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47話 あの人すぐ死ぬ

「着いたぞ。ここを越えたら未調査のエリアだ」


 壁を覆う蔦の代わりに茨が生えている辺りで、植物が切り開かれた跡のある場所。もともとは、壁のないところまで植物が覆って道を隠していたのだろう。

 それを誰かが見つけたと。


 でも、そんなことより。


「もう疲れた」

「結構歩きましたしね」


 ここに来るまでにそれなりに戦闘もあったからね。

 ナイフを放り投げて念動テレキネシスで呼び戻して突き刺す。僕は全部そうして倒した。筋肉痛回避のためだ。


「……仕方ない、ここで一度休憩だ」


 タイミング的にもちょうどいいと判断したようで、錫杖は休憩をすんなり許可した。もうすっかり錫杖がリーダー扱いになっている。


 休憩を挟んだら、いよいよお仕事本番だ。


「先頭がシルクハッカ、その次にターオズ、ミール、リークルで最後に俺でいいな」

「一番迷宮に慣れているのはノルロークさんですよね? 一番後ろでいいんですか?」

「その方が全体に指示を出しやすいからな。それに一応はシルクハッカも何度か迷宮に潜っている。そこまで酷いことにはならないだろう。……たぶん」

「一応とかたぶんとか、一言も二言も多いんだよ!」


 こういうのは前と後ろが危ないって言うからね。真ん中の僕は特に文句はない。まあ、【投擲】はどう考えても後衛向きだし妥当な判断だろう。


「とにかく行くぞ! 俺に付いてこーい!!」


 不死身君を先頭にして未調査エリアに侵入する。

 ある程度進んだところで――地面が割れた。


「うわああああああああぁぁぁ!!」


 地面のツタがうごめき、前の方からどんどん足場が消えていく。

 最初に落ちたのは不死身君だ。彼は完全に逃げ遅れた。


 僕たちは大急ぎで来た道を駆け戻る。


「――痛っ」

「兄貴うおわっ!?」


 ――べちーん。


 足場のツタに躓いて、盛大に転んだ。

 僕のすぐ後ろを走っていたしたっぱ君も、僕に巻き込まれて転ぶ。


「ミールちゃん?!」

「馬鹿、止まるな!」


 立ち上がろうとしたときには、もう足場がほつれて無くなるところだった。

 そして、遂に足場が無くなりしたっぱ君と一緒に空中へ放り出される。


 ――やばい、これは死ぬ。


 危機感から神経が刺激され、思考速度が急激に上がる。主観で、ゆっくりと落ちていく。

 聖女と錫杖も落ちた。もともと細い道だから両壁が割と近い。けど底は結構深い。


 したっぱ君を掴んだ。そして、【投擲】スキルで全身を使って投げる。狙いは錫杖。

 彼を投げた反動で僕は壁に向かっていく。壁に当たる直前に転送テレポートでマジックアイテムのナイフを鞘から手の中に呼び出し、それをツタで出来た壁に突き刺した。


 そこで更に【投擲】。壁に刺さったナイフをスキルの力で強引に投げる。

 しっかりと壁に食い込んだナイフは抜けることはなく、結果として僕の身体が上に持ち上がった。これで落ちるエネルギーを相殺だ。


「はあっはあっ……」


 ナイフ一本で身体を支えている。

 ナイフ頑張れ。折れたら落ちる。そして、それ以上に腕頑張れ。


 両手でがっしりナイフを掴んでいるけど……辛い。

 壁に足が着いてるけど、変にそっちに体重を掛けるとナイフが抜けてしまう恐れがある。


 と、そうだ、したっぱ君。

 反対側の壁を見ると、錫杖男が錫杖の粘着で壁に張り付き、したっぱ君と聖女は錫杖男にしがみついていた。

 不死身君は見当たらない。底まで落ちたようだ。


「ミールちゃーん! 大丈夫ですかー!」


 大丈夫じゃない。危ないから声も出せないし。


「ミール、俺達は錫杖の力で降りることができるが、そっちは一人で降りられるか?」


