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52話 好きと嫌い

 町に戻ったら、あとの処理は全部丸投げして速攻で帰宅した。途中からいつものようにしたっぱ君におんぶしてもらったけど。

 さあ、帰ってきたぞー。ミルピィ様が帰ってきたぞー。


「ただいまー」

「ただいま戻りましたー」

「おお、旦那ぁ! 帰ってきたのか!! それとターオズも」

「よっしゃあ! 待ってたぜ旦那! あとターオズもおかえり。おーい、旦那が帰ってきたぞー!!」


 したっぱ君のおまけ感。

 それにしても思っていた以上にリアクションが大きい。あっはっは、そんなに僕が恋しかったか。しょうがない手下たちだなー。

 調子が良くなって凱旋気分でアジトの奥へと進む。すると、子供たちが僕のもとへ駆け寄ってきた。


「ミルピィ様ー、ご飯ちょうだーい」

「美味しい食べ物!」

「お腹減った~」


 君たち、僕よりご飯なの? なら食べてくればいいじゃん。いつも通りなら今ちょうど夕飯でしょ。何も僕にねだらなくても。


「ああ、ミルピィ、帰ってきたのね。思ったより元気そうで良かったわ」

「団長ただいまー」


 遠出したら疲労するのが常な僕だけど、今回は僕としても思ったより体調が良いんだよね。いや、一回体調崩してるんだけど、そのあと聖女の【治癒】を受けたからかな。


「それで、帰ってきたばかりで悪いんだけど、今問題が発生していてね……」

「問題?」

「薪が無いのよ」

「あれ、もう無くなってた?」


 そういえば暫く買ってなかった気がする。薪は重いから買うときはいつも荷物持ちを何人か連れて町へ行っていた。流石に大量の薪をしたっぱ君一人に運ばせたりはしていない。


「ん? でも、ある程度は拾った枝を使ってたよね。雨が降った様子もなかったし薪が無くてもそこまで困らないんじゃない?」

「ええ、それで私もうっかりしてて薪の補充を頼むのを忘れていたのだけど、ここ最近【索敵】圏内に強めの魔物がうろついていて薪拾いができないのよ」

「じゃあ、料理とかどうしてたの?」

「火を使わずにね……」

「固い」「しょっぱい」「美味しくない」

「お陰で皆こんな感じよ」

「あー……」


 アジトに置いてある食料だと、どうしても乾燥させたものが多くなるからね。僕も干し肉を食べたことがあるけど、革を齧っているようだった。革は齧ったことないけど。


「旦那ぁ、俺、前は普通にしょっぱい干し肉齧って固いパンで腹膨らましてたんだがよ、旦那が来てから舌が肥えちまったよ」

「あのスープがあるだけで顎が痛くならねえで済んだからなあ」

「俺、もう少し旦那の帰りが遅かったらその魔物に挑むところだったぜ」

「やめときなさい、あれは危ないわよ」

「どんな魔物なんすか?」

「【索敵】に引っかかっただけだから、実際にどんな魔物かは確かめてないわね。おおよそは分かるけど」


 団長の【索敵】は相手の危険度もある程度分かる。だからこそ早いうちに危険と判断してアジトに引きこもっていたんだろう。


「まあ、遭遇してたらヤバイよね」

「こうしてみると団長の有り難みが分かるな。四六時中【索敵】をやってくれて危険を察知してくれるんだからよ」


 そのせいで一人で部屋に居ることが多いんだけどね。スキルを常時発動させているのは慣れもあるだろうけど、それでも疲労が溜まりやすくて身体にだるさも出るはずだ。【解析】したからそのくらい把握している。

