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54話 雨の日は引きこもろう

「ミルピィ様って今日暇でしょ?」


 普通に起きて、朝食の場で顔を合わせた子供にそんなことを言われた。


「え、なんで知ってるの?」

「お姉ちゃんが、今日は町に行かないと思うって」


 団長に行動パターンを把握されている。

 確かに、仮面も無事に手に入れたことだし、遠征依頼で頑張った分ダラダラしようと思っていたところだ。


「まあ、その通りだね」

「じゃあ遊ぼうっ!」

「んー、まあいいよ」

「じゃあじゃあ、あとで小広場に集合ね!」

「はいはーい」


 最近構っていなかったからなぁ。今日は子供たちに付き合ってあげるとしよう。

 何か面白いネタあったかな?


「おっす旦那。今日も町に行くのか?」


 次に話し掛けてきたのは盗賊団の中堅どころの男。よく気軽に声を掛けてくるやつだ。


「いや、今日は行かないよ」

「おお、なら旦那もどうだ? 今日は雨で出来ることがすくねえから、集まって酒盛りしようと思ってたんだよ」

「あれ、今日雨なの?」

「知らなかったのか? 結構降ってるぜ」


 洞窟アジトの中からじゃ分からなかった。今日は休みにして正解だったね。


「で、一日中お酒飲むつもり?」

「前のワインが結構余ってんだよ。旦那が飛び込んだやつもまだ残ってるぜ」

「ミルピィ漬けのワインかぁ。まだあったんだね」

「何だかんだあれ以来勿体なくて手を着けてなくてな。この際だからぱーっとやることにしたんだ」

「ふーん、まあいいんじゃない?」

「旦那はどうするよ?」

「……団長に禁酒って言われてるから」

「あー、そういやそうだったな」


 どっちみち飲もうとは思わないけどね。前にワインを飲んだとき、お酒の味はまだ早い感じだった。


「ま、気が向いたら参加してくれ。別にジュースでもいいからよ」

「暇になったら行くよ」


 話が終わると、その団員は他の仲間の方へと向かっていった。

 それにしても、今日は雨なのか。言われてみればちょっとジメジメしている気がする。今日は皆アジト内で過ごすのかな。


「ミルピィ、ちょうどいいところに居たわね」

「団長おはよー」

「おはよう」


 今度は団長がやってきた。

 団長は手に持っていた朝食を置くと、僕の傍に腰掛けた。


「それで、ちょうどいいって?」

「ええ、今日は結構雨が強くてね。念の為アジトの地盤や入り口付近の水量を確認しておこうと思っていたのよ」

「あー、地盤はミルピィ様が調べた方が良さそうだね」

「頼める?」

「ふふん、そんなのミルピィ様なら一瞬だよ」

「いや、調べるのだから慎重にお願いね?」

「ミルピィ様なら秒で終わらせるよー!」


 よゆーよゆー。その程度、【解析】先生の処理能力の敵ではない。

 そもそも地盤はアジトを造る前に一度調べているしね。確認程度ならそこまで深く解析する必要もない。


「何なら今やっちゃうよ」

「後でいいわよ。それよりまず、朝食を食べましょ」

「あ、スープ冷めてる……」


 会話中は食べることができない、お上品なミルピィ様なのでした。



=====



 ……地盤調査完了! 問題無し!

 さてと、子供たちと合流しよう。小広場だっけ。


 小広場は少し大きめの空間で幾つかある。でも、ほとんどは洗濯物を干したり物を置いたりと使われていて、遊び場として使える場所となると結局一つだけだ。そこは子供部屋とも呼ばれている。はい到着。


「おまたせー、ミルピィ様がやってきたよー」

「ミルピィさまだー」

「遅いよー!」


 そこには、女の子3人と男の子1人で僕を除いた未成年組が揃っていた。


「遅いって、朝食を食べてただけだよ」

「ミルピィ様、食うの遅いもんな」

「丁寧に食べてるの」


 トロいわけじゃないんだよ? それにほら、いろんな人が声を掛けてきたから。


「それで、何するの?」

「おままごと!」

「じゃあわたしダディやる!」

「ティールはしゅうとめなの」

「げ、俺もそれやんの?」


 おままごとは男の子にはつまらないだろうね。4人の中では一番年上だし。

 でも、それは普通のおままごとの話だ。


「ふっふっふ、このおままごとのスペシャリストに任せなさい」


 指ぱっちんと同時に【虚像】で部屋の模様を変える。町でよく見る一般家屋、その一室だ。


「役を決めたら言ってね。コーディネートしてあげる」

「しゅうとめ、しゅうとめ」

「はい、姑ね」


 どうでもいいけど、その年で姑のどこに魅力を感じたのだろう。……あ、前に僕がふざけて姑ごっこをやったからか。

 庶民、初老くらいかな? そんな感じの服装に変える。


「わたしダディ」

「夫役ね」


 適当なシャツとズボンでいいか。休日を家で過ごす感じで。


「えっとね、それじゃあ娘役」

「おっけー」


 服装はこのままでいい気がするけど、1人だけ変えないのも可哀想だからちょっとオシャレにコーディネートしてあげる。


「俺は何でもいいや」

「じゃあ妻役ね」

「えっ……」


 残りの配役的にね。

 如何にも主婦って感じの服装に変えた。ついでに髪の毛も伸ばした。


「おおぉ?」

「ププッ、ラスク、似合ってるよ」

「笑ってるよな……?」


 さてと、僕は何にしようかな?

 夫婦に娘と姑。このご家庭に、ちょっとしたスパイスを。


「じゃあミルピィ様は、夫の愛人やるね」


 色っぽいお姉ちゃんに変身。


「始め!」

「ラスク、ラスク、部屋のすみにほこりがたまってましてよ~」

「やっぱ父方の姑か……。はいはい、今掃きますよ」


 開始早々姑が嫁いびりを始めた。こんな家庭は嫌だ。


「ラスク、ご飯はまだ?」

「お母さんお腹すいたよ」

「今掃除しているから」

「ティールもお腹すいた~」

「お前が掃除しろって言ったんだろ!?」


 嫁、めっちゃ不憫。

 その場の雰囲気に合わせて、幻術で妻役少年の姿を少し埃っぽくして、手にホウキを持たせた。


「すげぇ、このホウキ、本当に持ってるみたいに感触があるよ……」

「【虚像】で作り出した錯覚だけどね」


 嫁はホウキで掃いて部屋を綺麗にしたら、料理を始めた。作るのはほとんど割愛して、さっさとご飯を出す。料理の内容は、僕が適当に考えて幻術を作った。


「はい、えー……夕飯です」


 料理名が分からなかったみたいだ。ちなみに僕が作った幻術はお子様ランチ。子供にはこれだよね。


「おいしそー」

「でも、食べれない……」

「ラスクぅ……」

「これは俺のせいじゃねえよ……?」


 誰かのお腹が鳴る音が聞こえてきた。さっき朝食を食べたばかりなのにね。

 皆が適当に食べるふりをしたら料理を片付ける。その後は再び嫁いびりが始まり、就寝までそれが続いた。


 ……これ、僕が出ていくタイミングが無いんだけど。夕食からのシチュエーションだと愛人は必要ないよね。

 結局僕は、嫁がいびられても精一杯頑張っているのに夫には愛人がいるという、悲しい設定を作り出しただけで出番はなかった。

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