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53話 おニューの仮面を買いました

 遠征依頼を受ける前、僕は新しい仮面を探していた。

 それっぽいお店をいくつ回っても全然見つからなくて長引いたけど、今回、ようやく目星が付いた。


 僕は今まで自分の行動範囲近くしか見ていなかった。でも、考えてみたら立派な仮面なんて売っているのは、それを使う機会のある貴族が赴く場所くらいだ。平民が行き交う商店街になんてあるわけない。

 ということで、リッチな御方向けのお店が並ぶ高級通りにやってきた。


「さあ、行きましてよ、したっぱさん」

「うす、じゃなくて……はい、お嬢様」


 今回の幻術は貴族風のお嬢様とその世話役。したっぱ君にも幻術を掛けてある。


「お嬢様、したっぱさんはやめませんか?」

「……そうね、なんて呼ぼうかしら?」

「お、私の名前はターオズですが」

「そのまま呼んだら幻術の意味が無いじゃない」

「確かにそうですけど、今までも呼んだことないじゃないすか……」

「まあ、少しの間くらい呼び方なんて無くてもいいわ。それと、敬語が崩れていましてよ」

「おっとと……」


 役作りはこんなところでいいかな。

 よし、一軒目行ってみよう。


 服屋、ハズレ。

 革物屋も当然ハズレ。

 奴隷商……なんでこんな店が普通に並んでるの。入るの間違った。もちろんハズレ。

 SMショップ――、


「怪しい通りに入ってしまったようね。戻りましょう」

「あ、仮面ありましたよ」

「それは用途が違うのよ……」


 はい、退散退散。

 一度戻って別の方向に進む。


 また服屋、ハズレ。その隣の装飾品店――あった。アタリだ。

 おおー! あるある、並んでいる。これだよこれ、これを探していたんだよね。


 早速一つずつ手に取って――【解析】で調べていく。

 いや、僕には見た目の好み以外に良し悪しが分からないからね。材質や強度、着け心地などを解析していく。

 そうして選び抜かれた物の中から今度こそ自分の好みで選ぶ。


「……これなんてどうかしら」

「似合っていますよ、お嬢様」


 したっぱ君は役作りを頑張っているみたいだ。言ってることはその場に合っているけど、今のお嬢様の姿に似合ってもしょうがないよね。

 でも、この仮面は良さそうだ。これにしよう。あ、予備にもう一つ買っておこうかな?


 カランコロンと、鳴ったわけではないけど新たな来客が訪れた。

 うわデブ……思わず目を逸らした。


「……あの人、領主様ですよ」

「あのデ……あの御方が?」

「はい、ナガテゼア・メーテトレ男爵です」


 へえ、領主様がなんとも肥えちゃってまあ。あと名前覚えにくい。

 男爵……当然ながら貴族か。貴族でデブで、僕にとって良いところがないね。それはしたっぱ君にとっても同じみたいだ。彼は睨みつけるようにデブ領主のことを見ている。……というか睨んでる?

 取り敢えず、幻術の表情を変えて相手にバレないようにしておく。


「どうかしまして?」

「あ、いえ、何でもございません」


 したっぱ君はそう言うと、すぐに視線を領主から外して普段通りの表情に戻った。

 んー……? したっぱ君もデブは嫌いなのかな? まあ、飢えに苦しんでいた彼があんな領主の姿を見て苛つくのもしょうがないか。早いところこの場所から離れるとしよう。


 予備の仮面は適当に選んで会計を済ませる。

 会計のとき、デブ領主にちらっと見られた気がするけど、特に絡んでくることもなかった。そのまま店を出る。

 ある程度進んだところで人の居ない場所に入り幻術を別の姿に変えた。二人とも平凡な男性の幻術。


「あ、あー。ごほん。よし、用事は済んだし今日はもう帰ろうか」

「畏まりました」

「いや、それもういいから」

「あ、うす」


 結構歩いて疲れたけど、欲しい物が手には入ったからこれは有意義な疲労だね。早速袋から仮面を取り出して装着する。周りには幻術で見えないけど、実物で顔を隠していると安心感が違う。ふぅ、安らぐ……。