 また今度疲労に効く薬でも作ってあげようかな。


「それでどんな魔物なの?」

「恐らく狼系ね。匂いを辿られると困るから迂闊にアジトを出ないようにしていたのよ」

「なるほどなるほど……よし、キルしよう」

「助かるけど、大丈夫なの? 疲れてない?」

「そこまで疲れてないし、食事と安眠の方が大事だよね。団長も【索敵】圏内にそんなのが居たら眠れないでしょ?」

「確かに、神経が鋭くなるからちょっとのことで目が覚めるけど」

「それに、犬の魔物って嫌いなんだよね」

「たぶん、狼だけど」

「似たようなものだよ! 団長の安眠はミルピィ様が守る……!」



=====



「ふふっ、ふふふふ……」

「兄貴……」


 おっと、いけないいけない。


 狼討伐部隊は僕としたっぱ君と団長だ。僕は当然として、したっぱ君は戦闘慣れをするために、団長は狼の居場所まで案内するために同行する。

 さらに今回は強力な助っ人を用意しました。


 『嘶く甲冑』こと甲冑さんです。ヒヒーン。

 新入り三人組を脅かして"虚ろなる実像"を発動して呼び出した。


 ――あのときの甲冑、今どうしてると思う? ふふふ……君たちの後ろだよ……!

 余程恐かったんだろうね、そう言ったらすぐに発動条件が成立した。トラウマは時にリアルに恐怖の偶像を思い描く。また必要になったら利用しよう。


 "虚ろなる実像"は僕の必殺技と言ってもいいくらい強力な技だ。

 つまり、それだけ本気。ふふふ……悪しき魔物め、即座に葬ってやる。


「……! 向こうが気付いたみたいね。近付いて来るわよ!」

「よし、皆隠れるよ! 甲冑君あとは任せた!」


 ――ヒヒーーーーン……!


 甲冑君は元気な嘶きをしてみせた。やる気十分でみなぎっているようだね。

 そんな彼にあとは任せて、三人で岩陰に隠れる。


 狼の魔物はすぐにやってきた。そこそこでかい。

 まあ、甲冑君の敵ではないんだけどね。


 噛みついてきた狼を腕で受け止め、動きが止まったところを殴りつける。……嫌な音がした。


「うわぁ……」

「強すぎっすね……」

「あの鎧、どこから連れてきたのよ……」


 グロ注意。

 なんで頭を殴ったんだろう。いや、急所なのは分かるけどね? そのパワーではちょっと……。

 狼は何とか形を保っているけど、歪んでいるし血がドロドロ出てるし、ちょっとこれ以上見ていたくない。


「うえ、したっぱ君、出番だよ」

「はい?」

「あれ、今日の晩御飯にするから。ちゃんと血抜きしないと」

「うへぇ、目玉飛び出てるんすけど……」

「ちょっとぉ、具体的に言わないでよ。もっとふわっと表現して」

「あの魔物、お化けみたいな顔になってます」

「よろしい」

「それでいいのね……」


 さて、下処理は速さが大切。したっぱ君は一人岩陰から出て狼の処理に向かった。

 彼は手頃なナイフを持っていなかったから僕のマジックアイテムのナイフを貸してある。転送テレポートすれば汚れも落ちる優れものだ。


 血抜き中は決して覗かない。食欲が失せるからね。さっきのでもうだいぶ失せたけど。

 待っている間は団長とおしゃべり。


「あの甲冑君はねぇ、ミルピィ様が用意したんだ。【虚像】で」

「あれって幻術じゃないわよね。私には、ミルピィのスキルがよく理解できていないのだけど」

「だいたい思い通りにできるスキル」

「……とんでもないわね」

「まあ、偽りを映すスキルだから、思い通りの空想を見せる感じかな。あれはちょっと強力で実体があるけど、嘘の濃度の違いだね」


 嘘から出たまこと……は、何か違うかな?


 適当にスキルの解説をしているうちに、したっぱ君は狼の処理を軽く済ませて戻ってきた。

 狼は甲冑君がぶら下げて血抜きをしながら持って帰る。


 みんな、固い肉を食べて過ごしたらしいからね。今日は焼き肉だ。

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