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26話 手頃な甘味を求めた結果がこれだった

 昨日はしたっぱ君留守番だったからね。

 今日は構ってあげようと思う。


「じゃあ、始めるよ」

「よろしくお願いします」


 剣を構えるしたっぱ君に幻術の兵隊を向ける。

 攻撃を躱す特訓だ。


 幻術だから剣の打ち合いとかはできないけど、これで対人戦に慣れればいいなと思ってね。

 いつまでもへっぴり腰だとまともに戦えないから。


 それに、この方法だと僕が楽だからね。


 暫く戦わせて、したっぱ君がへとへとになってきたところで休憩にする。

 ちょうどいい時間だから、ついでに昼食だ。ご飯を食べにアジトへ戻る。


「君、よく食べるよね」

「そうですね、人より多く食べるなと自分でも思います。たぶんスキルの影響すね」


 その通りだろうね。

 僕も、【活性】スキルのことは解析したから把握している。

 あのスキルで使うエネルギーの大半は、食事や体脂肪から補っている。スキルの恩恵で消化吸収も早いからその分腹が減るのも早いだろう。


 ちなみに、余分な脂肪なんかは真っ先に使われるから太らないスキルでもある。

 彼は女の敵だ。まあ、僕は動かないでも太らないから気にならないけど。


「兄貴こそ、もっと食べたらどうなんすか?」

「そんなに食べられないよ。それに、あんまり食べ過ぎるとおやつが入らなくなるし」

「いつの間におやつなんて食べてたんすかね……」


 僕はポケットに手を突っ込むと、その中からドライフルーツが入った小袋をチラッとだけ出して見せた。

 これは僕の常備品だ。


「ふふっ、良いでしょ」

「確かにうらやましい……」


 したっぱ君が珍しく欲を見せている。

 昨日のほにゃららツアーも辞退して欠席したあの彼が。


 食欲なのか。

 女より食い気なのか。


「……まあ、この食事では糖分が足りていないよね。疲れたときは甘いものだし、訓練頑張ってる君にはちょっとだけ分けてあげよう」

「え! 本当ですか!」


 思った以上に物欲しそうな目で見られたから、少しだけ分けてあげることにした。

 袋の中から二切れ取り出し、彼に手渡す。

 したっぱ君はそれを、凄い嬉しそうに受け取った。


 んー、彼はスキルのせいですぐにお腹が空くんだよね。なら自分から言わないからあまり分からないけど、もしかしたら普段の食事では足りていないのかもしれない。

 そういえば、部屋に干し芋が結構あったなぁ。あれ、すぐお腹いっぱいになるからなかなか減らないんだよね。あとで彼にも分けてあげよう。


「あー! ターオズ君おやつ持ってる!」

「いいな~」

「え、ほんとだ。なあなあ、なんで持ってんの?」


 あーあ、未成年組に見つかってるよ。

 みんな僕より年下で、女の子二人に男の子一人。あ、もう一人来た。


「どうしたの~?」

「見て見てティール、ターオズ君がおやつ持ってる」

「おー、ミルピィさまのお部屋にあったやつなの」

「ああ、内緒だよって言ったのに……」


 その場に居た全員の顔がこっちを向く。

 観念した僕は、ポケットから先程の小袋を取り出した。


「しょうがない、一人一個だけだよ」

「やったっ」


 好きな果物を選ばせて、四人に渡した。

 中身が減って寂しくなった小袋をポケットに仕舞う。はぁ、補充しなきゃ。


「なあミルピィ様、昨日は皆、どこに行ってたんだ?」

「ん? 聞いてるでしょ? 近くの町に行ってきたんだよ」

「確認のためにな。それで、なんで俺は連れてってくれなかったんだよ?」

「だって、まだ子供だからねぇ」

「俺だって男だし、こいつらより大人だぞ」

「君、何歳だっけ」

「11歳だ」


 おっと、思ったより歳が近かった。

 どうりで最近身長が……。


「ま、まあでも、君は未成年だし人手は十分だったからね。わざわざ連れて行く必要もなかったわけで」

「えー、けちぃ」

「それに、君にはこの子たちの面倒をみる役割があったからね。適材適所ってやつだよ」

「ふーん。なら、しょうがねえのかな」


 もともと物分かりのいい彼は、僕の説明に納得してくれた。

 普段はこんなこと言ってこないんだけど、今回は町に行ってみたかったのかな?


