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58話 魚捌ける人尊敬する

 創作意欲が湧いた。

 というか、ぶっちゃけスープに飽きた。


 美味しい物が食べたい。それも、自分好みの味付けのものだ。

 厨房に入り、食材を確認する。

 パン、乾物系、簡単な調味料、あとは日持ちする野菜が少々。……少ない。


 うーん、今から町に行ってたら遅くなるし、その辺の野草じゃたかが知れてるしなぁ。

 今日は断念。明日、早めに帰ってきて料理をしよう。



=====



 さて、いつも通り町へとやってきました。

 折角だから皆にも良い物食べさせたいよね。まあ、調理道具の関係上、煮込むものにはなるんだけど。

 高級な煮込み、スープ……ビーフシチュー。


 牛の肉、売ってないんだよね。

 でも僕には【解析】さんが付いている。お願いします、それっぽい材料を見繕ってください。


 ……たっかぁ。

 【解析】さんによると、美味しいビーフシチュー(仮)を作るためには結構なお値段が掛かるらしい。

 中でもお高いのはやっぱり肉。


「この肉、もっと安くならないの?」


 肉屋で値切りチャレンジ。


「オーガタウロスの肉か。高級な肉だが、この部位は他よりもすじが多い分安いやつだぜ? それでもこの値段なんだから、買えないなら他の肉のほうが満足できると思うが」


 やんわりと断り、別な肉をすすめられた。

 でもオーガタウロス、鬼牛か。一応牛の肉だったのね。

 部位はじっくり煮込むから問題ないんだけど、値段……。


 盗賊らしく盗ってやりたいけど、この町にはまだまだ通うつもりだから下手なことはしたくない。


「兄貴なら自力でもオーガタウロスを狩れるんじゃないすか?」

「え、その辺に居るの?」

「うす、ちょっと歩けば生息地です」


 高級肉が大量に手に入るチャンス。

 狩りに出たら今日の夕食準備には間に合わなくなってしまうけど、数日分の美味しい肉は魅力的だ。よし、ビーフシチューは明日にしよう。今日は食材集めに専念。


 したっぱ君の案内で牛の生息地に向かう。彼は一応現地民だからね。連れてきてよかったと思う瞬間だ。

 うちのアジトとは反対の方角に進み、茂みの向こうの洞窟に辿り着いた。


「あそこ、オーガタウロスの住処らしいです。あ、ちょうど出てきましたよ」


 出てきたのは、牛柄の鬼。肉付きが良くて、顔が怖い。

 右手には丸太のような木の棍棒、左手には葉っぱを鷲掴みにしている。……葉っぱはおやつかな?


「オーガタウロスが高級食材な理由は、美味くて強いかららしいす」

「結構な巨体だね。パワーもありそうだし、近付かないで倒す方向で」

「うす」


 まず、洞窟から離すために【虚像】で幻術を見せる。

 幻術に誘われてこっちへと近付いてきた牛へ――【投擲】!


 投擲したマジックアイテムのナイフが額に直撃して、巨体がぐらついた。けれど、それだけだった。


「げっ、脳まで通らなかったみたい」


 一発で仕留めるつもりだったから予想外だ。

 取り敢えず、これ以上こっちに向かってこないように幻術で攪乱しておく。


 石頭にはナイフが通らない。胴体は脂肪と筋肉が厚くて致命傷は難しそう。……あれ、詰んでない?

 首なら通るかな。気管まで刺さらなくても、ある程度深ければ出血死を狙えるはず。


 ……。


 …………。


 遂に倒れる鬼牛。辺りには血が飛び散っている。

 投擲で首の血管を切ったまではよかったけど、それからなかなか倒れなかった。ほんとしぶとすぎ。

 幻術で煽って動くように促して、じわじわ出血させてようやく力尽きた。


「さあ、君の出番だよ」

「あぁ、やっぱり俺が解体するんすね……」

「君以外誰が居るのさ」


 あとはしたっぱ君の仕事だから、僕は待つだけ。

 待ちの戦いも長かったけど、解体作業も時間が掛かりそうだ。



=====



 頑張って肉を運搬した(したっぱ君が)次の日。

 やってまいりました、ミルピィクッキングの時間が。


「あなた、料理できるの……?」

「僕を誰だと思ってるの! ミルピィ様だよっ!」

「知ってるわよ……」


 僕が料理をすると聞いて駆けつけた団長。折角だから手伝ってもらうことにした。

 大鍋を掻き回す力は僕にはない。労働力が欲しかったからちょうどよかった。


 まず、食材を切る。

 大丈夫、手先の器用さには自信がある。だから多分大丈夫。ええっと、猫の手猫の手……。


「……ミルピィ、料理した経験は?」

「お菓子づくりなら何度か」

「食材は私が切るわね」


 団長に食材を切ってもらい、次の行程へ。

 炒めます。


「あちちちち」


 鍋の上熱い。


「ああっ火の粉が服に!?」

「え、うわぁ!?」


 慌てて服を叩き、火の粉を落とす。……あぁ、服に穴開いた。

 もういいや、煮込もう。


 焦げないように混ぜる作業は団長が引き受けた。


「ねえ、このごろごろ入っているお肉って、ミルピィが昨日持ってきたあれよね? 高級肉の」

「そだよー」

「初心者がいきなり手を出すような物ではないわね……」


 おや、団長は料理の成功を疑っているようだ。

 大丈夫大丈夫。だって僕には【解析】さんが付いているからね。デウス・エクス・マキナ。どんなに過程が雑でも全て丸く収めてくれる。


 いい感じ(解析さん判定)に煮込んだら次の行程。解析さんチョイスの香辛料やら調味料を入れていく。

 素晴らしく目分量。ざばー。


「ちょっ今何入れたの」

「香辛料各種、名前は知らない」

「ちょっとぉ……」


 謎の粉末を次々入れていく。煮込んで混ぜて混ぜて完成。



=====



 広場で配ったビーフシチューモドキは大好評だった。

 多めに作ったけど、おかわりでどんどん減っていく。


「あれで、どうしてこんなに美味しいのよ……」


 団長、今日はボヤきが多いね?


「ふふふ、これがミルピィ様の本気だよ」


 【解析】をフル稼働した力だね。

 それにしても美味しい。【解析】があればいろいろな料理を作れそうだし、今後も暇なときに料理しようかな?


「旦那ってこんなに料理が上手かったのかよ! もっと、毎日食いてえよ旦那ぁ!」

「これからは旦那も料理の当番表に組み込もうぜ」

「作りたいときに作るのはいいけど、当番仕事としてはやだ」


 やるべき事、やらなければいけない事となると意欲は湧かないものだ。やるとしたらやっぱり趣味の範囲でだね。


「ミルピィは料理をするのはいいけど、一人で厨房に立たないでね。危なっかしくて怪我しそうだから」

「……はーい」


 子供じゃないんだからと思ったけど、今日団長が居て助かったのは確かだから反論はやめておいた。

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