 無理。即座に首を振った。


「そうか……。時間が経てば復活したシルクハッカが戻ってくるだろうし、俺が降りてから登りなおすこともできるが」

「ぜえ、ぜえ」

「無理そうだな……」


 何か、何かないのか。

 【投擲】でできることはもうやったし、【虚像】はただの幻術だし。"虚ろなる実像"なら物理干渉もできるけど、この状況じゃ材料が足りない。


 【解析】

 必要な情報を導き出して。


 アバウトな注文だったから結構負荷が掛かったけど、良いものがあった。それは、聖女の首元にぶら下がっているマジックアイテムだ。


 <軽足の飾り羽>


 一時的に重力を無視した動きができる能力。落下したときにも重力の影響を消せる。


「お、女の人……」

「え? もしかしなくても私ですか?」

「マジック、アイテム、使って……」

「……ああ!?」


 忘れてたなこの人。何のための護身用だよ。

 ん? でも、【解析】で出てきた情報だから言ったけど、聖女が使ってどうするんだ? 僕が使うべきなのでは?


「あの……」

「それじゃあ、行きますよミールちゃん!!」

「えっ」


 聖女が跳んだー! 僕の方へ。

 そして僕のことをガバッと掴みあげると、自由落下。一気に地面が迫ってくる。


 ――ふわっと着地した。


 ……死ぬかと思った。不意打ちでジェットコースター並みの体験をくらったよ……。

 しかも触られた。いや、まだ掴まれている。うわっ、今ぎゅってした!? どさくさに紛れて……!


「お、降ろして……!」


 ジタバタして脱出。

 落下の勢いで脱げたフードに気付いて慌てて被り直し、その他の衣服の乱れたところも直す。最後に転送テレポートでナイフを回収。


 あとは一旦座って息を整えながら、したっぱ君と錫杖が降りてくるのを待っていればいい。


 ふう、それにしてもこの聖女、余計なことしかしないな。確かに助かったけどさぁ、もう少しなんかこう、あるでしょ?

 触られたのが結構ショックだ。ぞわぞわする。


「ミールちゃん? 大丈夫ですか?」


 平常心平常心。

 もの凄く聖女を責めたいけど、助けてもらって責めるのは流石に良心が咎めた。


 したっぱ君と錫杖男が降りてきたところで、一度作戦会議だ。


「下の階層に落ちたみたいだが、ひとまず帰り道を探すか」

「先へ進んでも帰れなくなったら意味ないすからね」

「調査どころじゃないですね……」


 異議なし。

 というか迷宮舐めてた。やる気の有る無しに関わらず、真面目にやろう。


 はい、【解析】スタート。

 浅く広く解析。トラップを未然に防ぐ。


 さらに帰り道を調べる。

 ……こっちかな。


「僕が先頭で行く。またトラップに引っ掛かりたくないからね」


 否定の言葉は出なかったので、順番を僕、したっぱ君、聖女、錫杖の順にして歩き出した。


 ――【解析】が曲がり角の向こうにゴブリンを発見。


 ……あれ、【解析】って索敵モドキもできたんだ。まあ、それに関しては団長の【索敵】スキルの方が特化している分優秀みたいだけどね。


 事前にナイフを放り投げておく。

 ゴブリンが角から出てきてすぐに念動テレキネシスを発動させて突き刺す。


 障害クリア。


「行くよ」

「え、ミールちゃん凄い……」

「お前、最初から本気を出せ」


 そうは言っても僕のスキルは後々反動が来るからね。

 【解析】はこの状態でずっと使ってるとそのうち頭痛が来るだろうし、【投擲】はもう、さっきの落とし穴で筋肉痛待ったなしだ。


 体力的にも結構きつい。だから早く、一度迷宮から出なければならない。

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