48話 可笑しな奴ら
何らかのスキルを使っているのだろう。それは間違いない。
ミールとターオズ。
こいつらは俺から見れば一目で他とは違う、スキル持ちなのだと分かる。
【魔力感知】
魔力を五感で感じ取れるスキル。派手さはないが、これで便利なスキルだ。
このスキルが無くとも魔力を感知できる者は居るのだが、それとは比べ物にならないほど正確で詳細に把握できる。
例えば、人の身体を巡る魔力。
あの二人組は、魔力の流れが他と違う。巡りが速く、複雑だ。まず間違いなく何らかの効果を発揮している。
特にミールは、先頭を進むようになってから、今まで以上に魔力の流れが速くなった。
一番魔力が集中しているのは……頭部か。あれは戦闘系のスキルではないな。
ナイフを投げるときにも僅かだが【魔力感知】に反応があるから、戦闘スキル持ちだという情報も間違ってはいないのだろう。あのマジックアイテムに関しては、所有者の魔力を使わないようだからな。非常に珍しく興味が尽きない代物だ。
……ナイフのことは置いておくとして、あいつは複数のスキルを持っている。あいつは秘密主義者のようだからな。何でも隠されては、逆に暴きたくなるものだ。
「着いた……」
ミールの呟きが聞こえ周囲を見渡すと、心当たりがある空間だった。
地図で現在地を確認する。さっきまでは地図にないエリアを移動していたが、どうやら調査済みのエリアに戻ってきたようだ。
ふむ、ミールは最短で戻る道を進んでいたようだな。
「ここまで来れば出口までの道が分かる。俺が前に出よう」
「ん……」
疲労からだろう。時間が経つにつれてミールの口数が少なくなっている。
まあ、今は仕方ないか。シルクハッカがトラップに引っ掛かったせいで、俺も疲労が溜まってきている。
植物が動くトラップだったせいで俺もスキルで発見できなかったのだが、それでもあいつには腹が立つ。せめて一人で勝手に死んでくれ。巻き添えにするな。
リークル聖女のマジックアイテムの能力を見れたことだけが収穫だ。聖女だけあって、良いものを持っている。戦闘に役立つのは間違いないし、回避、逃走にも使える。魔力消費が多めなのが欠点だな。
おっと、ゴブリンか。この迷宮は本当にゴブリンしか出ないな。
浅いエリアのゴブリンはたいして強くない。俺一人で十分対処できる。
錫杖を使ってさっさと仕留め、先へ進む。
ん? この変わった魔力は……。
「あー!! いたいた! 良かったみんな、無事だったんだね!」
シルクハッカか。もう戻ってきたのか。
「お前のせいで危なかったがな」
「うぐっ、それはホント……マジすいませんでした」
深々と頭を下げて謝罪してきた。
ノリは軽いが、まあ、誠意はあるのだろう。
こいつはこれだから、叱りやすいが、叱り続けにくい。
「はぁ、もういい。まずはここを出るのが先だ」
ミールがいよいよ限界そうだ。さっきから一言も話さずに息を切らしている。
「ミール君大丈夫? 肩貸そうか?」
「触るな」
「ごめんなさい!」
シルクハッカが気安く触ろうとして怒られている。
ふむ、リークル聖女だけが嫌われているわけではないのだな。ミールは潔癖症なのか、人に触られるのが嫌いなようだ。ターオズだけは平気みたいだな。
それから更に進み、迷宮から出る。そのまま宿場町まで戻ってきた。迷宮を出てすぐにミールがターオズに背負われることになったのは、最早言うまでもない。
ふらふらとしたミールを部屋に送り、他のメンバーで食事を摂った後に各々部屋で寝て、その日は終わった。
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「遅い」
朝食の時間になってもミールが部屋から出てこない。とっくに予定の時間を過ぎている。
「どうかしたんすかね」
「心配ですね。よし、ここは私が様子を見に行きましょう」
この聖女は事あるごとにミールにすり寄っていく。毎度躱されているのに、よくやるものだ。
リークル聖女が部屋に向かおうと二階へ上がろうとしたところで、ちょうど下りてきたミールと鉢合わせた。
「ああっ、ミールちゃん、起きてきちゃったんですか……」
「なに、悪い?」
「いえいえ! そんなことは全く、全然無いですよ! それとおはようございます!」
「おはよ……」
ミールは、ふらふらと階段を下りて、俺たちが座る席の傍に座った。
見るからに体調が悪そうだな。顔色は普通だが、まだ疲労が抜けていないのか?
「お水ください」
「兄貴、朝食はいいんすか?」
「食べたくない」
「ミール君、それだと一日持たないよ? 元気に食べて、今日も元気に行こう!」
「元気が無いから食べたくないんだよ……」
「あれ、ミールちゃん顔色悪くないですか?」
「え、うそ、顔見えた?」
「ああっ、隠すこと無いのに……」
ん? どういう意味だ?
顔色は普通だし、普通に見えているし、何かを隠すような仕草もしなかったが……。
「とにかく、体調が悪いなら私に見せてください。【治癒】スキルですぐに元気になりますよ」
「……嫌だ」
「兄貴、見てもらった方がいいんじゃないすか?」
「そうだな。どのみちそんな状態では迷宮に行けないだろ」
「うっ……」
【治癒】なんて便利なものがあるのだ。それを使わない手は無いだろう。
ミールは体調不良を楽にするためということもあり、周りが説得することによって、嫌々ながら【治癒】を受けることに承諾した。
「はい、おでこ出してくださいね」
「なんで」
「なんでって、治療のためには患部に触らないと」
「そのスキル、どこかに触ってれば使えるはずでしょ」
「え、なんで知ってるんですか……。あ、や、違うんですよ。直接触った方が効率いいんですよ! これは本当ですよ!」
「お前ら、いいから早くやれ」
結局、ミールは人差し指だけを出し、リークル聖女はそれを両手で包み込むようにした。
リークル聖女の手のひらから、暖かい光が零れる。可視化するほどの魔力。意識を集中してスキルを行使する彼女は、なるほど、聖女と呼ばれるだけのことはある。
治療は数十秒程度で終わった。
「どうですか?」
「…………きもちわるい」
「ええ!? どうして!!」
そんなに触られたくなかったのか……?
そう思ったが、どうやら本当に、体調面での気持ち悪さだったようだ。
「なんか、頭ぐらぐらする」
「ど、どうしましょう! 今までこんなこと無かったのに……」
恐らくだが、俺にはその原因が分かった。
「……魔力だな」
「え?」
「ミールは身体の魔力を常時運用している。そこに【治癒】の膨大な魔力を流し込んだことで魔力の巡りが乱れたのだろう」
「僕は【治癒】を使うと、こうなるのか……」
「魔力の相性もあるのかもしれないな」
「つまり相性最悪」
「がーん……!」
「あ、やばい、ほんと具合悪くなってきた。ちょっと部屋戻る……」
言いながら、ミールは席を立ち自分の借りた部屋へと戻ってしまった。
ちょっとと言っていたが、あの様子では暫く無理だろう。
「はぁ、今日の探索は中止だな……」
今回の依頼、こんなに大変だとは思わなかった。




