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45話 冒険者には危険がいっぱい

 静かに片手を挙げる。

 そして、提案。


「休憩」

「またか……」


 先頭を歩いていた錫杖男が嫌そうな顔をしながらも歩みを止めた。

 さっき、もう少し我慢しろと言われたときに目に見えてペースが落ちたからね。だらだら歩くよりは休憩を挟んだ方がいい。


「このペースだと半端なところで野宿になるぞ」

「そんな予定を組んだ自分を恨むんだね。僕はもう疲れた」

「まさかここまで体力が無いとはな……」


 無いものは無い。

 だから団体行動は苦手なんだ。他の人のペースは僕と違いすぎる。


「まあまあ、私も結構疲れてきましたし」

「ふむ、女性には少々きつかったか」


 おい錫杖、こっち見ながら言うな。


「なあ、もう休憩ってことでいいのか?」

「仕方がない、もう少し向かったところで休憩だ」

「もう少し? 僕の少しは約三歩なんだけど」

「ならお前だけは、もうしばらくだ」


 錫杖のいじわる……!


 行軍再開。

 なんだかふらふらしてきた。どうしよう、【虚像】の錯覚で誤魔化そうかな? でも疲労を忘れて急に倒れる可能性が高いし……。


「兄貴、大丈夫すか?」

「ミールちゃんミールちゃん、私が【治癒】しましょうか? 疲労は自然回復が一番なんですけど、補助程度なら問題ないですよ」

「【治癒】って身体に触れるじゃん……」

「駄目なんですか!?」


 なんか、この人には触られたくないんだよね。

 もともと人に触られるのは苦手だし。身内でギリ。


「ノルロークぅ、別に今休憩でもいいんじゃないか?」

「何も理由無く言っているわけではない。ほら、見えてきた。あれの対処が先だ」


 錫杖が錫杖で指した先には、魔物が二匹いた。ゴブリンだ。何気に初めて見る。


「ゴブリンかぁ。それじゃあ頑張ってー」

「お前もな」

「だってさ」

「うす、頑張ります」


 したっぱ君が剣を抜いて前に出る。

 続いて、不死身君も腰の刀を抜いてしたっぱ君の横に並んだ。


 うん、二人出たんだから僕は必要無いだろう。休憩休憩。


「そういえば私、皆さんが戦うところを初めて見ますよ」

「俺もシルクハッカ以外は実力が分からん。だから今のうちに把握しておきたいのだが……」

「お構いなく」

「私は、戦闘はちょっと……」

「はぁ……」


 後ろで会話をしているうちに戦闘が始まった。


 したっぱ君は……うん、攻撃を避ける特訓しかしてないからね。避けるのに専念して全然攻撃できずに膠着している。彼は僕との連携を前提としているからしょうがないよね。

 不死身君は……あっ、やられた。


「ゴブリンって強いんだね」

「あいつらが弱いんだ」

「ちょっと!? あの人やられましたよ!?」


 不死身君のスキルを知らない聖女が一人、慌てている。

 助けに行きたいけど、ゴブリンが居るから行くことができないようだ。


「そう言う錫杖は強いの?」

「これでも二級冒険者だ」

「じゃあ、その実力を見せてよ。あのゴブリンに」

「お前の力を確認してからだな。ほら、相方が危なくなってきたぞ」


 したっぱ君がゴブリンに押されている……!

 え? ゴブリン強くない?


 しょうがないから、マジックアイテムのナイフを鞘から抜いた。

 今回の依頼は【虚像】を戦闘に使えない縛りプレイだ。【投擲】だけで何とかするしかない。


「ほいっと」


 構えも何も無しにナイフを放り投げる。

 山なりに飛んでいったナイフがゴブリンの後ろに行ったタイミングで、マジックアイテムの念動テレキネシスを発動。ナイフが僕の方に向かって一直線に飛んで戻ってくる。そして、その軌道上に居たゴブリンにグサー。

 最後に転送テレポートを使ってナイフを回収して終了。これが一番楽だと思います。


「……ただナイフを放り投げただけではないか」

「絶妙なコントロールで投げたんだよ」

「はぁ、まあいい」


 次は錫杖男の番だ。


 錫杖男はゆっくりゴブリンとの距離を詰めると、今度はじりじりと後ろに下がった。それをゴブリンが追いかける。

 すると突然、ゴブリンの動きが不自然に止まった。そこを一気に踏み込んだ錫杖男が錫杖の先の尖ったところでゴブリンの頭を貫く。


 ……それはそれで実力が分からなくない? 一切斬り合うことをしなかったんだけど。


「どうだ」

「どうと言われても、僕と同じでマジックアイテム使っただけじゃん」

「お、よく分かったな? <魔貼付の錫杖>、便利だろう?」


 地面に不可視の粘着を付けて、それにゴブリンが引っかかったところを仕留めたみたいだ。


「とりもち錫杖……」

「言い得て妙だな。だが、その表現は腹が立つからやめろ」

「あのぅ、そんなことよりシルクハッカさんが……」

「「あっ……」」


 し、死んでる……。

 手遅れでしたかぁ。


「まさか、ゴブリン一匹に殺されるとはな……」

「どうするんですかこれ!?」

「こいつは特殊なスキルを持っているから死んでも平気だ。見てみろ」


 観察していると、不死身君(故)はさらさらと灰になって、風に飛ばされて消えていった。服や武器も一緒に消えた。


「【不滅】スキルの効果で、そのうちどこかで復活する。復活する場所は多少なら自分で選べるが、制御が難しいらしい」

「そんなスキルがあるんですか……。まあ、無事ならよかったです」

「死んだ時点で無事では無いとは思うが」


 不死身君は下手したらここで脱落なのか……。

 まさか、迷宮に着く前に死人が出るなんて。


「兄貴、すいません」

「ん、気にしないでいいよ」


 したっぱ君は結構動いていたけど、既に息が整っている。【活性】スキルはそんなところにも恩恵がある。やっぱり地味に便利だ。


「シルクハッカが休憩中に戻らなくても、気にせず迷宮に向かう」


 ふぅ、やっと休憩だ。

 というか、そもそも迷宮ってどこにあるんだろ? 場所を知っている錫杖に付いてきていただけだから、あとどのくらいで着くか分からない。


「迷宮まであとどのくらい?」

「今日急いで、中継地点の宿場町に着くかどうかだな。迷宮はそこから数時間で着く」

「……急ぐのは無理じゃない?」

「……そのときは野宿だぞ」


 しょうがない、奥の手を使おう。

 人前ではかっこつかないから控えてたんだけど……。


「したっぱ君、おぶって」

「うす。まあ、そうなりますよね」


 そうなっちゃうんだなぁ。


 休憩後、したっぱ君に乗って移動再開。不死身君は帰って来なかった。

 移動ペースがさっきまでと比べて、明らかに速くなっている。


「これが本来の速度だ」


 うるさいよ。

 あーはいはい、どうせ足が遅いですよ。体力が無いですよ。


 もう疲れたから寝る。

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