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2話 餌付けしたら、付いてきちゃった

 路地裏を出ると、ご飯をあげた彼も一緒に出てきた。僕は別れるつもりだったんだけど、彼には通じなかったみたいだ。

 さらにはその後の買い物にも付いてくる。


「あのさ、いつまで付いてくるの?」

「そりゃあ兄貴、いつまでも付いてきますよ。なんたって命の恩人すからね」


 そんな大袈裟な。

 というか誰が兄貴だ。確かに今は男の姿だけど。


「いや、付いてこられても困るんだけど」

「そんな!? 俺、役に立ちますから!」

「そんなこと言われても」


 僕が帰るのは盗賊団のアジトだ。そこまで付いてこられても困る。

 でも彼、帰る家も無い感じなんだよねぇ……。そう簡単には納得してくれそうにない。


 んー、まあ、別に言ってもいいかな? どうせ今の姿は幻術を掛けたものだし、もうこの姿を使わなければ大丈夫だろう。


「ここだけの話、実は僕盗賊なのね。だから付いてこられても困るわけ」


 僕は、彼に諦めさせるために正体をばらすことにした。


「え!? 盗賊!?」

「ちょっ、しー! しー!」


 大声を出されて、慌てて人差し指を口の前に出す。ここだけの話を大声で復唱しないでほしい。


「す、すいません」

「まったくもう、それで僕が捕まったらどうするのさ」

「返す言葉もございません」

「気を付けてよね」


 幸い僕たちの話を聞いている人は居なかったみたいだけど、近くに他の人もいるわけだし。


「でも、盗賊ならよく町の中に入って来れましたね」

「それはまあ、僕ほどの賊ならそのくらい余裕」

「なるほど、流石兄貴っすね!」

「ふふん、そうだろうそうだろう」


 兄貴と言われるのは違和感があるけれど、素直に称賛されて悪い気はしない。

 悪い気はしないから、もう少し彼の相手をしてあげよう。


「そういうわけで僕は買い物を済ませたら町の外にあるアジトに戻らないといけないから、付いてくるのもそれまでにしてよね」

「……あの、俺もその、アジトに連れて行ってくれないすか?」

「え? 盗賊のアジトだよ?」


 怖いところだよ? うちはそうでも無いけど。


「はい。それで俺も、盗賊団の仲間に入れてください。お願いします!」

「ええー?」


 裏路地で寝ていたくらいだし、盗賊だと名乗ってもお巡りさんを呼ぶことはないだろうと思っていたけれど、自分も仲間にしてくれと言われるのは予想外だ。

 そんなに切羽詰まってたのかなぁ。


「でも盗賊だよ? 犯罪者集団だよ?」

「分かってます。でも、このまま町に居ても飢え死にするだけですから」


 確かにさっきそうなりかけていたね。その割に今は元気そうだけど。

 うーん……ここで断った結果、本当に飢え死にしそうだよね……。


「……しょうがないなぁ」

「それじゃあ!」

「うん。団長に紹介してあげる」

「ありがとうございます!」


 こうして彼は盗賊の下っ端となることになった。



=====



「はあ、はあ……辛い。休憩にしよう」

「え、もうですか?」


 今はしたっぱ君を連れて買い物を済ませ、町から出てアジトに戻る途中だ。

 荷物が格段に増えて疲労も倍増。日中の疲れも合わさり、僕がバテるのにそう時間は掛からなかった。


「シタッパー君、この中から飲み物を出してちょうだい」

「分かりました。あと、俺の名前はターオズです」


 腰に付けていたポーチを手渡す。ちょっと身が軽くなった。ポーチはそのまましたっぱ君に持たせるとしよう。


「どうぞ」

「どうも」


 くぴくぴくぴ。


 あ、そういえばまだ幻術で姿を変えたままだった。一応町からは離れたし、したっぱ君はもう仲間だから解除してもいいかな。


 幻術を解いて本当の姿となる。と言っても、フードを被って仮面を付けてるから変装しているのと大差無いけど。


「うわ! 兄貴が小さくなった!?」


 完全に姿が変わったのにそこだけツッコムとは、人の神経を逆撫でるのが上手い下っ端だ。


「……今までの姿は、幻術を使った変装だよ」

「はぁー、そうだったんですか。凄いスキル持ってるんすね。でも兄貴、幻術の下にも変装をしているなんて随分用心深いんすね」

「いや、いつもこの格好だけどね」

「え、いつもそんななんすか?」

「悪い?」

「い、いえ、そういうわけでは」


 ちょっと睨むとしたっぱ君は視線を逸らした。仮面を被ってるから睨んでるのは見えないけど、雰囲気は伝わったみたい。


「はあ、それにしても疲れたなぁ。アジト遠いー」

「あ、なら荷物は全部俺が持ちますよ」


 それは大変ありがたい。したっぱ君を仲間にして良かったと思う瞬間だった。


「でも、体調はもういいの? 少し前まで動けなかったわけだし」

「はい。俺これでもスキル持ちなんすよ」

「へぇ、スキル持ちだったんだ。でもそれなら自力でお金を稼げたんじゃないの?」

「いえ、俺のスキルは【活性】って言うんすけど、残念ながら体の働きが普通より良くなる程度しか効果が無いんです」


 なるほど、そのスキルのお陰で回復が早かったのか。

 でも逆に言うとそれくらいしか効果が無いと。確かにスキルとしてはちょっとショボいかな?


 スキルは他の人とは一線を画す能力だ。中には魔法のような不思議現象を起こすものまである。

 スキルを持ってない人が大半だから持ってるだけでもそれなりに凄いんだけど、スキルにも優劣はあるからねぇ。


「まあ、普通の人より優れている能力があることは確かなんだし、地味だけど便利そうだからいいじゃん?」

「そうですね。何だかんだ今まで生きてこられたのも、この【活性】があったからだと思います」


 こき使ってもすぐに回復するってことだもんね。なんだ、超便利なスキルじゃん。

 励ますために適当に言ったことだけど、実際地味だけど使い勝手がいいかもしれない。……僕にとってもね。


「兄貴もスキル持ちですよね? 盗賊なのに門を素通りしたり、姿を変えたりできますし」

「まあね。町に入れる僕が居るから、うちの盗賊団は基本、食事に困らないよ」

「おお! それはありがたいです!」

「その分料理当番は交代制だからね。したっぱ君は料理できる?」

「自炊してたんで、多少はできますよ」


 それならうちの盗賊団でもやっていけるだろう。僕としては戦闘能力は無くてもいいけど、料理はできてほしいからね。

 料理のことを考えたらお腹が空いてきた。今はもう夕方だ。


「そろそろ行こうか。荷物持ちは任せたよシタッパー君」

「うす。あと、ターオズです」


 その後は荷物を全部したっぱ君に持たせて歩き進んだ。

 ちょいちょい休憩を挟んだけど、したっぱ君はスキルの恩恵か、休憩後はそれまでの疲労も消えて元気に歩いていた。


 アジトに着いたのは、完全に陽が落ちるぎりぎりになった。

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