41話 memory 6 function error
「シェイプルさんシェイプルさん。ふふっ、ちょっとこっちに座って?」
「あなた、今日はやけに機嫌がよさそうね? 何かあったの?」
「えと、わたしはいつもこうだよ? ふふっ」
「いつもと比べて、不自然なくらい笑顔なんだけど……。喋り方も別人みたい」
「ハッピー引きこもりライフ。笑顔笑顔いつも笑顔。いいから座って?」
シェイプルさんをベッドに座らせる。
××もその上に座った。
「ちょっと? ……あれ、触っても平気なの?」
平気。超平気。ときめいちゃう。
深く座るようにちょっと体を下げたら、首が胸の谷間にフィットした。いや、沈んでいく。す、吸い込まれるぅ……!
これはちんまい××を引き込む蟻地獄だったんだ。しまった。トラップだったか。
慌てて腕をシェイプルさんの肩に伸ばして、セイッと体を持ち上げた。この体勢は駄目だった。
向きを変えて座り直す。うん、こっちの方がバランスがいい。
「あの、ちょっと……?」
おっぱいが喋っている。これだとまともに顔が見えない。
そのまま膝立ちにして腰を浮かせた。目と目が合う。ぺろりと舌なめずり。シェイプルさんの目線が少し落ちた。××のアクションで唇に目がいったようだ。それでも何ともない。安心していられる。心が穏やかだ。
「――!?」
つい、キスした。
美味しい。情報がいっぱい。触れると解析精度と速度があがる。粘膜接触はもっと。ふふっ、あなたのことは全部知ってしまったわ。構成要素まで。
……ふう、つい押し倒してしまった。いやぁついつい。流し目をしながら唇を舐めた。さらに指でなぞる。明らかに誘惑。
でも、シェイプルさんは手を出してこなかった。さすがは××が信用する人だ。親愛なるシェイプル様、信用しています。敬具。
シェイプルさんの顔は真っ赤に染まっている。乙女だ。あなたのことならもう全部知ってる。身体限定。ふふっ、解析しちゃった。
「ふぅ……」
やりきった感を出しながら自分の髪に手櫛を入れた。さらさら天然素材。トリートメント無しでこの艶。さぞや強靭な細胞をお持ちなのだろう。母遺伝子に感謝。
「あ、あなた今……」
口をパクパクしながら衝撃に打ち震えているシェイプルさん。そんなあなたも素敵よ。
シェイプルさんは押し倒されたままベッドに横になっていたので、その上から退いて、一緒に横になった。
顔がすぐ近くにある。でも、今度はキスしない。
その代わりに、軽く抱きしめた。震えない。心が休まる。
「シェイプルさんは特別。信用してるよ……」
これだったんだ。これが欲しかったんだ。
絶対の信用。その先にある穏やかなぬくもり。××は、ただ人のぬくもりが欲しかった。どんな形でも。
家族以外の大切な人。その人の胸の中で穏やかに眠りについた。
=====
何を間違えたんだろう?
虚像さん……? あの、虚像さん? どういうことですか。
明らかにおかしいでしょう。これはちょっと違うんじゃあ無いかなあ。
なんでこうなったの。なんでちょっとえっちな方に走っちゃったの! どう暗示を間違えた。
まさかの初めてを盗られた。いや違う。盗んだ。こっちが略奪者だ。
目が覚めたらシェイプルさんは居なくなっていた。これは次会うときが辛い。
ホント虚像さんエキサイトしすぎっ。解析さーん、しばくの手伝ってくださーい。
暗示内容を解析。
え、頭痛してきた。そんな深いの? 虚像さんホント仕事しすぎ。
信用=愛情
どうしてこうなった!
××は信用を込めたんだよ? どうしてそこまで発展したの。解析さんお願い!
……ああ、勘違い。
××が間違っていた。どうりで。
みんな、どうして軽々しく人を信用できるのか少し不思議に思っていた。裏切りが怖いから。実害じゃなくて、気持ちを踏みにじられるのが怖い。
人を信用できない××だから、信用という言葉の意味を少し勘違いしていたみたい。ハードルを上げすぎていた。それはとっくに好意を超えていた。
よくよく考えてみれば、たとえ殺されてもいいなんて恋人が囁く言葉みたいだ。そこには既に愛がある。
――コンコンコン。
「入るわよ」
シェイプルさんご登場。遂に来てしまったようだね。
顔を見る。
ぽーっとする。
なんか幸せな気分になってきた。これってもしかして恋?
「えと、えとえとその、お、おはよう」
「……おはよう」
違う意味で声が震えた。思考がブレた。
心は穏やか。とても安心していられる。でも、ドキドキする。
シェイプルさんもなんだか気まずそうだ。当然だろう。
これはもう、あれだよね。あれだ! ……何も思いつかない。
取り敢えず、毛布から出た。ベッドの上に座ったまま、片膝を抱く。チラチラっと上目遣いでシェイプルさんをちら見した。
……あ、違う。ついつい誘惑してしまった。違う違う。
母に、もっと言動には気を付けなさい。もし××が天然じゃなくて意識的に人を誘惑したら、××は女王様として人々に奉られるわよ。もう少し抑えなさい、ただでさえ意識せずに虜を増やしているのだから。と言われたおいしそうな××の誘惑は刺激的すぎる。これだと食べられても文句は言えない。
あぁ、シェイプルさんの顔が真っ赤に。そんなあなたも素敵だよ。スカートちらっ。ついやってしまった。
「あなた、急にどうしたわけ?」
虚像さんにお願いして生まれ変わったの!
なんて、言えるわけがない。
自分でも豹変したと思う。
「シェイプルさんは特別」
「特別?」
「そう。特別にわたしを見せるの」
むしろ魅せている。
でも、本当、××が本当の自分を見せるのはこの人だけ。特別。
「――××」
「え?」
「わたしの、本当の名前。シェイプルさんは特別だから特別に教える」
「え、今のが名前なの?」
「むぅ、そういう反応されると思ったから言わなかったんだよ。内緒だからね。普段はちゃんとミルピィって呼んで」
「……分かったわ。ミルピィ」
「それじゃあおやすみ」
「えっ」
毛布にくるまって顔まで隠した。
あの……やっぱり恥ずかしい……! スカートちらっ、はどう考えてもやりすぎたっ。
=====
正直暗示を掛け直すかどうか悩んだ。
最初は掛け直すつもりだった。でも――
「……」
「……」
シェイプルさんと睨めっこをしている。
特別ルールで目を逸らしても負け。あれ、これ通常ルールだったっけ。まあいいや。
変顔は無し、お互いに眼力で勝負。
ジッとシェイプルさんと見つめあう。頬が熱くなってきた。
ドキドキしてきて、人より緩い涙腺が早速緩んで目がうるうるしてくる。
サッとシェイプルさんが目を逸らした。××の勝利。
「あれ? シェイプルさん顔が赤いよ?」
「……ミルピィこそ」
「あれ、本当だね。ねえどうしてかな? シェイプルさん教えて? なんでわたし、頬が熱いの? ねえ。ねえねえ」
「ああもうっ、知らないわよ! はいはい私の負けね!」
――なんかもう、このままでいい気がしてきた。
か、解析フェチ……
(ランキング登録タグの使い方を最近知りました。取り敢えず設定っと……)




