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55話 王様ゲームは欲望をさらけ出す

 おままごとが飽きてきたところで、子供たちと一緒に部屋を出て宴会の様子を見に行くことにした。

 広場に近付くと、ワイワイガヤガヤと声が聞こえてくる。どうやら盛り上がってるみたいだね。


「はい次! 裸踊りやりまーす!!」

「ぶっ……!」


 却下だよ却下!!

 止める前にもう既に半裸になっていたから幻術でクマの着ぐるみを被せる。


「あれ!?」

「あ、旦那の仕業か! 何すんだよ!?」

「まったく、変なもの見せないでよね」

「いいじゃねえか別に」

「教育上よくありません」


 もっと健全なことをしてほしい。レディの前ですることじゃないよね。

 レディといえば団長はこの場に居ないようだ。まだ安全確認してるのかな?


「ああ、ガキ達も連れてきたのか。おーい! こっちにジュース持ってきてくれ!」

「わーいジュースー」

「わたしもわたしも!」


 ジュースは、ワインを強奪したときに一緒に手に入れたものだ。ブドウジュース。ピーチが無かったのは少し残念。


「旦那ぁ、これ外してくれよー」

「だって君、それ取ったら半裸でしょ?」

「いや、残りも脱いだから全裸だな」

「ちょっ……!? それで近寄らないでよ!」


 ゆるいクマの着ぐるみの中身は全裸の変態野郎らしい。あ、鳥肌が……。


「裸踊りが駄目なら何すればいいんだよ」

「もっとあるでしょ。ほら、王様ゲームとか……?」


 口に出したはいいけど、これはちょっと違ったかな? 宴会というより合コンネタだ。野郎どもがやっても面白くないだろうね。

 そう思ったけど、酔っ払い達は王様ゲームに興味を持ったようだった。


「なんだよその、王様ゲームって」

「皆でくじを引いて、当たりを引いた人が王様として他の人に命令する遊びだよ」

「王様、キングか……良い響きだぜ」

「命令ってのはなんでもいいのか? くくっ、楽しくなってきたなぁ」

「男だけでやって楽しい?」

「「「…………」」」


 うん、そんなもんだよね。

 お蔵入りしそうなところで、何か別のゲームでも提案しようかな。


「あれ? 妙に静かね?」

「団長!」

「いいところに!」


 盗賊団の紅一点、団長が広場にやってきた。仕事が終わったようだ。

 皆、団長に命令することを想像したのだろう。目が泳ぐ者、生唾を飲み込む者、ぶつぶつと何かを呟く者など、明らかにやましい奴が出始めた。


「なあ団長、俺らちょうど、あるゲームをするところだったんだ。一緒にやろうぜ」

「ゲーム?」

「ああ、旦那が言い出したんだけどよ、王様ゲームっていうやつ」


 その内の1人が、団長にワインを入れたコップを渡しながらゲームに誘い出す。

 彼は興味を持った団長に、そのままルールを説明した。


「へえ、くじで王様ごっこをするのね。いいんじゃない?」

「よし! 団長も参加な!」


 王様ゲームはこの場に居る全員が参加することになった。

 僕ももちろん参加。団長は僕が守る。


「あ、命令は名前じゃなくてくじに書いてある番号を指名して言ってね。自分の番号を人に教えるのは禁止」

「なるほど、そこでも運が試されるわけだな……」

「へへっ、腕が鳴るぜ……」


 くじを作り、一回目。王様だーれだ。


「ティール~」


 一番ちびっ子が最初か。まあ、この子なら安心できる。


「7ばん、王さまをかたぐるま」

「げ、僕だ……」


 肉体労働はちょっとぉ……。

 しかし、王様の命令は絶対。完遂されなければならない。……無慈悲だ。


「ふぬぬ……!」

「ミルピィさま、もっともっと」

「ふにゃー!」

「……あんまり高くないの」

「うにゃー……」


