57話 洞窟でもちゃんと掃除している
朝目が覚めると、団長の寝顔が目の前にあった。
「っ……」
うっかり顔が熱くなる。
そうだそうだ、昨日は団長と寝たんだった。ふう、不意打ちを喰らってしまったよ。
それにしても団長って美人さんだよね。寝顔を見ると余計にそう思う。整った顔をしている。
……まだ起きないよね?
横になったまま顔を近付けておでこをくっつける。
近すぎてよく見えないくらい近い。息がかかる。あ、鼻が当たった。これもう少し近付いたら唇もぶつかる……?
そのとき、団長のまぶたが開いた。
「……おはよう」
「っ!?」
団長は勢いよく起き上がった。そして一気に顔が赤くなる。
……別に、変なことはしてないよ? そんなに意識しなくても大丈夫大丈夫。……はぁ、それにしても熱い。
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「え、団長、それは流石にどうかと思うよ……?」
ちょっと気まずい朝を過ごしたあと、朝食を団長と一緒に食べながら寝る前に考えていたことを訊くと、あれな答えが返ってきた。
Q:髪の毛伸びたらどうしてるの?
A:肩辺りまでナイフでばっさり。
これは酷い。
「ちゃんとその後整えたりはしてるわよ」
「どうせ切り残しを切るくらいでしょ。駄目だよ団長、髪の毛は大切に扱わないと」
「う、でも、自分で切ると難しくて。やってくれる人も居ないし」
あー、確かにこの生活では髪を整えてくれる人が居ないか。男達に任せるのは不安しかない。
「それに、ミルピィだって似たようなものじゃない? 髪切ってないでしょ」
「僕は髪を人に触られたくないから。わざわざ自分で切ろうとも思わないし」
切りたくなくて切らないのと、切りたくて可笑しな手段に出る人では全然違うと思う。
「まあ、あなたはそれでもいいのでしょうけど。綺麗な髪だし」
「団長だって綺麗な髪なんだから気をつけないと。切るときは僕に言ってね」
「ええ、そのときが来たら頼むわね」
あ、それまでにハサミを用意しないとね。
ここにも一応あるにはあるんだけど、閉じる度にジャッキジャッキと音が鳴る力強い物しかない。硬い物を切るものだから繊細な使い方には向かないんだよね。
「ところで、今日の予定は?」
「何もないよ。強いて言えば団長とお喋りすることかな」
「雨は止んだそうだけど、町へは行かないの?」
「んー、ぬかるんだ道歩きたくなーい」
「……まあ、大雨の後の森は危ないかもしれないわね」
「でしょでしょ。というわけで今日のミルピィ様もまた、お休み」
大雨が降った。2回休み。いやぁ、運が悪かったからしょうがないね。
「団長はやることでもあるの?」
「今日はたいして無いわね。部屋の掃除でもしようかしら」
「なら手伝うよ」
「そう? あ、それならついでにあなたの部屋も掃除しましょうか」
「うん、そうだね」
今日の予定、団長と一緒にいる。
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「団長の家捜しだー!」
「散らかさない」
はいはい、ちゃんと掃除しますよ。粛々とね。
埃叩きでパタパタと高いところの埃を落とす。団長はこまめに掃除をしているらしく、思ったより埃が出てこない。
「……うっ、ケホッケホッ」
しかし、少しの埃でも過敏に反応するのがこのボディ。
「ああ、口元を布で覆わないと!」
「ケホッ、仮面じゃ駄目、だったか……!」
……がくっ。
団長に渡された布を仮面の上から被せ、口元を覆った。
「全力で怪しい姿よね。その格好で街を歩いてたら通報されるんじゃない?」
「仮面だけでも今更なんだし、それを布で覆ったくらいでそこまで変化無いって」
そう言いながら部屋にあった鏡で自分の姿を確認する。……おぉ、不審者がそこにいる。
なんというか、仮面ではぎりぎりそういうものだと認識できていたけど、それの口元を布で覆うと怪しさが倍増する。
