27話 いい感じに馴染めてると思う
金縛りに遭う夢を見た。
筋肉痛のせいだ。
意識が覚醒して、目を開く。
身体がちゃんと動くのを確認したくて、すぐに起き上がった。
目の前に、誰かが居た。
それは人じゃなく、ゴーストだった。
「っ……!」
思わず声にならない悲鳴を上げる。
ぶ、武器! マジックアイテム!
確か置いた場所は……ゴーストの後ろだ。
そこ退いて! ナイフ取れないじゃない!
そもそもなんで僕の部屋にゴーストが居るの! 湧き出たの!?
僕は完全にパニック状態だったけど、何故か、ゴーストは一礼すると横にズレて退いてくれた。
……え? あれ?
「……消えて」
ゴースト消滅。
はあ~。
なんだ、幻術だったのか。
【虚像】スキルで見た幻覚。
偶にこういうことがある。スキルを完全に掌握できていないってことなのかなぁ。
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今日は筋肉痛だから休もうかと思ってたけど、部屋に居る気分じゃなくなってしまった。
僕にしては珍しく、人の居る場所に行きたい感じだ。
そんなわけで町に来た。今日もミール君、通常営業です。
「したっぱ君、なにか面白い依頼無いか見てきて~」
僕は筋肉痛で動きたくないからさぁ。
「俺に、兄貴が面白いと思うものは分かりませんよ」
「君が気になったものでもいいから」
「はあ、それでいいなら」
したっぱ君を見送り、僕は酒場側のテーブルで寛ぐ。
「お、今日もまた昼に来たのか。あんたらいつもギルドに昼飯食いにだけ来てんのか?」
ゆっくり休んでようかと思ったら、近くの席から他の冒険者に話し掛けられた。
何度か見たことのある人だ。
「そっちだって、よく昼に居るよね。ちゃんと働いてんの?」
「はははぁ~、痛いとこ突いてくんのね。俺だって稼げるときには稼ぎてえよ。でもなあ、ちょっと前にパーティが解散しちまってからなかなか次のパーティに入れなくてってわけよ」
「前のパーティ、なにかあったの?」
「痴情のもつれでな。男女半々の四人パーティだったんだが。いやちょっと聞いてくれよ、愚痴りたい気分なんだ」
別に他人の色恋沙汰なんて聞きたくない。
軽い気持ちで訊いたけど、これは失敗だったかな?
「俺じゃない方のもう一人の男なんだが、そいつがパーティメンバーの一人と付き合ってたんだ。まあパーティメンバー同士で関係を持つのは珍しくもないし、羨ましいくらいで特に気にしてなかったんだが、ある日、そいつがもう一人のパーティメンバーの女とヤってんのが恋人の方にばれたんだ。その後はもう揉めに揉めて結局解散」
「……で、君は?」
登場人物は四人。でも、話の中に一切彼は出てきていない。
「君って歳じゃないな。ビエイトと呼んでくれ。で、そのときの俺は、流石にやばいと思って取り成そうとはしたんだが、『あんたには関係ないでしょ!』。有無を言わさないこの一言によって、俺は撃沈した」
「それだけで、君のパーティ内での立場の低さが分かるんだけど……」
「名前で呼べって……。まあ、言われてみりゃ確かに男が尻に敷かれたパーティだったわな。でも気付いたら、俺だけハブられた関係図が出来上がってたわけだが……」
カースト最下位だった男は、そう言って寂しそうに下を向いた。
「でもよぉ、酷いと思わないか? 俺、関係あるだろ。散々ハブられた結果、勝手にパーティ解散されたこっちの身にもなってくれよってなあ」
「確かに、君は悪いこと何もしてないしね」
良いことも何もしてない気がするけど。まあそれも、関係ないと突っぱねられてどうしようも無かった部分が大きかったのだろう。
自分が関わっていない痴情のもつれに巻き込まれたのは、ちょっと可哀想ではあるよね。
「ああ、俺は思ったね。イケメン滅びろ、と」
「イケメンだったんだ……」
「そいつがリーダーだったんだが、顔と表面上の性格はよかった。あいつらは解散後、全員散り散りに町を離れたわけだが、あいつは別な場所でもきっと上手くやってると思うね。俺はこのときの一件の噂のせいでパーティにも入れないのに」
「それはお気の毒様」
「冷てえなあ。そうだ、あんたんとこのパーティに入れてくれよ。二人じゃ心もとないだろ?」
「いや、今のところ二人で足りてるね」
「はぁ、そうかい。荒らし屋を討伐したパーティに入れたら楽できると思ったんだが」
「スキル持ちだったら考えるかもね」
この人がそうで無いのは確認済みだ。【解析】で。
こう言っておけば、大半の人はすんなり断ることができるはず。引き合いにしたっぱ君がスキル持ちなことを出せばいいし。
「全員スキル持ちのパーティなんて滅多に居ねえだろ。トップランクでも狙ってんのか?」
「別にそんなんじゃないけど」
その後もだらだらと会話を続けて、したっぱ君が戻ってくるのを待った。
したっぱ君が来たら昼食を頼んで、食べながら報告を聞く。
「面白そうなのが一つありましたよ」
「お、どれどれ」
「メモして来ました」
そう言って、質の悪い紙切れをポケットから取り出してテーブルの上に置いて見せてくる。
『不死の馬鹿の連行』
確かに気になる。
内容を読むと、バカが馬鹿やってるらしいから連れてきてくれというものだった。
注意点として殺すなと書いてあるけど、その理由が殺すと別な場所で蘇るから逃がさないために殺すなという、明らかにおかしな内容だ。
……いや、連行と書いてあるのに殺さないよ。念押しだとしても理由がまた。
「確かに面白い依頼だね。真面目にふざけたこと書いてある辺りが」
「不死ってどういう意味っすかね?」
「蘇るとか書いてるし、そのままの意味なんじゃない?」
そういう人種ってあるのかな? 僕はよく知らない。
または、そんなスキル。
「おお、そいつなら知ってるぞ。一部じゃ有名だからな。馬鹿として」
「不死身としてじゃないんだ……」
まだ近くに居たさっき会話していた男が、再び会話に入ってきた。折角だし詳しく訊いてみることにする。
「なんでも【不滅】ってスキル持ちで死なないらしいぜ。そのせいか知らないが、毎回無謀なことをやってる人騒がせなやつだ。名前はシルクハッカ。そういや昨日見たぞ」
「え、じゃあそれ連れてくれば依頼達成じゃん」
この依頼書にはその馬鹿の居る細かい場所が書いてなく、そいつを探すところからやらなければいけない。
でも既に場所が分かるのなら、ひょっとするとチョロイ依頼なのかも。
「まあ、連行できればだけどな。そうだ、なら俺と一緒にその依頼を受けないか? 俺は居場所を知ってるが一人じゃ難しいからな。パーティは臨時で、報酬は山分けでいいからよ」
「んー……」
悪くは無いと思う。
依頼が出来なくていつも町に居る彼が見たんだから、居場所は恐らく町の中だろう。そう時間は取られないと思うから、上手くいけば一日で終わる仕事だ。
三人で囲めば人ひとり連行するのも難しくはないだろうし。
「よし、それで行こうか」
「お、一緒に受けてくれるか。今日は久々に酒が飲めそうだ」
時間はあるし、早速今から向かうことになった。
場所は僕がいつも怪談を語っている広場だ。……すぐそこだった。