=====



 帰宅して夕食を食べた後、したっぱ君に稽古を頼まれた。

 幻術を使うだけなら特に疲れないから快諾。外に出て早速幻術の剣士を数人出した。


「はい、頑張ってー」


 ひたすら避ける特訓。

 避けるのに余裕が生まれれば、落ち着いて攻めに転じることもできるようになる……はず。元々怪我をしないための特訓だから、それでどこまで強くなれるのかは知らない。

 ……うん、さすがにもう少しちゃんと面倒を見ようかな? したっぱ君もこれだけやる気を出していることだし。


 適度に訓練をしたところで幻術を消して、したっぱ君を呼んだ。


「これから、スキル制御の訓練をするよ」

「本当ですか!」


 おお、思っていた以上に期待していたみたいだ。これは是非とも応えてあげなければ。


「まあ、まずはスキルの説明からだね。休憩しながらにしようか」


 適当なところに座り、水筒と干し芋をポーチから取り出す。……うん、意気込んでいる彼には悪いんだけど、食べ物をつまみながら気楽にさせてもらうよ。ずっとただ喋るだけは疲れるし。


「じゃあミルピィ様のスキル講座を始めます。はい拍手ー」


 パチパチパチパチ(二人分)。


「まずはそうだね、したっぱ君はスキルの仕組みを知ってる?」

「仕組み、ですか?」

「スキルとは、強い魔力に宿るものです」


 この段階で既に頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいる。ここから話していこうか。


「人はみんな魔力を持っているけど、魔力は人によってどれも違うものなの。そして一際強い魔力は、何らかの特性を持つようになる。それがスキルね。例えば、魔力が部分的に肉体を補助する特性を持っている場合が戦闘スキルの多くだね。ミルピィ様の【投擲】もこれに当たります」

「じゃあ、兄貴の【虚像】はどうなってるんすか?」

「あれは魔力が他のものに干渉するタイプだね。【虚像】はちょっと特殊でいろんなところに干渉できるから、あんまり参考にならないかな。ちなみに、自分に影響を与えるスキルは持続性が高いものが多いけど、外部に干渉するスキルは魔力消費が激しかったりとデメリットが大きいものが多いよ」


 あくまで傾向だけどね。

 あと、外部と内部の両方に干渉できるスキルもある。【虚像】も一応はこれに該当するかな? 団長の【索敵】も、魔力の網を張る生体感知と感覚を強化する五感感知で両方を使える。【掘削】は穿つことに特化した魔力を放出するだけだから外部干渉タイプ。


「したっぱ君の【活性】は、自分に影響を与える内部干渉タイプね」

「スキルが外から見ても分からないのは、ちょっと地味ですね」

「その方がスキルの特性を把握されにくいから便利だよ。それに、肉体に干渉するスキルは戦闘に向いているものが多いし」


 だから戦闘スキルなんて呼び方をするわけだし。


「へえ、さすが兄貴。いろいろ詳しいんすね」

「ふふん。ミルピィ様は博識だから」


 ……【解析】って、便利だよね。

 暇なときにいろいろと解析している。知識欲が満たされるから、結構楽しいんだよね。頭痛が怖いから回数を決めているけど。


「じゃあ、このことを踏まえてスキル制御の練習をするよー」

「うすっ」


 まず……何しようかな?

 僕は最初から魔力を使いこなせていたからなぁ。元々無かった感覚だから魔力の流れをすぐに捉えることができたし、分からないことは【解析】で調べることができた。

 んー、とりあえず【解析】で様子を見ながらかな?


 というわけで、したっぱ君の魔力の流れを【解析】で把握して、それを伝えることで魔力を感じ取る訓練。


「はい、気合い入れてー。……今ちょっと右に寄ったかな? あ、戻った」

「全然分かんないすよ……」

「うん、そうだね……」


 やっぱり、最初のうちは補助付きのほうがいいのかな。

 【虚像】"錯誤惑う感覚"

 【活性】スキルの制御を狂わせることで、魔力の流れに違和感が出るはずだ。


「どう? 何か感じない?」

「なんか、変な感じはします」

「その感覚に意識を集中させて」


 そんなことを小一時間続け、したっぱ君が何となく魔力の流れが分かるようになってきたところで、日が落ちてその日の訓練は終了となった。

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