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31話 酔った後のことをはっきり覚えているタイプ

 周りに大きなシャボン玉のようなものが浮かんでいる。


「な、なんすかこれ?」


 なんとか君が幾つも漂うシャボン玉の一つをおっかなびっくりつついた。

 それはパチンと弾け、弾けた膜が飛沫となって辺りに飛び散る。


 飛沫が落ちた場所からは、にょきにょきと草花が生えてきた。


「うおっ、なんだこりゃ!」

「おいおい、どうなってんだ一体」


 あちこちでシャボン玉が弾け、そこの景色を変えていく。


「ミルピィ! どうしたのよこれ!」


 騒ぎに気付いて団長がやってきた。


「これ幻術でしょ、何やって……あなた、ずぶ濡れじゃない」

「団長団長、ねえ団長……団長もずぶ濡れにしてやろうかあー!」


 ミルピィは、団長に襲いかかった!


「うわっ、やめなさいっ! ミルピィあなた、べたべたするのだけど!」

「シェイプル団長! 兄貴はさっき、転んでそこのワイン樽に突っ込んだんすよ!」

「団長ハグしてっ! ねえ団長!」

「だからやめなさい……! この子もしかしなくても酔っぱらってるの!?」


 ミルピィのワイン漬け。

 べたべたで、舐めると甘い。とってもワインの匂いがする。


 辺りに生えてきた草花はどんどん育ち、そして土離れの歳になった。

 植物たちは根っこが地面から抜け出て、よっこらせと立ち上がり移動を始める。

 彼らは今後険しい道のりを経て、立派に生き残ったものだけがここに帰ってくるのだ。


「ちょっ、誰かあれ止めて! アジトの外に出さないように!」

「そうは言ってもどんどん増えてるんですが!?」

「ああもうっ、ミルピィ、あれ止めなさい!」

「ハグして! ねえ団長! 団長ってば!」

「分かった! 分かったから!」

「やった。……全員しゅうごー!」

「え? きゃああああ――!?」

「「「団長ー!?」」」



=====



「禁酒」

「不可抗力だったんです」


 辺りには、満身創痍の盗賊たち。


 僕はアジト内の広場の中心で、団長に怒られていた。

 べたべたのまま。団長もちょっとべたついてる。


「ただ酔っぱらうだけならまだしも、スキルを暴発させるなんて……」

「ご、ごめんね?」


 団長は大量発生した雑草に襲われたことを思い出しているのだろう。

 どこか遠い目をしていた。


 うん、覚えている。


「まあでもさ、植物でよかったよね? 僕がお魚の気分だったら生臭いことになってたよ」

「嫌なこと言わないでよ……」


 自分で言っといて僕まで嫌な想像をしちゃったから、誤魔化すために綺麗なものを見たくなった。

 金魚の幻術を出す。

 観賞魚なら大丈夫だろう。


 二匹の金魚がゆったりと空中を泳ぎ始めた。長いヒレが綺麗に流れる。


「これ見て機嫌なおして?」

「なんで今、魚を見せてくるのよ……あ、でもこの魚綺麗ね」

「そうでしょそうでしょ」


 なんてったって観賞用に品種改良された生き物だからね。


 ……そろそろお説教終わんないかな。

 気付いたら仮面を踏んで割っちゃってたんだよね。罅が入ってたけど、それで完全に駄目にしてしまった。

 ずぶ濡れでフードも外してるから、今は濡れた髪で顔を隠している。

 貞子スタイルだ。


「あなたのスキルはただでさえ強力なんだから、気を付けなさいね?」

「反省してます」

「それと、この際だから一緒に言うけど、夜中にあなたの部屋の近くを通ると幻覚を見るって話を何度か聞いてるのよ」

「えっ」


 それは知らないんだけど。

 え、僕のせいなの?


「ど、どんなものを見るの?」

「聞いた話は全部バラバラよ。辺りが急に草原に見えただとか、自分が鎧を着ていたとか」


 僕が寝てるときって、スキルの制御が出来てないのかな?

 それ、ちょっと問題じゃない?


「本当に、気を付けなさいよ?」

「善処します……」



=====



 体を綺麗にして、服も着替えた。

 そのあと、考えたことを実行するために団長の部屋を訪ねる。


「ミルピィ様考えました。寝てるときのことは覚えてないし、一人ではどうしようも無いなと」

「まあ、注意しといてなんだけど、私もそう思うわ」

「というわけで一緒に寝よー」


 寝床は変えたくないから、僕の部屋でね。


「それ、私に幻覚を体験させるってことよね」

「うん。やっぱ又聞きだとそこまで分かんないし、その人たちも部屋の近くを通っただけでしょ? ここはきちんと部屋の中で影響を確認しなきゃ」

「うーん……そうねぇ」

「渋らないで幻術だけなら安全だから! 一緒に寝れるのは団長くらいしか居ないんだよっ。他の名前も知らない人たちじゃ無理だから!」

「あなた……まだ、名前も覚えていなかったの? もうそれなりの付き合いなのに」

「団長は知ってるよ、シェイプルでしょ。ふふっ、シェイプル団長」

「なんで嬉しそうなのよ。じゃあ、この団の最年長者の名前は?」


 最年長ってあのおっさんでしょ?

 あ、あ、あ……い、い、い……う、え……。


「お、お、おっさ……」

「ドウゴよ。35歳の。あなたも一応は副団長なのだから団員の名前くらい覚えなさい?」

「顔は、顔は出てきてたの! ちょっと名前を知らなかっただけだから」

「それを直しなさいってば。まったく、未だに覚えてないほうが不思議よね」


 人の名前を覚えるのは、案外難しいものなのだ。人それぞれが固有の、意味の分からない文字の羅列を持っているのだから。

 僕からすれば、一発で覚えられる人が不思議でしょうがない。


「まあ、その話は置いといて。どっちにしろおっさんと同じ部屋では寝れないよ。団長お願いっ」

「はあ、分かったわよ。確かに幻覚については確かめないといけないしね」

「団長ありがと! お礼にハグしてあげる!」

「それ、さっきも散々されたのだけど。まだ酔ってないわよね?」


 さあ?

 でも、まだちょっとテンションが高い自覚はある。


 それでも特に支障はないからね。


「じゃあミルピィ様の部屋で寝よ。僕のベッドのほうが大きいし」

「え、そうなの? なんで副団長のほうが良いもの使ってるのよ」

「はははー」


 都合の悪いことは笑って誤魔化す。

 出来る大人は誤魔化しがうまい大人だ。そんな大人に私はなりたい。


 華麗に誤魔化したあと、団長を連れて僕の部屋に戻る。

 そのまま就寝。


「団長ハグぅ」

「まだ言ってるの?」

「わたしは既に、あなたの虜なの。その胸が、わたしを惑わすの」

「変なこと言ってないで早く寝なさい? あなたが寝ないと幻覚の確認ができないじゃない」

「団長は特別ね? 特別だからスキンシップできるの。他にはあの子くらいだから」

「あの子ってティールのことよね。……あなたまさか、ティールの名前も覚えてないの?」

「……ソンナコトナイヨ」

「あなたティールには結構気を配ってたじゃない……うちに連れてきたのもミルピィなのに」

「人間誰しも苦手なことの一つや二つあるものだよ。一見完璧なこのわたしにも、苦手なことはあるのです」


 得意なことは詐称。苦手なことは運動と人の名前を覚えることです。

 みんな、名前を覚えてほしいのなら名刺を配ればいいと思うの。または印象的な自己紹介を心掛けるべきだね。

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