3話 有能人事の帰還だよ
「お、旦那! 帰ってきたんですね!」
「ただいま戻ったよー」
アジトの入り口に見張りが二人立っていた。普段は見張りなんて置かないけど、今日はまだアジトが未完成だし、この辺りのことを把握していないから念の為置いたのだろう。
「君たち、今日の様子はどうだった?」
「はい! 今日は平穏そのものでしたね!」
「そうだな。のんびり過ごさせてもらったぜ」
なるほど、僕が必死こいて町に行っている間、子分たちはのんびりか。
「じゃあ何してたの?」
「そりゃあ勿論、子供たちと元気に遊んでやったぜ!」
「あいつら最近、変に知恵を付けてきたもんでなかなか歯ごたえがありますよ」
「それでもまだまだだがな!」
「クケケ、違いねえ」
「ガハハハハッ!」
「クケケケケケ!」
「笑い方きもっ!?」
普段敬語なのに……。
今に始まったことじゃないけどさ。
「あれ、旦那、そいつはどうしたんですか?」
「ああ、そういや見ない顔だなぁ」
ここでようやく二人の意識が新人したっぱ君に向く。
「君たちの新しい仲間だよ。ほらシタッパー君、あいさつ」
どんな人間関係も、まずは挨拶からだよ。
「はい! ターオズと言います! よろしくお願いします!」
「おお! 俺ぁアルガーってんだ。よろしくな」
「イゼルグです。旦那、また拾って来たんですね」
またって。そんなしょっちゅう拾ってないし。
それに今回は元々ここまで面倒見る気は無かったんだけどね。成り行きってやつだ。
「じゃあ、ミルピィ様は団長のところに向かうから。行くよシタッパー君」
「あ、うす!」
したっぱ君を連れてアジトである洞窟の中に入る。
中は一定間隔で発光石を配置してあり、真っ暗ということはない。
団長が改築したため、アジトの中は今朝よりも変わっている。団長はたぶん奥に居るだろう。地位の高い者は奥の部屋と相場が決まっている。
適当に奥へ奥へと進むと、予想通り団長の部屋に辿り着いた。簡易の扉が取り付けられていて、扉に『シェイプル』と団長の名前があった。
「団長、僕だよ。ミルピィ様だよー」
コンコンコンと扉を叩きながら声を掛ける。団長は中に居たようで、すぐに扉が開けられた。
「帰ってきたのね。お帰りミルピィ」
「ただいまー」
正面を向いていると、視界の殆どをその魅力的な巨山に埋め尽くされてしまうので、僕は顔を上げて話をする。
「そっちの彼は?」
「新入りのシタッパー君だよ」
「ターオズです。よろしくお願いします!」
したっぱ君はさっきから気合が入っているのか声が大きい。外では気にならなかったけど、アジトの中だと少しうるさく感じる。
「団長のシェイプルよ。で、ミルピィはまた拾ってきたの?」
「む、またじゃないもん」
この半年で数人しか連れてきていない。
そんな毎回何でも拾ってくる子供みたいに言われるのは心外だ。
「だって、うちの団員が増えるときってミルピィが連れてきたときだけじゃない」
「戦力増強は必要なことなんですぅ」
「もう、子供も連れてきたことあるくせに」
「……駄目じゃないでしょ?」
「まあ、駄目では無いけどね」
ならいいじゃん。
それにこの盗賊団には元々子供が何人か居た。同年代の遊び相手も増えることだし問題なんて無いと思う。
僕たちのやり取りを不安そうに見ているしたっぱ君に団長が気付くと、体を僕からしたっぱ君に向けた。
「えーと、ターオズでいいわね。取り敢えず、できることを教えてちょうだい」
自己PRってやつだね。
頑張れしたっぱ君。ここで良いところを見せて、僕が有能な人事だって証明するんだ。
「は、はい! 俺はどこでも寝ることができます!」
「そ、そう……」
したっぱ君!? なんでそこチョイスしたの!?