 そのあと彼は、まだどこか不満げな顔でドライフルーツを齧っていたけど、甘味に心を解されてすぐに機嫌を直した。

 甘い物は偉大だ。


「旦那ー!! 旦那は居るかー!!」


 洞窟の中に僕を呼ぶ声が響き渡る。

 うるさっ。


「はいはいはーいっ、ここに居まーす!」


 僕も負けじと声を出す。


「旦那! よかった、アジトに戻ってたのか」

「それで、どうしたの?」

「出たんだよ! ゴーストが、アジトのそばで!」



=====



 ゴースト。

 実体を持たない魔物の総称。

 種類は様々で、だいたいはゴースト系の魔物とひっくるめて呼ばれている。


 どうやらそれが、湧き水場の辺りで出たらしい。

 放っておくと増えるらしいから、早速討伐に向かう。


 いざ、ゴースト退治だ。


 目的地に到着。

 目標発見。


 眼球が飛び出た人間の霊。

 頭から血を流した人間の霊。

 人間の骸骨の霊。

 他にもいろいろ。


 ……びびってねえし。


 あ、こっち見た。

 ごめんなさい嘘です怖いですこっち見ないでっ。


「ちょおっ!? 兄貴、背中に隠れないでください!」

「だって、なんで全部人型なの!? 無理無理無理!」

「そんなこと言われたって、俺じゃあれ討伐できないんすけど!」


 したっぱ君と揉めているうちに、ゴーストたちがこっちに向かってきた!


「うわああああ!!」


 がむしゃらに腰に装備していたナイフを投げる。


 ――ギャアアアアアア!!


 ボシュウッ、という音とともにナイフを喰らった一体が消滅した。

 さ、さすがマジックアイテム。ゴースト相手にもダメージを与えられる。


 転送テレポートで手元に戻したナイフを再び投げる。

 それもゴーストの一体に命中して、消滅させた。同じようにしてもう一体消滅させる。


 残り5体。


 この瞬間、僕の筋肉痛が確定した。



=====



 マジックアイテムはゴーストに効く。

 中に高密度の魔力を内包しているかららしい。


 これがあるから、どんなゴミ性能のマジックアイテムでも一定の値段がするし、そんなのでも冒険者なら一つくらいは持とうとする。

 それでもマジックアイテムは迷宮産の道具だから、市場に出回りにくく供給が足りていないみたいだけど。


 マジックアイテムで武器、しかも邪魔にならなく誰でも持ち歩けるナイフ型。

 さらには高性能。安いわけがないよね。

 転送できるのに気付くほど目利きのできる人は少ないだろうから、本来の性能が知られればさらに値が上がるだろう。前の前の持ち主は金貨数十枚と査定されてたようだけど、それすらも怪しい。


「それにしても、まさかアジトのすぐ近くでゴーストが出るなんて……」

「前のアジトでは一度も見なかったものねぇ。この辺りでは多いのかしら?」

「うええぇ、それは勘弁してほしい」

「そんなに嫌だった?」

「もっと人魂みたいなの想像してた。あんなにガチなやつだったとは……」

「もしかして、ゴースト系を見るのは初めて?」

「うん。だって、前のアジトじゃ見なかったし」

「本当にあなたって、うちに来る前はどんな生活してたのよ」

「知らないほうが、なんかミステリアスでいいでしょ」

「こんなこと頼まれてたらそんな風には感じないわね。ほら、部屋に着いたわよ」

「うぐっ、あ、ありがとね?」


 今は既に夜が更けて深夜と言っていい時間帯だ。

 僕はふと、そんな時間に目が覚めた。とある理由で。


 そして寝ている団長を、部屋を訪ねて叩き起こしたのだ。とある理由で。


「それじゃ、おやすみ」

「おやすみ、ミルピィ」


 団長と別れて部屋に入る。


 ……暗い。

 一応、光源はあるからある程度見えるけど、部屋の隅っこなんか全く見えない。


 な、何も居ないよね?


 見えない何かにびくびくしながら、毛布を頭まで被って意識が落ちるのを待った。

 そうしてどれくらいの時間起きてたかは分からないけど、結構な時間が過ぎていったのを覚えている。

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