60話 料理して、調合して、そんな一日
朝食も終わったし、今日は何しようかなぁ。
最近、町に行くのをサボリがちだ。今日も行かない予定でいる。
今、僕は英気を養っている。
やる気を充電中なのだ。
とはいえやることもないし、研究でもしようかな。
目指せマッドなサイエンティスト。怪しげな研究が僕を待っている。よし、そうと決まれば部屋に引きこもろう。
「ちょっと待った旦那!」
部屋に入る直前、団員の一人に足を止められた。
「なに? ミルピィ様、今は早いところ部屋にこもりたい気分なんだけど」
「まあ少しくらい聞いてくれよ。頼みがあるんだ」
「……どんな?」
「美味しいご飯作ってくださいお願いします」
「忙しいので僕はこれで」
「待って待って……いやちょっと待ってってば旦那!?」
しつこいなぁ。
しょうがないから足を止める。既に部屋に足を踏み入れていて、扉を閉めようとしていたところだ。半開きの扉越しに話を聞く。
「別にタダでってわけじゃねえ。旦那にもメリットがある話だ」
「ふぅん……」
「旦那が料理した日は、俺らが旦那を敬って扱うってのはどうだ?」
団員たちを侍らせて、うちわを扇がせながらトロピカルなジュースを飲ませてもらうところまで想像した。
ちょっと面白そうだけど、あんまり近くで世話してもらうのはあまり好きじゃない。僕のパーソナルスペースは広い。
「微妙。ミルピィ様は副団長だからね。最初から命令権持ってるし」
「うっ、確かに……」
「そもそも君たちがミルピィ様にできることなんてあんまりないよね」
今の提案が彼らの限界だったのだろう。
もういいかな、扉を閉めても。
そう思ったとき、他の団員数名がこちらへ向かってきた。
「旦那ー、料理してくれえー」
援軍か。
でも、数が増えたところでどうにもならないよ。僕は数には屈しない。情に流されたりもしない。冷徹な副団長様なのだ。
「旦那が飯作ってくれたら、団長が良いことしてくれるってよ」
閉めかけていた扉を開けた。
「詳しく」
団員の後ろに隠れて見えなかった団長が前に出てきた。
「そうねぇ……頭撫でる?」
「そんなことでこのミルピィ様が動くとでも……? ……でも、まあ……うん」
「おい、満更でもなさそうだぞ」
「団長、もう一息!」
「そう言われても、何かあるかしら?」
「僕は動かないよ! やりたくないのに料理したりしないからね! まあ、団長が食べさせてくれる料理なら作りたいと思うかもしれないけどー」
「ミルピィが料理するなら、それを食べさせてあげる」
「みんなー、今日はステーキだよ! 今日のために一番美味しい部位を熟成させていたんだ!」
「「「うおおおおー!!」」」
=====
料理というのは焼き加減で台無しになるものだ。
特にステーキはそれが顕著なものだろう。
下準備は万全。
後は焼くだけ。
「だから僕が焼くって」
「危ないわよ。油が跳ねて火傷したらどうするの」
「そのくらい大丈夫だって」
「火傷の跡は残りやすいのよ。ミルピィの肌にシミでもできたら大変じゃない」
「大袈裟なー」
団長の心配性にも困ったものだ。
お陰で僕は指示することが殆どで、半ば団員たちに作り方を教えているようになっている。
「旦那! 火の準備が出来ましたぜ!」
「よし、じゃあ焼いてくよ」
絶妙な焼き加減を目指すから僕がやりたかったけど、考えてみたら【解析】で様子を見るだけだから人にやらせても問題なかった。
細かく指示しながら団員に焼かせる。
出来た。
後は肉汁からソースを作る。
出来たてが一番美味しいから、出来たものから出して食べてもらう。次々焼いていく。
全員分焼き終わり、調理をしていた僕らもようやく食事の時間だ。
待ちに待った食事だ。
食べさせてもらう約束。
浮かれていた。
僕は浮かれて、たいして考えていなかった。
仮面、どうしよう……。
普段は幻術を掛けてから仮面を外して食べている。
でも、幻術を掛けると食べさせてもらうのは難しい。目標が定まらず、下手したら変なところにステーキを突っ込まれそうだ。そんなのいやだ。
それでは楽しむことができない。
「うん、部屋で食べよう」
団長はその理由を察したようで、素直に頷いてくれた。
そそくさと広場から出て行く。冷やかしを受けたくないからなるべくこっそり。
自室、着。仮面、脱。
「団長、あーんっ」
「はいはい、ちょっと待ってね」
切り分けられたら肉を一口。
あぁ、養われている感じが凄いする。大事なことを任せている信頼感。自分で出来ることを敢えてやってもらうという甘え。
ええ、満足です、はい。
いろんな意味で美味しいご飯を食べた後は、のんびりと寛ぐ。片付け? 勿論他の団員たちがやってるよ。
僕はマッドなサイエンティスト。白衣を羽織る。
この白衣は盗品の中にあった白い布を使って裁縫したものだ。服でも作ろうかと思い、だけど複雑な縫い方や形状を面倒くさがった結果白衣になった。これなら比較的シンプルな作りだし、サイズがあってなくても大丈夫。
ちなみに、良い生地だったのか着心地がいいから肌寒い日はパジャマの上に重ね着して寝ることもある。最近は暑いからたまにだけど。
コトリ、とテーブルに置いたのは保存液と眼球の入った瓶。サキュバスの目玉。
今回はこれを使います。
これを入手した当初、目玉に宿る魅了の魔力を利用した魔道具を作ろうかと考えていた。
でもいろいろ足りなくて無理だった。それで放置することになってからはずっと部屋にあったわけだ。
魔道具にできるほど効果が無いのなら、いっそ使い捨てる。薬の素材にして一回限りの効果を発揮させることにした。
この間、団長はこの目玉を見たとき薬に入れてないか訊いてきた。いいヒントでした。インスピレーションが働いた結果、本当に薬に入れることにしちゃった。
目玉をクラッシュ。
……おぇ。
すり鉢の中がグロテスク。
目を細めて視界をぼやけさせて凌ぐ。乾燥した薬草を投入していくと、だんだん目玉の原形が消えていった。
……出来た。
惚れ薬。
効果は単純。二人が飲むと、多く飲んだ方が少量だけ飲んだ方に魅了される。効果は一時的なものだけど、十分な代物だと思う。
使い道は…………今のところない。
いや、本当に。別に、団長に飲ませようかなぁ、なんて思ってないから。
最初はちょっとだけ思ったけど、団長にサキュバスの目玉を飲ませるのは気が引けた。あと、僕も飲みたくない。
売るとしても材料の問題で惚れ薬はこれ一杯だけ。ぶっつけ本番になるため、【解析】で効果が分かる僕ならともかく、他の人は怪しすぎて買わないだろう。
かといって知り合いに渡すってのもなぁ……。
うん、死蔵決定。
丈夫な保存用の瓶に詰めて、適当に仕舞った。
まあ、今回は面白いもの作ったという結果に満足しておこう。




