51話 やっと帰れる
「俺、筋肉痛なんて久しぶりですよ」
「あっはっは、僕はいつもだよ」
したっぱ君は【活性】スキルで肉体強化をした影響で筋肉痛になっていた。
まあ、彼の場合はそれもスキルの影響ですぐに治るんだろうけど。
「おい、今のはどういうことだ?」
「どうって?」
「ターオズのことに決まっているだろう」
錫杖はしたっぱ君の超活性状態を見て驚いているようだ。
ふふっ、そうだろうそうだろう。うちの子はやれば出来る子だからね。
「お前、ターオズに何をした?」
「別に? ちょっと気合い入れただけだよ」
「俺には見えていたぞ。ターオズの魔力も、お前の魔力の流れもな」
あー、これだから情報系のスキル持ちは。
でもね、僕の【虚像】は魔力を放出しないんだ。ただ魔力を使って幻術を作り出すスキルだったら、錫杖男みたいに魔力を感知されちゃうからね。うちの虚像さんがその程度のはずがない。
僕の持つイメージを現実に映し出す、その過程で魔力を使うのはイメージを読み取るところまでだ。魔力が変化するのは体内の脳の部分だけ。それは【解析】と同じだから【解析】と【虚像】の区別は錫杖にはできない。
だから僕がスキルを二つ持っていることには気付けても、三つ持っていることには気付けない。
うん、錫杖男は問題ない。適当にはぐらかしておけばスキルの効果までバレることはないだろう。
「おーい! こっちになんかあったよー!!」
いつの間にかボス部屋の先に進んでいた不死身君が呼びかけてきた。
……本当に、なんで勝手に先進んでるの。そんなだから囮扱いされるんだよ。
まあ、先に安全確認を済ませてくれたとでも思っておこう。
不死身君の後を追ってボス部屋を出ると、ポツンと箱が置かれていた。見た感じ宝箱。
こっそり【解析】すると、中身はステータス鑑定のマジックアイテムだった。
「ミール、今スキルを使っただろ。この箱について何か解ったか?」
錫杖がしつこく僕のスキルを探ってくる。
「錫杖さぁ、そんなに人のこと探ってると嫌われるよ? 特に女の子なんかには煙たがられるよ」
「俺にとっては人の好感度よりも知識のほうが大事だ」
「錫杖きらーい」
「どうとでも言え」
「嫌いな人には何も教えなーい」
「この……!」
こういうことだから、好感度はちゃんと稼いでおいた方がいいよ。
「なあ、そんなことよりこの箱どうする?」
「お前が開けろ。俺らは距離を取っておく」
トラップ対策だろうけど、僕はもう中身知ってるからね。
罠が無いことも知ってるから、特に距離を取るようなことはしない。
「ミール君は離れないの?」
「お構いなく」
「分かった。それじゃあオープン!!」
はい、ステータス鑑定の魔法具。知ってた。
見た目は綺麗な水晶玉。この魔法具は他の場所でも発見されていて、廉価版の魔道具まで存在する、マジックアイテムとしてはポピュラーなものだ。
つまりは、ぶっちゃけハズレ。
「……よりによってこれか」
錫杖がステータス鑑定の魔法具を見て苦い顔をした。あのマジックアイテムオタクが。
「これ、ステータス鑑定のやつですよね。ちゃんとしたマジックアイテムですけど、駄目なんですか?」
「ああ、こいつは国が強制買取をしていてな。自分で発見しても手元に残せないのだ」
「なるほど、国にとって貴重な物ですから……」
どうやら錫杖にとってもハズレだったようだ。
まあ、人生そんなもんさー。
気を取り直して先へ進もうとして、気付いた。……先がない。
「……え、これで終わりなの?」
「そのようだな……」
ええ……何このガッカリ感……。
目当てのマジックアイテムまで見つかったのに、むしろそれが余計に残念な気分にさせる。
念のため全員で道を探したが、結局見つからず、疲労がたまって重い足取りで迷宮を出た。
とぼとぼ宿まで戻って、その日は解散して早くに休んだ。
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帰りは馬車に乗ることにした。疲れた体で長い帰路を歩くのは怠かったから。
それは他の人も同じだったようで、多少費用が掛かっても反対も無く意見が通り、乗合馬車に乗り込む。
「おっと手が」
「その手に乗るか!」
錫杖が鑑定のマジックアイテムに触れさせようとしてきたけど、警戒を怠らない僕は華麗に躱した。
「錫杖ぅ、次やったら容赦しないからね……!」
やって良いことと悪いことがあるでしょ。勘ぐってくるくらいなら我慢できるけど、それは許容範囲を越えている。
「すまない、手元にある間だけでも使っておきたくてな」
錫杖は全然すまなそうに、すました顔でそんなことを言ってくる。
くそぅ、こんな奴、【虚像】で騙くらかしてコテンパンにしてやりたい。けど今は冒険者ミールの姿だから我慢。
「そういえば錫杖さ、他のマジックアイテム全然使わないよね。あと何個か持ってるでしょ?」
「さて、どうだろうな」
「……鈴と短杖だよ」
「なんで知ってるんだお前」
探ってるのは自分だけだと思わないことだね。深淵を覗くものはってやつ。
ふふっ、どうやって知ったのかは勿論秘密だよ。ちょっぴり優越感。
「……まあいい。今回の依頼は調査だったからな。複数の魔法具でごり押ししては適性がどのくらいの力量か分からんだろう」
迷宮の難易度を知るために加減していたってことか。
うーん、やってることは理解できるんだけど、それで僕も頑張らなきゃいけなくなったと考えると納得できない。
「楽をしていては調査にならないぞ」
考えを読まれたのか、錫杖がそんなことを言ってくる。
いいんですぅ、僕だけ楽できればー。その分錫杖が苦労すればいいの。
さて、錫杖の相手をするのも飽きてきたから、したっぱ君でも構ってあげようかな。
「体の調子はどう?」
「うす、もう万全です」
良くなるのはや。うらやましい限りだ。
「いいなぁそのスキル。僕の【投擲】と交換してくれない?」
「どうやってすか……。でも俺も、兄貴の【投擲】は羨ましいと思います」
「そう?」
「兄貴が俺の剣でヴァンダーボアを仕留めたとき、凄く格好良かったすから」
「あれ、凄い疲れるんだよ……」
「確かに、その後の兄貴は酷かったですね」
否定はできないね。
【投擲】もねぇ、体の負担をもう少し軽減してくれれば使い勝手が良くなるのに。
「そうだ、兄貴にお願いがあるんすけど」
「ん? なになに?」
「俺にスキルの扱い方を教えてくれませんか。今回、兄貴に引き出してもらった力を自分で出せるようになりたいんすよ」
「あー、それねぇ。元々教えるつもりだったから安心していいよ」
攻撃を避ける特訓が上達したらそのうちやろうかなと思っていた。
スキルだけ使えるようになっても急所をやられたらアウトだからね。
「え、そうだったんすか? ありがとうございます兄貴!」
感謝を忘れないその心意気、嫌いじゃないよ。
ふふん、なんか良いことした気分になった。