 ミルピィは、力尽きた。


「よし、次やるぞー」

「ほら、旦那もくじ引いて」


 容赦なく急かしてくるね君たち。しょうがないからうつ伏せのまま腕だけ伸ばしてくじを引いた。

 王様だーれだ。


「お、俺だ!」

「ちっ、新入りか……」

「悪いですね先輩方。へへへ、そんじゃあまぁ――」

「新入り、分かってるだろうな?」

「へ? なんすかドウゴさ、ん……」


 超眼力強い。彼と目があった新入り君は表情が引きつった状態で固まってしまった。でも仕方がない。新入り君はさっきから団長をジロジロ見ていたうちの一人だからね。


「ははは、やだなぁドウゴさん。ほんのお遊びじゃないですか……12番が一発芸」


 彼はビビりまくって無難を選んだようだ。

 そして12番は団長だった。変な命令じゃなくて良かった。ナイス睨み、さすが最年長のおっさんだけある。


「一発芸ね……何かあったかしら?」


 こういうのって持ちネタがないと地味に辛いんだよね。

 団長は少し考えると、そこら辺から木の棒を持ってきた。


「これを【掘削】で削って――」


 木の棒は、あっという間に木刀の形に変わった。おおー、パチパチパチ。

 スキルをかなり精密に操る必要がある、結構凄い芸当だ。


「しゃあっ、まだまだ行くぞ! 王様だーれだ!」


 次の王様は……僕だ。

 ふっふっふ、遂にこのときが来たようだね。

 団長が誘われたときスルーしたのも、変な命令を受ける危険を負ってまで参加したのも、全てはこのときのため。


「それじゃあ、1ばー……んはやめて、2番にしようかな? あ、やっぱり3番?」


 番号を呼ばれたときの反応で団長の番号を引き当てる。……分かった、5番だ。

 ふふっ、何を命令しようかな? まあ皆の目もあるしぃ? ここは控え目にしておこうかなぁ?


「5番は王様に膝枕!」

「5番……また私ね」

「卑怯だぞ旦那ぁ! 狙いを付けてただろ!」

「ふふん、王様には逆らえないのだよ」


 早速団長には座って膝を差し出してもらう。

 いざ、膝枕。


「――見上げれば天国」


 団長の胸が屋根のように上を覆っている。すごい……どうやったらこんなになるんだろう。不思議だ。普段自分の平原しか見ていないから、それがこんなに膨らむなんて想像できない。

 ああ、でもここからじゃ団長の顔が見えないのは少し残念。


「チクショウ! 次やるぞ!」

「ミルピィ様はこのままでいいよ。くじ取って」

「旦那ぁ……覚えてろよ?」


 王様だーれだ。


「俺だな」


 団員の一人。人一倍騒がしい団員だ。

 彼は、僕と同じように番号を数え始めた。


「あ、ちょっと、真似しないでよ」

「くくっ、やり返されることも想定しておくんだったな。旦那は9番だな?」

「っ……」


 あ、しまった。反応してしまった。

 当てずっぽうで言ってきたのだろうけど、ドンピシャだったからつい……。


「9番! 自分の幻術を解いて腕まくり!」


 ……?

 なんで腕まくり? 幻術を解いてってことは、何か企んでいるのかな?

 まあ、今は特に幻術を使ってないし、そのまま片腕の袖を捲る。


「これでいい?」

「……ああ、いいぜ。俺は満足だ……」

「……? 変なの」


 その後もゲームは続き、全員が王様か命令の対象に選ばれたくらいで終了にした。

 ちなみに、番号を一つずつ言っていくのは全員がポーカーフェイスを使って通用しなくなったため、ちゃんとランダムに命令が出されるようになった。

腕まくりを命令したのは以前ミルピィの指先に興奮していた指フェチ(17話)。

『顔無し貴婦人』の恐怖を味わったのも彼(25話)。

彼いわく貴婦人の指は美しかったそうな。

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