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50話 ボス戦(たぶん)

 VSボス部屋のゴブリン(比較的大きめ)。


 まずはマジックアイテムのナイフを投擲。これは手抜きじゃないやつだ。

 だけどそれは、ゴブリンの持つ棍棒で弾かれてしまった。


 ……全力の投擲を防がれたのは実は初めてだ。それだけでも強敵だとはっきり分かる。


 けど投擲はあくまで支援。ゴブリンが棍棒を振った隙に不死身君と錫杖男が距離を詰めて斬りかかる。

 そして僕の出番はほぼ終わり。これ以上【投擲】を使ったら筋肉痛になっちゃうからね。


「えっと、俺はどうすればいいすかね?」

「ん? 一緒に休んでいいんじゃない?」

「はあ」


 前衛三人だと連携が難しくなりそうだし。


 僕たちはただ、彼等の戦闘を見守るだけだ。

 不死身君がゴブリンの正面をうろちょろして、錫杖男が隙をついては錫杖を当てる。錫杖の能力で粘着を付けられたゴブリンは、次第に動きが制限されていく。

 ある程度までは順調だったけど、ゴブリンの両足が粘着で動かせなくなったところで状況が膠着しだした。


「動かない分、近づき難くなってしまったようですね」

「あの棍棒は結構リーチがあるっすから」


 ゴブリンも錫杖男の手の内が分かって警戒しているようだね。仁王立ちになってからは守りの姿勢だ。

 攻め倦ねた錫杖が一度こっちに戻ってきた。


「足は止めたのだから、ミール、後はお前の投擲で倒せるんじゃないか?」

「残念、僕はもう球切れ」

「ナイフも魔力もあるだろう」

「体力と筋力がないんだよねぇ」

「……お前はそういう奴だったな」


 あのゴブリンに対して有効打がないのか。

 確かに錫杖って武器としてはイマイチだしね。先に尖った部分があるけど、そこも短い。


 不死身君の刀なら行けそうだけど……不死身君が無理そう。

 僕はもう投擲したくないし、聖女としたっぱ君もあのゴブリンには勝てないだろう。


「……うん、やっぱり錫杖が頑張って」

「あの、次は俺も行きますよ」


 したっぱ君が自己主張をしてきた。

 それは別にいいんだけど……。


「え? 大丈夫?」


 戦力的に。

 あのゴブリン結構強いよ? 今もデカイ棍棒を振り回して不死身君を近づけないでいる。


「なんとか、頑張ってみます」


 そう……じゃあ応援しておくね。


「錫杖、フォローよろしくね」

「あいつは俺のサポートじゃないのか?」

「彼が怪我しないようにフォローしてね」

「お前は保護者か何かなのか?」


 間違ってはないかな?

 したっぱ君は僕の支配下……は聞こえが悪いね。僕の保護下にあるから。


「では、その間ミールちゃんは私が護ってあげますね!」

「……いらない」

「それも逆だ。ヒーラーは大人しく護られていろ」


 改めて、したっぱ君を含めた三人がゴブリンに攻撃する。

 周りで煽って、棍棒が来たら逃げる。その隙を他の二人が攻める。


 ……危なっかしい。あの棍棒は当たったら大怪我しそう。

 まあ、ここには【治癒】の人が居るからね。よっぽどのことが無い限り大事にはならないと思う。……あ、フラグ踏んだ。


 ――グギャギャギャギャー!!


 耳障りな咆哮。それに何人かが怯んだところに棍棒を地面に掠めるように振るい、地面のツタを引きちぎりながら砂利を飛ばしてきた。

 喰らったのはしたっぱ君だ。


 ちょっと――!?


 棍棒の柄の方を握り直して伸びた射程に、したっぱ君が入っている。

 慌てて【虚像】を発動。ゴブリンの視界を幻術で覆い、視覚を狂わせる。


 ――それでも振るわれた棍棒は、したっぱ君の胸を掠めていった。


「大丈夫!?」


 急いでしたっぱ君のもとへ駆け寄る。

 したっぱ君は既に、ゴブリンから距離を取っている。でも砂利が目に入ったようで周りが見えていないみたいだ。


「うす、たぶん、大丈夫だと思います」


 見えていないから自分でも傷の具合が分からないのだろう。

 血で傷口が見えないから僕が見ても……【解析】があった。


 ……うん、そこまで酷くはない。

 でも急いで【治癒】担当の人と合流。したっぱ君は目にゴミが入ったから手を引いて連れて行く。


「……はい、これで大丈夫です。あ、気分が悪くなったりしてませんか?」

「いえ、大丈夫す。ありがとうございます」


 ふう、焦った焦った。

 もうーしたっぱ君は危なっかしいんだからー。


「ほら、後は一緒に見学しとこ。怪我の後にすぐ動くのは良くないよ」

「でも……」


 ……あれ?

 まだやる気なの? もう良くない? 怪我までしたんだし疲れたでしょ? 後は他の人に任せて一緒に休んどこうよ。


「俺、まだ平気なんであっちに戻ります」

「えっ……」


 君ってそんなに頑張る人だっけ。

 いや、頑張ってるのは知っている。だけど、そんな危険なことはさせたことがない。ヴァンダーボアのときは僕の側に置いていたし、魔物と戦わせるときは幻術で安全マージンを取っていた。


「やめとこうよ。危ないよ」

「……でも、ノルロークさん達も居るし、何かあっても今みたいにリークルさんが居ますから」

「……錫杖なら一人でも勝てるよ」

「俺、まだ何もしてないんすよ」


 それって悪いこと?

 なんで、そんな辛そうな顔をしてるの?


「ここに居る人達で、俺だけがまだ何の役にも立ってないんです。同じスキル持ちなのに、俺だけ」


 僕の話し相手とかおんぶ担当とか、いろいろ役に立ってると思うけど、きっと違うんだろうね。

 ……うん、なんとなく分かった。性別か、それともやる気の違いかあんまり理解はできないけど。


「……しょうがないなぁ。ちょっとこっち寄って」

「? ……うす」


 聖女と軽く距離を取ってから、したっぱ君の胸の辺りに付いている血を指で掬い取った。


 ……ぺろり。


「ん、美味しい」

「えぇ、何やってるんすか……」

「君のスキルは結構応用の幅があっていろんな場面で使えるんだよね。それこそ、上手くコントロールできれば戦闘に使えるくらい」

「……そうなんすか?」

「まあ、今回そこら辺の調整は僕がやってあげる」


 【解析】完了。


 【虚像】"錯誤惑う感覚"さあ、惑え惑え~。

 スキルの制御を狂わせて整える。


 完成!! したっぱ君・改!!


「はい、いいよ」

「なんか、身体が軽い感じがします」

「じゃあ、頑張ってね」

「うす!」


 したっぱ君は剣を握り直し、駆けだした。

 ゴブリンとの距離を詰め、そのまますれ違いざまに剣を横に振る。


 彼がやったことはそれだけ。

 【活性】スキルで強化されたしたっぱ君の動作をゴブリンは見切ることができず、その一撃で勝負は決まった。


「……は?」


 直前までゴブリンと戦闘していた錫杖が間抜けな声を発する。

 ふふっ、どうだぁ。うちのしたっぱ君はやればできる子なんだぞー。


 おっと、【活性】スキルの制御を戻さないと。


「うおわあっ!?」


 したっぱ君を超活性状態から戻したら急な変化でバランスを崩して転んでしまった。

 ……うん、ごめん。ちょっとだけ失念していた。過失だから許してほしい。

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