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39話 memory 4 trace error

「ふくっ、ひっく、えぐ、ううぅぅ……」

「ああもう、泣かないの。落ち着きなさい」

「だっ、だって」


 魔物は全部、シェプルンさんがやっつけてくれた。

 この人は食物連鎖ピラミッドの頂点だ。


 でも、怪我しちゃった。



=====



 いつもお世話になっている、シェプルンさんを看病したいと思います。

 怪我が増えたのは××のせいだし、ここは是非とも看病して早く治るようにしたい。


 問題は、シェプルンさんの部屋が分からないことと、盗賊がうろついていてそこまでたどり着くのが難しいことだ。


 【解析】

 シェプルンさんの部屋の場所を調べて。


 【虚像】

 ××は鼠。ネズミ。ねずみ。


 移動。


 到着。


「え、ミルピィ? どうしてここに? それに、なんで泣いてるの」

「ぐすっ、こ、怖かった……」


 盗賊の横を通るのは気が気じゃなかった。

 そのせいで泣きながら歩く羽目になった。


 でも、頑張った。それでも諦めずにたどり着いたのだから。

 凄く近かったけど。


 涙が止まり、落ち着いてきたらここに来た理由を告げる。


「えと、その、……えっと……わたしが、看病……する……」


 そのための道具もちゃんとある。

 テーブルの上に、採ってきた草花を置いた。

 これを調合して、特製のお薬を作るんだ。


 さて、まずはすり鉢で……すり鉢?


「えと、すり鉢……どこ……?」

「すり鉢? 調理道具なら、台所にあるけど」


 全然準備が足りていなかった。

 中には茹でる物もあるんだけど。



=====



「ひっく、ぐす……」


 頑張った。

 泣きながらも、薬を完成させた。

 道具を忍び足で取りに行き、ランプの火で草の根を茹で、混ぜて混ぜて完成した。


 塗り薬と飲み薬。

 内と外から治療を施す。


 嫌がるシェプルンさんに、多少強引に治療を施した。

 人に触るのは涙が出る行為だったけど、手元が狂わないように頑張った。



=====



「気持ち悪いくらい早く治ったわね」

「ふふん…………ぇと、ぁぅ……」


 薬のおかげでシェプルンさんはすぐに治った。たった数日で。


「まあ、あの飲み薬も気持ち悪かったけど……」

「えと、あのその……良薬、口に苦しって、言って……」

「あの薬を見たとき、正直死を覚悟したわ。でも、ミルピィの言うとおりだったわね。ありがとう」


 なんでこの人、魔物じゃなくて治療でそんな覚悟してるんだろう。

 まあ、塗り薬は黒っぽい緑の粘ついた、湿布みたいなものだったし、飲み薬はすごいエグそうだったけど。

 ちなみに××は味見で悶絶した。



=====



「その、わたし……考えたの。えと、シェプルンさん、恩、返さないとって。……だから、その、わたし……が、できるの……身体で払う、くらいかなって……えと、その……だから……どうぞ」

「なんでそうなったのよ……」

「わたっ、わたし……頑張る、よ。……ぁ……脱ぐ……?」

「脱がなくていいわ」

「着衣……ぅん、頑張る」


 ぷるぷるぷるぷる。

 ば、ばっちこーい……。


「変なところで頑張らなくていいから。大丈夫よ。そんな風に無理に返そうとしなくても」


 い、要らない?

 据え膳?


