24話 自分なりに楽しみを見出す
僕が知っている物を売る方法は、それを取り扱っている店に直接売るか、商人ギルドに委託して売るかだ。
店の商人に売る場合、ものを知らない人が行くと買い叩かれたりするし、商品によっては信用がどうのでそもそも買ってくれない。
商人ギルドは、商売で貴族などの権力者が有利な状況に対抗して出来たギルドで、商人の利益や立場を守る役割があるそうだ。
だけどそれだけじゃなく、商人未満の売り手のために物を売る仲介をしてくれる。手数料は取られるけど。
また、いろんな物を売っているから、買う目的でもギルドは役に立つ。
多種多様な物が揃っているけど、値下げとかはしてくれないし、他よりちょっとだけ高いから購入客は店を回って買い物するのが面倒な人が多いらしい。コンビニみたいなものだと僕は思ってる。
だいたいは、冒険者仲間にそれとなく教えてもらった。
今回は商人ギルドで売る。
店に詳しくないし、商売のことに詳しくないからね。
ところで、僕の信条は『可能な限り部下にやらせる』だ。
部下を一人前に育てるための教育方針と言ったほうが良く聞こえるかな? よし、今度からこれを言い訳にしよう。
「というわけで、行ってら~」
「ういーっす」
適当に何人か選んで、幻術を掛けてあとは任せた。
幻術は体の動きに連動させてるオートモードだから、僕から離れてても大丈夫。
商人ギルドに向かわせ、僕はのんびり待つ。
飲食店にでも入りたかったんだけど、部下を大勢連れてぞろぞろ入るわけにもいかないから、飲み物を飲みながら広場で待っている。
「暇だねぇ」
「そ、そうだよなあっ」
「ん? なんで今ビクッとしたの」
「いやっ、別に何でもねえよ?」
「そう? ……なんかそわそわしてない?」
「べ、別に?」
というか、他の人も落ち着かなくしてるな。
結構怪しいからやめてほしい。
「……君たち、どうしたの?」
「……おい、お前何そわそわしてんだよ」
「てめえこそ」
「君ら全員だよ。なんか不審なんだけど」
「いやあ、この後のことを考えると落ち着かなくって」
「ああ……」
そういうこと。
うーん、なんか、面白くないなぁ。
今回のイベント、僕的にはつまんない。
他の人が皆揃って期待してる分、仲間外れの疎外感みたいなものがあるし。
「なあ旦那、これから行く場所って、どんな感じなんだ?」
「どんなって?」
「ほらあれだ、雰囲気とかそういうの」
「さあ? 行ったことないし」
「え……」
当たり前じゃん。
僕が、行くわけ無いじゃん。
「旦那はいつも町に来てるから、ばっちし経験済みかと思ってた……」
「なあなあ旦那ぁ、ちゃんと店、大丈夫なんだろうな!?」
「一応場所は確認してあるから。あ、それと、今回は班行動って言ってたよね?」
「ああ、班からはぐれるなとかいろいろ言われたな」
「候補の店は三カ所用意したんだけど、それぞれに班別で行ってもらうから。流石に十何人で行ったら取り合いになるだろうからね。まあ僕は実際に店の中まで確認してないから、店による当たり外れはあるかもだけどそれはしょうがないよね」
「なん、だと……」
「おいおいそれじゃあ……」
「じゃ、これ貰ってきたビラね。どの班がどこに行くか決めといて」
傍にいた一人に、三枚のチラシを渡す。
店の前で配っていたものだ。
「見せろ!」
「寄越せ!!」
「あ! テメこの!」
当たり外れを見極めるための重要な情報源だ。
即座に奪い合いに発展した。
奪い合い、班ごとのチーム戦に発展し、結局一枚ずつ回し読みするまでに暫くかかった。
僕はその間、出店で買ったお菓子を食べながら見守っていた。面白おかしく。
今はそれぞれの班に分かれて、説明文や料金を判断基準に相談をしている。
チラシと言っても顔写真が載ってたりはしないから、結局は料金が一番高いところを皆選びたがるだろう。
僕が選んだ三カ所にたいした料金差は無いけど、誰しも高い=良いものと考えるだろうからね。
まあ、商人ギルドに行った三人が帰ってきたら時間切れだ。
そのときのために、あみだクジでも作っておこうかな。
=====
「「「いよっしゃあああああああ!!」」」
「「「チックショオオオオオオオオオオオ!!」」」
あみだの結果に一喜一憂する野郎ども。
テンション高いなー。
そしてうるさい。
うん、ちょっと調子に乗ってふざけすぎたかも。
結構、いや、かなり目立ってる。
「それじゃあそろそろ行くよ。ほら、君たちも。別にまだ外れって決まったわけじゃないんだしさ。ちょっとの値段の違いじゃん」
場を収めるために励ましながらも、ようやく移動開始。
班ごとにお金を渡して、それぞれの店に見送っていった。
え? 僕?
行かないよ。当たり前じゃん。
最後の班に一緒に行こうと誘われたけど、当然断った。
彼らが店を出るには、もう暫くかかるだろう。
その間は、自由にさせてもらうとしよう。
さって、何しよっかな~。
お小遣いもまだ残ってるんだよね。
最近はしたっぱ君が傍に居たからなぁ。折角だから一人のときにしかできないことをしたい。
取り敢えず、幻術の姿を変えておく。
久し振りに女の幻術だ。20代前半くらいのお姉さん。
その姿で、男では買いにくい物を買っていく。
まあ、衣類や美容品なんかだ。
いやぁ、普段と違う店を回ってるけど、気分が良いね。
ただ、ちょっと疲れた。人混みに。
……ん? あ、ここ銭湯だったんだ。
お風呂。うん、素晴らしい。
これは行くっきゃない。
その前に姿を変える。
体格にズレがあるとお風呂は難しい。お湯の流れに違和感が出ちゃうからね。
身長と体格が同じ幻術を掛けたら、早速入浴だ。
…………。
……………………。
――カット――
いいお湯でした。
アジトにお風呂作れないかな?
団長に穴開けてもらって…………無理か。
お風呂の魔道具が欲しいです。
この際、マジックアイテムでも可。そのときは高価だろうから盗むけど。
さて、だいぶ時間は経ったけど、どうなんだろう?
ああいうお店って、どれくらい時間が掛かるのかな?
謎。
この謎は、どうやら迷宮入りさせた方が良さそうだ。
解き明かさないほうがいい謎って、あるよね。
まてよ……もし僕が待ち合わせ場所に先に着いた場合、彼らが着いた時間で大体の所要時間の推測が付いてしまうのでは?
いけない。知りたくもないことを知ってしまうところだった。
楽しく生きるコツは、嫌なものは見ないことだ。
狭い視野でも、視界に入れるものを事前に選べば、そこには綺麗な世界が広がる。
いかがわしいお店での所要時間についてなど、僕の世界には必要ない。
もう少し時間を潰すことにしよう。
お風呂上りだからちょっと休みたいし、カフェでミルクでも頂こうかな。
僕は待ち合わせ場所から離れるべく、歩きだした。




