38話 memory 3 scanning error
ある日、衝撃的な事実を打ち明けられた。
「実はここ、盗賊団のアジトなのよ。それで私は盗賊の団長」
「……ぇ……しぇ、ぷるるに、犯される……ぁぅ……」
「ああ大丈夫よ団員にはここへ近付かないように……なんで私になのよ!?」
大きな声で恫喝された。
もう駄目だ。終わった。
××の貧弱なパワーでは抵抗も無意味だろう。
身体を投げ出して、捌かれる直前の魚の気持ちで目を閉じた。
ああ、このベッドはこの人にとって、まな板だったんだ。
「ぁぅ……わたし……こぅ、見えて、初めて……だか……ぅぅ、優しく、してね……?」
「こう見えてって、どう見えてると思っているのよ……。いや、そんな心配しなくても大丈夫だからね?」
「ぇ……つまり、その……えと、テクニシャン…………なの?」
「なんてこと言ってくるのかしらこの子……」
=====
「いい加減着替えなさい? その服洗ってあげるから」
「む、剥かれる……!」
「あなた私をどういう目で見てるのよ!?」
服を脱げと言うのだから剥かれるのは間違っていないはずだ。
母は言っていた。××の肌はおいしそうだから、あんまり人に見られないようにしろと。
その割に露出の多い服をよく買ってきた。それはそれ、これはこれらしい。まあ、部屋でしか着ないからいいんだけど。
でも、そのせいで今着ている服も、結構露出が多い。これは部屋着だからっていうのもあるけど。いや、そもそも全部部屋着か。
まあ、冷静に考えてみれば、母は戯れ言しか言わない人だった気がする。一々真に受けていたら大変なことになる。
見れば、ワンピースタイプの部屋着は結構汚れていた。
確かに洗わないと。諦めて服を脱いだ。
「ちょっ、急に脱がないでよ」
「……?」
脱げと言ったり脱ぐなと言ったり……いや、脱げとは言ってないか。まあいいや。
「えと……はい……お願い、ね」
脱ぎたてを手渡す。
「うわ、なにこの手触り。もの凄く高級な物の気がするんだけど」
「ぁぅ……その、ぅ、売らない……でね……」
「わ、分かってるわよ……」
「えと、あと……その、嗅がない、で、ね……」
「分かってるわよ!」
口ではどうとでも言える。
でもその、恥ずかしいから本当にそういうのはやめてほしい。
「というかあなた、これしか着てなかったの? 下着は?」
「その……えと、パンツ、洗おう、と、して……ぁの、どこか、いった……」
水で洗って、絞って、干して、どこかいった。
わりと前のことだから、ちょっと忘れていたくらいだ。
「どこかって、あなた殆どここから出ないじゃない」
「ぅん……お花摘み、くらい……」
「それでなんで無くすのよ?」
「えと、別に……いっかな、なんて……ぁぅ……」
「はぁ……部屋、探すわよ」
二人で捜索した結果、ベッドの下から見つかった。
次の日、その二着は綺麗に洗って渡された。他の人に任せられないから、シェープルルンさんが洗ったらしい。手もみ洗いだ。嗅いでいないと信じたい。
=====
ぴくりと、シェプルンさんが何かに反応した。
「……ど、したの……?」
「魔物がこの近くに居るようね。……少し見てくるわ」
そう言って、シェプルンさんは部屋を出て行ってしまった。
ご飯を食べながら待っていても、なかなか戻ってこない。
少しって言ってたのに。
ご飯も食べ終わり、いつも通りぽけーっとしていると、ようやくシェプルンさんが戻ってきた。
ただ、腕に布を巻いていたのが気になった。
「それ、えと、えと……どう、したの?」
「これ? 魔物を追い払うときにちょっとね」
「……その……まものって?」
「え? 魔物は魔物でしょう?」
当然って感じに返された。
どうしよう。ここは魔物が居て当然のバイオレンスな世界だったらしい。
「ああ、ご飯はもう食べ終わったのね。それじゃあ下げるわよ」
「えと……ありがと」
「どういたしまして」
シェプルンさんは平然としているけど。
【解析】によると、結構深く怪我している。
どうしよ。どうしよう。
本当に簡単な治療しかしていなかった。
塗り薬も、巻いている布も、解析によるとあまり期待できない。
××がなんとかしなくちゃ。
【解析】は調べるだけだから、悪いところを調べられても、それを治すことはできない。
でも、解決方法まで調べてくれる。あのとき頭痛がするほど調べて得た知識の中に、役に立つものがあった。
問題があるとすれば、必要なものがここには無いこと。
あの人は、このままじゃ駄目だと何度も言ってきた。
でも、優しいから言うだけで、言うことも優しさだけど、××はそれに甘えてきた。
一宿一飯どころではないけど、恩があるなら返さないとね。
大丈夫。今の××には力がある。
スキルが三つある。それを駆使すればなんとかなる。
【虚像】
幻術。
姿が変わる。
何でもいいと思っていたら、今一番想う人、シェプルンさんの姿になった。
思わず胸をつか――もうとしたけどすり抜けた。
ふふっ、所詮この胸は偽り……。××には過ぎたものということか……。
靴がないから、布を両足に巻いて代わりにした。
心臓がばくばく鳴るなか、扉を開けて部屋から出る。
この辺りはお花摘みのために通るからまだ知っている。
構造から考えて、出口もなんとなく分かる。
「あれ? 団長、こんな時間にどこ行くんだ?」
「――!?」
男の人に声を掛けられた。
おっさんだ。盗賊オヤジだ。どうしよう。あ、涙出てきた。
いや、そうだ。××は今シェプルンさんになってるんだった。
シェプルンさん力を貸して――。
幻術シェプルンさんが、手をシッシッと払っておっさんを追い払った。
正直この態度はシェプルンさんの印象を悪くしそうだけど、やむを得ない。
××は盗賊を退けた! ××はレベルが上がった!
……ぐすん。
アジトを出た。
久しぶりの外だ。異世界に来て初日以降引きこもっていたからね。生粋の引きこもりだよ。
夜中で暗い。これは、探すのが大変かも。
……そんなことはなかった。
【解析】がありそうな場所を調べることができた。これで最後。
土を掘り返し、根っこを抜く。
やった。終わり。帰ろう。
アジトに戻る途中。
あとちょっとのところで、帰れなくなってしまった。
野良犬。いや、魔物。
集まってきた。
終わった、××の人生。
食物連鎖ピラミッド下層部に位置する××では、こんな見るからに肉食ですよってお方には勝てない。
美味しくいただかれてしまう。××はさぞや美味しそうな獲物に見えているだろう。よくそう言われる。食べちゃいたいくらい。
あ、幻術解けてる。
まあ、そのほうがいいか。見た目だけでもシェプルンさんが食べられるのは気分が悪い。××はどう料理しても美味しい高級食材だから、大丈夫。
ああ、やめて。セルフサービスじゃないから。シェフがちゃんと切り分けてお皿に盛るから。押さないでください。のし掛からないでください。順番守って。
――声がした。
そこにはシェプルンさんがいた。
シェプルンさんは、一匹、魔物の頭を吹き飛ばした。