 この、娘じゃなかったらとっくにごちそうさましてるくらい美味しそう、いや、むしろ娘だからこそ美味しそうと母に言われていた××を据え膳で食べないとは。

 いや、期を待っているのかも。食べ頃まで熟成してるのかも。なるほどね。とれたてよりもそのほうが美味しいって言うもんね。


 ××は、生け簀の中で餌を貰っている魚の気分でご飯を味わった。



=====



「ぁ……シェプルンさん……えと、おはよう」

「おはようミルピィ。それと、私の名前、シェイプルだからね?」

「ぇ……せっかく、覚えたのに……」

「間違って覚えていたら意味ないでしょ……」


 しぇぷ、じゃなくて、シェイプルさんが今日もご飯を持ってきてくれた。

 いつもの粗食。そろそろ××の栄養状態が心配になってきた。たんぱく質食べたい。


 ××だけこんな食事なんじゃなく、みんなこんな感じらしい。養ってもらってる××が文句を言うつもりは無いけど、ちょっといろいろ心配になっちゃうよね。

 そうだ、道端には食べられるものも生えていた。苦味とかが強いみたいだけど、あく抜きなど下準備をしっかりやれば大丈夫。


 よし、うまくいけば一品増やせるかも。


 流石に今回は一人で採りに行くつもりはない。あのときは焦っていたし、魔物への警戒心が足りていなかった。

 しぇ……いぷる。シェイプルさんを味方にしよう。野草を食べようの会に入会してもらおう。そして実行委員に任命だ。


 その旨を説明する。


 えとえと、あの、その。

 言葉を探して目が泳いで、ふと目が合って思考が止まる。ぁぅ……。俯く。朱に染まる。


 いつもの調子で時間が掛かったけど、何とか伝えた。

 ふぅ、頑張った疲れた。あとは明日からでもいっかな。


「つまり、ミルピィの知識で食べられる野草を採って食べようって話ね?」

「えと……ぅん、そう……」

「なら、あなたも外に出ないと無理じゃない? 私には見分けが付かないわよ?」

「ぁ……」


 そうだった。

 【解析】を使って食べれるかどうかを調べなきゃいけないから、××は強制的に実行委員だ。


 ご飯、我慢しようかな……。

 そこまで頑張らなくても大丈夫だよ。大丈夫、ちょっとくらい栄養が足りなくても人間生きていける。


 あ、体調を【解析】で調べればいいんだ。解析開始っと。


 ……栄養以前に運動が足りないのか。なるほど。知ってる。

 あと、病弱だと言われた。……だから知ってる。

 あと、チビだとも……え、それも駄目なの? 平均と比較して? なるほど。


 やめてぇ。××をそんなに不健康だと知らしめないでっ。知ってるってば!

 誰よりも早く成長期を迎え、誰よりも早く成長が止まった××。たまに母からまだ成長期は来ないのかとからかわれる。違うの、もう数年前に身長止まったの。

 自宅で健康診断をやって、前年度比で1センチ縮んでいたショックは未だに癒えていない。あれは計りが悪かったんだ。メイビー。


 一時期グンと身長が伸びた頃があったから成長期があったのは間違いない。ただ、あっという間に終わっただけだ。

 今ではもう、身長が年齢ごとの全国平均と差を付けられるばかりの日々を送っている。


 ずっとちんまいままで良いのよと母は言った。食べやすいサイズよねとも言っていた。どれだけあの人は野獣の目で娘を見ているのだろう。


 ……ついでにシェイプルさんも診断しとこっかな。解析開始。うなれ××の脳みそ! 頭痛しない程度に!


 あ、やっぱりちょっと栄養不足……。

 そうだよね。毎日こんな食事じゃそうなるよね。胸に栄養盗られているだろうし。この栄養泥棒! ……××の胸はまだ積載量に余裕があるから、今ならこっちに来てもいいんだよ。まだ何も積んでないよ。


 でもそっか。このお胸も栄養不足なのか……。

 ……訂正。そちら様は栄養が豊富なようで。正しくはシェイプルさん。


 シェイプルさんには健康であってほしい。そして末永く養ってほしい。


「……頑張る」


 ××は、不健康な身体にとても気合いを入れた。

~シェイプル団長のお部屋事情~

・ミルピィを保護、取り敢えず自室のベッドに寝かせる

・寝起きのミルピィに部屋から追い出される

・居座られる

・仕方ないから隣の部屋を使用←今ここ

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