46話 彼の役目、それは主に運ぶこと
「兄貴、着きましたよ」
「ん……おはよ……」
「ちょうど日暮れっすけどね」
目の前には宿場町の門がある。町に入る前に起こしたようだ。
ステータス偽造しないといけないからね。取り敢えずしたっぱ君の背中から降ろしてもらう。
で、問題なく偽造入場成功。失敗したら大問題だ。
「泊まる場所は全員同じでいいな?」
錫杖男の言葉に全員頷く。
錫杖はこの町に来たことがあるみたいだから、引き続き案内を任せる。
先頭の錫杖は、幾つも並ぶ宿屋の一つに入り、僕たちもそれに続いた。
……うん、普通の宿だ。
「四名様ね。部屋はどうする?」
「ふむ……男と女で「僕は一人部屋で」」
これは譲れない。あと、男女に分かれるとか言って、錫杖は僕をどうする気だったんだろう。どっちの扱いをしてもアウトだからね? ミール君はとってもデリケートな存在だ。
「なら、そこの聖女も一人部屋だな」
「ああ、一人部屋はあと一つしか空いてないんだよ。二人目以降は二人部屋で、一人でだとその分料金も割り増しになるけどいいか?」
「……ミールちゃん、私と相部屋しませんか?」
「いや」
「そうですか……」
一人部屋に僕、二人部屋に錫杖としたっぱ君、聖女単体に決まった。
鍵を貰って解散。割り振られた部屋に入る。
「つーかーれーたー」
まず最初にベットにダイブ。感触を確かめる。うん、悪くはない。至って普通。
ふぅ……ねむ。
意識が薄れかけたところを、部屋をノックする音で呼び戻された。
ふらふらと起き上がってドアを開ける。
「飯に行くぞ」
「あー、忘れてた」
「忘れるか? 普通、腹が減っているだろう」
疲れると食欲が減る不健康代表だからね。たまに夕食を抜くこともある。
でもまあ、今日は食べられないほどじゃない。わざわざ抜くこともないか。
下の階へ降りて、食堂へ向かう。
食堂には既に、したっぱ君と聖女が集まっていた。同じ席に座り、適当に注文する。
「シルクハッカさん、どうしてるんでしょうね……」
彼とは死別? をしたから、心配しているようだ。
「知らん」
「冷たくないですか!?」
「道中で殺されるあいつが悪い。……まさか俺も、あそこでやられるとは思わなかったんだ。あいつは技術が身に付いていないからムラがありすぎる」
「普段はもっと強いんですか?」
「勝てたり勝てなかったりだ。命の危険が無い分思い切った動きができるが、普通に弱いからな」
無謀な突撃がうまいこと決まれば勝てて、失敗しても復活できるわけか。雑魚ならそれなりに勝てそう。
=====
朝、起床。
身仕度を済ませたら朝食を食べて、宿を出る。
「ねえ、馬車に乗らない?」
「トレ迷宮行きの馬車など無い」
「じゃあ、レンタルで」
「その金は誰が払うんだ……」
はぁ、今日も徒歩か……。
「あーあ……」
体調悪い。
ちょっと熱っぽい気がする。んー、気のせいかな? 精神的なものかもしれない。
とぼとぼと歩き始める。
「……遅い」
「自分のペースを押し付けるのは良くないと思うよ」
これでも頑張っているんだ。それで責められるとやる気が無くなる。
あー、錫杖のせいでやる気無くなったー。もう駄目だ、今日は休もう。
「おい、急に止まるな」
「ミールちゃん? どうしたんですか?」
「したっぱ君、リュック降ろして」
「もうっすか……」
僕がしたっぱ君を連れ歩いているのは、一人だと何かあったとき対処できない可能性があるからと、疲れたときのためだ。おおいに役立ってもらおう。
したっぱ君はリュックを背中から前に移して背中を空けた。僕はそこに乗る。
そして移動開始。
うん、順調順調。快適に進んでいく。
途中でうたた寝をしていたら、体感的にはすぐ目的地に到着した。
そんな僕たちを出迎えたのは――
「先回り、していましたぁ!!」
――死んだはずの不死身君。
いや、生きてるのは知ってたけどね。
「無事だったんですね。スキルのことは聞きましたけど、やっぱり心配でしたよ。安心しました」
「……やべえ、俺心配されるの何年ぶりだろ」
「頭の心配ならしているぞ?」
「意味合いが違う! もっと優しさを俺に向けろよ!」
元気なようで何より。
「それじゃあ、行こうか」
「え、もう行くの? 俺、ここまで来るのに徹夜したんだけど」
「構わん。行くぞ」
五人が揃ったところで、迷宮に入る。
迷宮の入り口は立派な門だ。民族模様のようなものが彫られていて、どこか神秘的。
それを潜ったところで、景色は一変した。
「うわ、すごい緑」
ツタと葉が地面、壁、天井全てを覆い隠している。緑一色。唯一、ホオズキのような形をした光る実が光源として機能している。
というか足場悪いな……。
「迷宮ってこんな感じなんですねー」
「ここはな」
「他の迷宮はまた全然違うんだよ聖女さん!」
「あ、そうなんですか。あと、今回私は聖女ではなく、一人の冒険者として来てますからね。……ばれるとヤバいので、名前でお願いします」
「名前を言ったら同じじゃないすか?」
「皆さん、私の名前知ってますか?」
「知らない」「知らん」「聖女さん」「えーと……リークルさんです」
「私の名前は聖女ではありませんよ。……ミールちゃん、私、自己紹介しましたよね?」
「知らない」
「そ、そうですか……まあ、それは置いときます。他の人も皆、聖女聖女と言うので、名前ではすぐに私と結びつかないんですよ。それに知名度があるので、こっちから名乗る機会も少なくて」
聖女って分かりやすいからね。
僕も称号というか役職というか……とにかくそういうのなら覚えられる。
「それで結局、リークルさんでいいんですか!」
「ハルクルファ・リークルです。どちらで呼んでも構いませんよ。ああでも、ファミリーネームは教会で呼ばれているので、今はあまり呼ばれたくないですね」
「ハルクルファさん……呼びづらい……」
「ふむ、地味に長いな。下の名前だと、咄嗟に言うのが難しい」
「はる……聖女でいいんじゃない?」
「ハルクルファですよ。というかシルクハッカさんと同じくらいの長さじゃないですか。特に引っかかるところもありませんし、普通ですよね?」
「『聖女』と比較して呼びづらいのだ」
同感。
今まで短かった呼び名が急に長くなったら不便だよね。ハルクルクルクル……なんだっけ?
「やっぱ、リークルさんでいいですか?」
「そうですね……」
まあ、僕は人を名前で呼ぶことはないし、関係ない話だね。




