29話 とっても祝われたい
パーンパーカパーン、パーンパーカパーン。
あれ? なんか違うな。
ジングルべール、ジングルベール……これは違う。
あれ、ド忘れした。うーん……。
ああ、そうだ。思い出した。
そのまんまじゃん、なんで忘れたんだろ?
ハッピバースデートゥーユー、ハッピバースデートゥーユー。ハッピバースデーディア、ミルピィ。ハッピバースデートゥーユー。
おめでとー!
……うん、虚しい。
今日が誕生日だって、気づかなきゃよかった。
いやまだだ。そう考えるのはまだ早い。
まだ僕は本気を出していない。もっと、もっと気分を上げていこう。
沈んだ気分を変えるためにも一度着替える。
お祝いの席ということで、明るく華やかな衣装に身を包む。
袖がひらひら。スカートふりふり。結った髪もさらさらと揺れた。
最後に主役っぽく、赤い円錐の形をした小さい帽子を被る。これは手作りだ。
指ぱっちん。
パチンという音の後に、部屋の中が一変する。
薄暗かった照明が明るく、オレンジ色の暖かな光に。家具は小物が増えて、元からあった物も可愛い系にチェンジ。それプラス、お祝いムードを足すため全体に色紙の飾りを付けた。
気分がのってきた。
いいねいいね。もっといこう。
新技"虚妄混命"
昨日買ったぬいぐるみが動き出す。
ひょこひょこと歩いて近寄ってきた。……かわいい。
この技は、何というか……よく分かんない。
【虚像】ってこんなことできたんだっていうね。幻術見せるだけのスキルと思わせて、その本質は全然違う。
まあ、甲冑を実体化できる時点で幻術じゃないよね。
このぬいぐるみ、なんて言う生き物なんだろ?
見たことが無い動物のようだ。もしかしたら魔物かもしれない。
さあ君たちぃ、僕のことを祝ってくれー。
……彼らは言葉を発さない。
そもそも作り物だし。外も内も。
これ結局独りで祝ってることに変わりないよね。
ボッチバースデー。気づいてしまったが最後、虚しさが止まらない。
0と一には越えられない壁がある。えらい人が言ってた。きっと。
ここでこのまま、お祝いしてくれる人ゼロで過ごすよりは、誰か一人でも祝ってくれた方がいい。後々思い出して悶絶しないためにも。
団長。団長に祝ってもらおう。
そうと決めたら早速幻術を掛けて、団長を呼びに部屋を出た。
=====
「団長」
「ミルピィ、どうかした?」
「団長を招待します。こっちきて」
「え? ちょっと……」
話は部屋に戻ってから。
団長の手を引いて、僕の部屋に戻る。
部屋に入ると同時に、幻術でクラッカーを鳴らした。
「きゃっ、な、なにするのよ……この部屋どうしたの」
「今日はミルピィ様の誕生日なの! 祝って~」
「え、そうなの? それはまあ、おめでとう」
なんか気の抜けたお祝いだったけど、取り合えずはよしとしておこう。
団長はいつまでも部屋の前に立っていたから、腕を抱き寄せて部屋の中に引っ張った。
後ろ手に扉を閉める。
「あれ、あなた今スカート履いてる?」
引っ張ったときに手が触れたかな。
まあ部屋の中なら大丈夫。
身体に掛けていた幻術を解き、さっきまでのパーティースタイルに戻る。
「あ、あー。あーあー。ごほん」
「珍しいわね。ミルピィがその姿を見せるなんて」
「部屋の中だし、団長は最初からわたしの姿を知ってるからね」
声の調子を変えて、ノーマルモード。
団長には会った最初にこの姿を見られているから、別に今更見せても問題ない。
トテトテとぬいぐるみ二体が近寄ってきたから、ヒョイと持ち上げて腕の中に収めた。
「団長にも片方貸してあげる」
二体は持ちづらいからね。
一回り小さい方を差し出した。
「これは幻術じゃないのね……その割に動いてた気がするのだけど」
「ぬいぐるみが動く話ってよくあるよねー」
取り敢えず、二人でベッドに座る。
……お誕生日会って何するんだっけ?
えーと……お食事、ロウソク付きのお誕生日ケーキ、プレゼント。
何一つ無い。
もしかして、これで終わり?
さっきのおめでとうで全部終わっちゃった?
「……団長、何か面白いことやって」
「なんて無茶振り言い出すのよ……」
「団長なのに……」
「サーカス団か何かじゃないのだから無茶言わないでよ。……もしかして、他にすること無いのかしら」
微妙な雰囲気に、遂に団長が気づいてしまった。……そりゃ気づくよね。
「ねえ、この国では誕生日に何するの?」
「あなたどこ出身よ……。そうね、成人するときには家族から贈り物を貰ったりするけど、あとは軽く祝っておしまいよ」
「え、それだけ……」
「あ、貴族は毎年豪華な食事と祝い物を貰えると聞いたことがあるわ。……あなた、本当に貴族の生まれだったりするの?」
「おのれ貴族め……」
ずるい。
貴族へのヘイトがまた上がった。
「しょうがない、何かして遊ぼうか。……ぬいぐるみを戦わせよう」
ちょうど二体居るし。
ぬいぐるみ達が愕然とこっちを見てきた気がするけど、たぶん気のせい。
腕の中から解放して、ベッドの上に向かい合わせる。
ぬいぐるみ達が何度もこっちを見てきた気がするけど、きっと気のせい。
「レディー……ファイッ」
二体のぬいぐるみが押し合いを始める。
「どっちが勝つと思う? わたし大きい方」
「私も大きい方なのだけど……」
「それじゃあ勝負にならないじゃん」
結果は、大きい方が勝った。
勝因は体格。でかいほうが強い。
「つまんない結果だったね。順当すぎる」
思ったことをそのまま言ったら、ぬいぐるみ達に謀反を起こされた。
ペシペシ叩かれる。
「ごめっ、ごめん冗談だよ。頑張った頑張った」
頭を撫でて誤魔化す。
頭を撫でるふりをして、頭を掴んで叩けない距離まで引き離したのも、撫でて誤魔化す。
「……なんだかここだけ、別の世界みたいな光景ね」
「そう?」
「あなたが非現実的過ぎて、ね。まるで、おとぎの国の住人のよう」
「詩的な表現をするね。ただのお誕生日会なのに」
でもまあ、ある意味間違いでは無いかもね。
だってこの場所には、空想が溢れている。
空想、幻想、虚構の世界。
【虚像】で生み出したものだからね。
この部屋は今、僕が創り出した世界だと言えるのかもしれない。
まあ、どっちでもいいけどね。
「そんなことより祝ってほしい」
「はいはい祝ってるわよ。そういえば、何歳の誕生日なのかしら?」
「ミルピィ様14歳!」
「……あなたまだ未成年だったのね。考えてみれば、外見からしてそうなのだけど」
「まあまあ、1歳差なんて誤差みたいなものだよ」
この国では15歳で成人らしい。
僕もあと一年でおとなだ。
前は大人になるのはまだまだ先だと思ってたし、実際そうだったんだけど、気づいたらあと少しで成人かぁ。
……異世界って怖い。自分が一気に老けたように感じるよ!
ミルピィ様は中二。
一人称は外見に合わせてちょくちょく変えています。