「……まあいいや」
それがどうしたって話だね。
埃叩き再開。
物が散らかっているわけじゃないから埃を落とした後に掃き掃除をして、棚なんかを拭き掃除したら終了。すぐに終わった。
「団長の部屋、あんまり物ないね」
「これでも必要な物は一通り揃っているわよ。引っ越したばかりだし、余計な物が無いだけ」
次は僕の部屋だ。まあ、ミルピィルームもちゃんと掃除してるからすぐに終わるはず。
部屋に入ると、机を中心に器具や怪しげな植物などが散乱していた。……あっ、昨日調合したあと片付けてなかった。
「えっと、普段はちゃんと片付いてるんだよ……?」
「それは知ってるけど……よくもまあこんなに揃えたわねぇ」
まずは調合道具と材料を片付ける。
団長は取り扱いが分からないため、最初は見ているだけ。
「ねえちょっと、この瓶、目玉が入ってるんだけど……昨日のに入れてないわよね?」
「そんなナマモノ入れたりしてないから安心して」
保存液で満たした瓶。目玉の持ち主はサキュバスの魔物。市場で見つけたんだけど、【解析】で調べたから間違いない。サキュバスの目玉には魅了の魔力が宿っているから興味本位で買って手元に置いている。
「心底安心したわ……。あなたの部屋、いろんな物があるわね」
「目移りしやすい性格でね」
調合キットの他にも作りかけのぬいぐるみや同じく作りかけの魔道具、偶に書き進めている調合レシピ書なんかもある。一応散らからないようにそれぞれまとめて小箱に仕舞ってベッドの下に収納している。
調合キットを片付けて、元の場所に仕舞うために幾つかの小箱を出す。ちゃんと並びが決まっているのです。
暇をしている団長は、ふーんとか気のない返事をしながら小箱を開けてみていた。別にいいけど、大したものはないよ。
「って、それ中身は……!」
あったよ、大したものが。
制止が間に合わず、中の物を団長が見てしまう。あーあ……。
「えっ何これ!?」
ミルピィコレクション、団長の隠し撮り写真。
ふぅ、見つかってしまったか……。使用頻度の高い小箱だったから取り出しやすいところに仕舞っていたのが敗因かな。
でも慌てるにはまだ早い。団長が驚いているのは写真自体を見てだ。写真は僕特製の魔道具で撮ったもので、この世界にもカメラは存在するけどマジックアイテムでアホみたいな値段がするため貴族しか使わない。だから団長は、写真を見るのはこれが初めてなのだろう。このことを利用するんだ。
「これで撮ったんだよ」
そう言って、カメラの魔道具を見せる。意識をカメラに向けさせ、写真の内容から逸らさせる作戦。
実際に撮ってみせる。
「……怖いくらい精密ね」
「写しとるだけだからね」
「ねえ、それ誰でも使えるの?」
「うん。魔力充填式だから予め魔力を込めておけば使えるよ」
貸して欲しそうだったから魔力を入れてから渡した。
使い方を教えると、団長はカメラを僕に向けてシャッターを切った。
「凄いわねこれ」
「そうでしょうそうでしょう」
「あ、今度はその仮面取って? 素顔のミルピィを撮ってみたいの」
えぇー。うーん。まぁいっか。
団長相手には今更だし、写真くらい撮ってもいいや。被っていたフードを脱いで仮面を外す。それと少し髪型を直した。
「どうぞー」
パシャー……現像中……。
うん、かわいく撮れてる。変顔にならなくて良かった。撮られ慣れてないとちょっと恥ずかしいね。
「僕が持っててもしょうがないし、それはあげるよ」
「本当? ありがとう、それじゃあ大切にさせてもらうわ」
「どういたしまして。それじゃ、そろそろ掃除を再開しよ」
ミルピィコレクションについて追及される前にさっさと片付ける。ふぅ、乗り切った。
後々になって団長がミルコレを思い出したとしても、そのときに改めて訊いてきたりはしないだろう。団長がこれについてどう思うかだけど、悶々とさせるのも、ちょっといいよね。




