイス買ってもいいよね。うん。 

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