表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/155

46話 彼の役目、それは主に運ぶこと

「兄貴、着きましたよ」

「ん……おはよ……」

「ちょうど日暮れっすけどね」


 目の前には宿場町の門がある。町に入る前に起こしたようだ。

 ステータス偽造しないといけないからね。取り敢えずしたっぱ君の背中から降ろしてもらう。


 で、問題なく偽造入場成功。失敗したら大問題だ。


「泊まる場所は全員同じでいいな?」


 錫杖男の言葉に全員頷く。

 錫杖はこの町に来たことがあるみたいだから、引き続き案内を任せる。


 先頭の錫杖は、幾つも並ぶ宿屋の一つに入り、僕たちもそれに続いた。

 ……うん、普通の宿だ。


「四名様ね。部屋はどうする?」

「ふむ……男と女で「僕は一人部屋で」」


 これは譲れない。あと、男女に分かれるとか言って、錫杖は僕をどうする気だったんだろう。どっちの扱いをしてもアウトだからね? ミール君はとってもデリケートな存在だ。


「なら、そこの聖女も一人部屋だな」

「ああ、一人部屋はあと一つしか空いてないんだよ。二人目以降は二人部屋で、一人でだとその分料金も割り増しになるけどいいか?」

「……ミールちゃん、私と相部屋しませんか?」

「いや」

「そうですか……」


 一人部屋に僕、二人部屋に錫杖としたっぱ君、聖女単体に決まった。

 鍵を貰って解散。割り振られた部屋に入る。


「つーかーれーたー」


 まず最初にベットにダイブ。感触を確かめる。うん、悪くはない。至って普通。

 ふぅ……ねむ。


 意識が薄れかけたところを、部屋をノックする音で呼び戻された。

 ふらふらと起き上がってドアを開ける。


「飯に行くぞ」

「あー、忘れてた」

「忘れるか? 普通、腹が減っているだろう」


 疲れると食欲が減る不健康代表だからね。たまに夕食を抜くこともある。

 でもまあ、今日は食べられないほどじゃない。わざわざ抜くこともないか。


 下の階へ降りて、食堂へ向かう。

 食堂には既に、したっぱ君と聖女が集まっていた。同じ席に座り、適当に注文する。


「シルクハッカさん、どうしてるんでしょうね……」


 彼とは死別? をしたから、心配しているようだ。


「知らん」

「冷たくないですか!?」

「道中で殺されるあいつが悪い。……まさか俺も、あそこでやられるとは思わなかったんだ。あいつは技術が身に付いていないからムラがありすぎる」

「普段はもっと強いんですか?」

「勝てたり勝てなかったりだ。命の危険が無い分思い切った動きができるが、普通に弱いからな」


 無謀な突撃がうまいこと決まれば勝てて、失敗しても復活できるわけか。雑魚ならそれなりに勝てそう。



=====



 朝、起床。

 身仕度を済ませたら朝食を食べて、宿を出る。


「ねえ、馬車に乗らない?」

「トレ迷宮行きの馬車など無い」

「じゃあ、レンタルで」

「その金は誰が払うんだ……」


 はぁ、今日も徒歩か……。


「あーあ……」


 体調悪い。

 ちょっと熱っぽい気がする。んー、気のせいかな? 精神的なものかもしれない。


 とぼとぼと歩き始める。


「……遅い」

「自分のペースを押し付けるのは良くないと思うよ」


 これでも頑張っているんだ。それで責められるとやる気が無くなる。

 あー、錫杖のせいでやる気無くなったー。もう駄目だ、今日は休もう。


「おい、急に止まるな」

「ミールちゃん? どうしたんですか?」

「したっぱ君、リュック降ろして」

「もうっすか……」


 僕がしたっぱ君を連れ歩いているのは、一人だと何かあったとき対処できない可能性があるからと、疲れたときのためだ。おおいに役立ってもらおう。

 したっぱ君はリュックを背中から前に移して背中を空けた。僕はそこに乗る。


 そして移動開始。


 うん、順調順調。快適に進んでいく。

 途中でうたた寝をしていたら、体感的にはすぐ目的地に到着した。


 そんな僕たちを出迎えたのは――


「先回り、していましたぁ!!」


 ――死んだはずの不死身君。

 いや、生きてるのは知ってたけどね。


「無事だったんですね。スキルのことは聞きましたけど、やっぱり心配でしたよ。安心しました」

「……やべえ、俺心配されるの何年ぶりだろ」

「頭の心配ならしているぞ?」

「意味合いが違う! もっと優しさを俺に向けろよ!」


 元気なようで何より。


「それじゃあ、行こうか」

「え、もう行くの? 俺、ここまで来るのに徹夜したんだけど」

「構わん。行くぞ」


 五人が揃ったところで、迷宮に入る。

 迷宮の入り口は立派な門だ。民族模様のようなものが彫られていて、どこか神秘的。


 それを潜ったところで、景色は一変した。


「うわ、すごい緑」


 ツタと葉が地面、壁、天井全てを覆い隠している。緑一色。唯一、ホオズキのような形をした光る実が光源として機能している。

 というか足場悪いな……。


「迷宮ってこんな感じなんですねー」

「ここはな」

「他の迷宮はまた全然違うんだよ聖女さん!」

「あ、そうなんですか。あと、今回私は聖女ではなく、一人の冒険者として来てますからね。……ばれるとヤバいので、名前でお願いします」

「名前を言ったら同じじゃないすか?」

「皆さん、私の名前知ってますか?」

「知らない」「知らん」「聖女さん」「えーと……リークルさんです」

「私の名前は聖女ではありませんよ。……ミールちゃん、私、自己紹介しましたよね?」

「知らない」

「そ、そうですか……まあ、それは置いときます。他の人も皆、聖女聖女と言うので、名前ではすぐに私と結びつかないんですよ。それに知名度があるので、こっちから名乗る機会も少なくて」


 聖女って分かりやすいからね。

 僕も称号というか役職というか……とにかくそういうのなら覚えられる。


「それで結局、リークルさんでいいんですか!」

「ハルクルファ・リークルです。どちらで呼んでも構いませんよ。ああでも、ファミリーネームは教会で呼ばれているので、今はあまり呼ばれたくないですね」

「ハルクルファさん……呼びづらい……」

「ふむ、地味に長いな。下の名前だと、咄嗟に言うのが難しい」

「はる……聖女でいいんじゃない?」

「ハルクルファですよ。というかシルクハッカさんと同じくらいの長さじゃないですか。特に引っかかるところもありませんし、普通ですよね?」

「『聖女』と比較して呼びづらいのだ」


 同感。

 今まで短かった呼び名が急に長くなったら不便だよね。ハルクルクルクル……なんだっけ?


「やっぱ、リークルさんでいいですか?」

「そうですね……」


 まあ、僕は人を名前で呼ぶことはないし、関係ない話だね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