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56話 栄養剤には手間とお金と心を込めて

 宴会が終わり、後片付けをしたあとは自室に戻ってきた。ちなみに今日は宴会のときにつまんだものが夕食だ。体と髪を洗って服を着替えて寝る準備を早めに済ませる。

 さて、調合の時間がやってきた。


 一通りの道具は揃えて自分の部屋に置いてある。

 それらを机の上に並べ、乾燥させていた薬草なども並べる。


 まず最初に、根っこやら木の実やら葉っぱやらを小鍋に入れて煮る。

 次にすり鉢へ材料を入れてごりごり。もうちょっと足してごりごり。タイミングをずらして別の材料を投入してごりごり。

 すり潰したものを別の器に移して、とある花から抽出した蜜を入れて混ぜる。粘りが出てきたら捏ねる。

 

 今度は捏ねて出来たお団子を薬草を煮た汁で少しずつ溶かす。どろっとした液体になったところで完成。

 疲労、特に魔力の使いすぎに効くお薬。早速団長にお届けしよう。


 団長の部屋を訪ねてコンコンコンコンドアを連打する。


「だんちょー! 入るよー!」

「ミルピィ? ちょっと待ってて、今着替えているから」


 え? 着替え中? ……ごくり。


 僕は今まで団長のお色気シーンを見たことがない。

 でも、考えてみれば僕は見られている。むしろ僕だけ何度も見られている。これはちょっと不公平ではなかろうか。いや、不公平だ。不公平に違いない。ここはやっぱり公平にするために必要なことがあるんじゃないかな?


 ……バーン。


 欲望……もとい、なんでも平等公平が大好きな日本人の精神が働きかけた結果、僕は扉を開け放った。


「……待っててと言ったのに」

「まあまあ、減るものじゃないし恥ずかしがらなくてもいいんだよ?」

「普通にマナーとして言ったのだけど?」

「僕と団長の仲じゃない」

「私は礼儀って大切だと思うのよ」


 団長はつれないね。でも、下着姿だった! 民主主義万歳!

 なるほどなるほど。【解析】で知っていることと実際に見ることは全然違う。僕は今、それを実感している。

 なんというか、話に聞いていた3Dと実際に見た3Dの大迫力の違いというか!(錯乱)


 しっかりとこの目に焼き付けるために仮面を外す。

 そして、そろそろと近付く。


「ミルピィ? その手はなに?」

「栄光をこの手に!」

「やめなさい」


 両手を伸ばして突撃したけど、頭にズビシと手刀をもらってあっさりと止められた。

 その後、団長は素早く服を着て着替えを終えてしまった。残念。


「それで、なんの用?」

「あ、そうそう、いつものあれ持ってきたよ」

「またあれね……」


 ポケットの中から先ほど作成した薬の入った小瓶を取り出す。

 うん、今回のもドギツイ色をしている。


「はいどうぞ」

「うっ、これ、何度飲んでも慣れないのよね……」

「ちゃんと飲まないと駄目だよ。団長、最近疲れ気味なんだから」

「まだ大丈夫だと思うのだけど、あなたが言うならそうなのでしょうね……」


 団長は諦めのため息を吐くと、小瓶の中身を一息に飲み込んだ。


「どう? お味のほうは」

「それ訊く? もの凄く苦いわよ」

「うーん、味も良くしようとするともっとお金が掛かるからなぁ」

「もっと? あなた、これに幾ら使ったの?」

「んー、銀貨5枚くらい?」

「げ、銀貨」


 もっと良い薬を作ろうといろいろ加えたりするうちに、一杯そのくらいのお値段になっていた。

 僕はいつも町の薬剤師の店で材料を買っている。最初は自分で収集していたけど、疲れるしその辺の植物じゃ限界があるからね。薬剤師の店は自分でも使ってるだけあっていい物を揃えている。……その分高いけど。

 でも、その甲斐あってとても良く効くはずだ。


「今日はゆっくり休むこと。たまにはスキルも解いてリラックスしたほうがいいよ」

「けど、【索敵】をやめるわけには――」

「今夜は僕が見張っておくからさ。今日は雨で人も寄り付かないだろうし」

「ミルピィが? あなた、徹夜できるの?」

「いや、甲冑君あたりでも出して見張りをさせるけど」


 魔物や人を警戒するだけなら、一晩くらいそれで十分でしょ。


「それじゃあ早速甲冑君出して来るね!」


 一旦部屋を出て新入り三人組の部屋に向かう。あ、仮面着けないとね。

 新入りの部屋の前まで来たら、部屋には入らず【虚像】を発動。幻聴。


 ――カシャン、カシャン、カシャン。


 ――ヒヒーン……。


「「「ヒイイイーー!?」」」


 悲鳴とともに部屋の中からドタバタと物音が聞こえてくる。

 そこで扉を開けて、けれど中には入らない。すると、彼らは恐怖の虚像を幻視したのだろう。『嘶く甲冑』が実体を持って姿を現した。


 はい、お邪魔しました。

 目的が済んだので扉を閉める。


 それで甲冑君に見張りを頼んだら団長の部屋に戻る。


「見張り置いてきたよー」

「どこからか悲鳴が聞こえたわよ?」

「甲冑君を呼び出すためにちょっとね」


 団長のためだし、しょうがないよね。


「じゃあ一緒に寝よ」

「え」

「ちゃんと休んでるか見張る必要があるからね」


 団長は心配性だから、こっそりスキルを使わないか監視しないと。

 別に、僕が一緒に寝たいわけではない。うん、これはしょうがないことなのです。


 団長に有無を言わさず一緒にベッドに入る。


「おやすみ」


 そう言いながら明かりを消す。

 明かりが消える直前、団長は少し困った顔で微笑みながら「おやすみ」を言った。


 …………。


 暗闇に目が慣れてきて、ぼんやりと団長の顔が見える。

 まだ眠くない。日中わいわいしたからまだ少しテンションが高いようだ。


 でも、団長にはちゃんと休んでほしいから話し掛けて睡眠を妨げるわけにはいかない。

 代わりに【解析】でもしよう。団長のメディカルチェーック。今日もまた、団長のデータを堪能するとしよう。


 前回の解析より髪の毛が0.1ミリ伸びてますねー。そういえば団長って髪伸びたらどうしてるんだろ。今は背中くらいの長さだけど、この半年、団長は髪を切っていない。前髪は自分で整えてるみたいだけどね。後ろ髪の話。

 長さ的に何年も切ってないわけでは無さそうだけど、伸ばしてるのかな? 起きたら訊いてみよう。


 あ、団長はもう寝たみたい。やっぱり疲れてたんだろうね。

 さてと……ちょっとだけ距離を詰めて密着度を上げる。


 ぬくぬく。

 素晴らしい包容力。今度こそおやすみなさい。

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