「確かに、盗賊は町に入れないからどこでも寝れるのは大切よね……」
団長も、そんなの別にフォローしなくていいから。
そいつ別にそれしか特技無いわけじゃないから。
「大体したっぱ君は地味だけどちゃんとスキルを持ってるでしょ。そっちをアピールすればいいのに」
「あ、そうでした……」
「え? スキル持ちなの?」
「はい。……でも、体の働きが良くなるだけなんすけど」
「体の働き?」
まあ、そう言われてもすぐには分からないか。
「【活性】っていうスキルで、食べ物を消化して栄養にすることや、体力の回復、傷の治りなんかが早くなるスキルだよ」
「へえ、そうなの。それなら目に見える効果は無いけど、確かに役に立つ能力ね」
「兄貴、よくそんなスラスラ説明できますね。俺の話を聞いただけなのに」
「ふふん」
これはたぶん褒められた。取り敢えず自慢げにしておく。
実はさっき【解析】でしたっぱ君のスキルを調べておいたんだよね。休憩中のしたっぱ君をガン見することで、結構情報を得ていたりする。
【解析】はその気になれば何でも詳細を調べることができる便利なスキルだ。その辺にある草花の効能を解析することもできるし、他人の持つスキルの効果を知ることもできる。
ただ、デメリットとして使いすぎると頭痛がする。初めて使ったときはそれを知らず、あちこちに【解析】を使って酷い目にあった。
【解析】で最初に【解析】スキルを調べる必要があったとは思わなかったね。
「それじゃあターオズ、貴方を仲間として歓迎するわ。それと、この団にスキル持ちは私とミルピィだけだったから、貴方で3人目ね」
「はい! お世話になります!」
「話も済んだことだし、夕食にしましょう。もう出来てるでしょう」
「はー、やっとご飯だぁ。それじゃあ団長、早く行こ」
「はいはい」
僕はまだアジトの中を把握していないから団長に付いていく。そのさらに後ろにしたっぱ君も付いてくる。
「アジトはこれで完成なの?」
「ええそうよ。あとは前のアジトに置いてきた物を揃えるくらいね」
引っ越しをするとき流石に全ての物は持ってこれないから、こっちで揃えれる物は置いてきた。今日は食料を優先して買ってきたけど、それらを揃えるのも僕の仕事だ。
「必要な物はリストアップしといてね。次町に行くときに揃えるから」
「分かった、皆に伝えておくわ」
「あ、したっぱ君も荷物持ちとして町に一緒に来てもらうからそのつもりでね」
「うす! 分かりました」
したっぱ君はあの町で暮らしていたんだから、道案内としても適役だろう。
「あ、でも俺もこれで盗賊だから町に入れないんじゃあ」
「ミルピィ様の【虚像】はぁ、他の人のステータスも欺けるから大丈夫」
「ミルピィのスキルは本当凄いわね。そうだ、寝る前にアジトの隠蔽もお願いね」
ちょっと惜しい。褒めるならスキルじゃなくて僕自身にしてほしい。
団長に連れられてアジトの中を進むと、開けた空間に出た。広場、もしくはリビングといった場所だろう。
部屋の中には団員が集まっていて、奥には大鍋が置いてある。大人数の食事を一度に作るとなると、大体が大鍋で煮込むものになるんだよね。
ちなみにうちの盗賊団の人数は20人近く。
「今日のご飯は?」
「ああ旦那、帰って来たのか。今日は余りものをぶっこんだスープだぜ」
「旦那、やっと帰って来たな。パンが足りないんで旦那待ちが何人もいんだよ」
「うわ、思ったより食料ぎりぎりだったんだね。パンは彼から受け取って。新入りだよ」
「おう、新しい町へ行ってもう新入り連れてきたのか。旦那も世話好きだなぁ」
「いいから早くご飯ちょうだいよ」
今日の料理当番を急かしてスープをよそってもらう。それからしたっぱ君にパンを出してもらって、ようやく夕食だ。
そういえば、今もずっとしたっぱ君に買ってきた食料を持たせたままだった。……まあ、食べ終わってからでもいいか。僕もまだ仕舞う場所知らないし。
とにかく今はご飯だ。