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23話 レッツ、〇〇ツアー

「で、結局愚痴が言いたかったの?」

「ああいや、本題はここからなんだ。ここまでのことを踏まえて、相談なんだが」

「はいはい」

「旦那、風俗連れて行ってくれないか?」

「ふえ?!」


 思わず飛び退って距離を取る。

 このおっさん今なんて!?


 すると、他の盗賊の皆さんが懇願する姿勢で僕の方に押し寄せてきた。


「なあ頼むよ旦那、他に頼む相手が居ないんだよ!」

「いつもむさ苦しくて息が詰まるんだよ!」

「団長をそういう目で見るとまたしばかれるんですよ! こちとら生理現象みたいなものなのに!」

「てめそう言って団長に手ぇ出したらぶっ殺すぞ! あの胸を拝むだけなら許してやろう。でも見るんじゃねえぞ? うやまうだけだからな?」

「お、落ち着いて。落ち着いて」


 どうどうどう。

 どーうどうどうどう。


 興奮した賊ども(部下)を宥めて、改めて相談を聞く。


「つまりだ、団長や子供を変な目で見るようなやつが出ないようにするためにも、一度発散させるべきだと考えたんだ」

「むぅ、確かに……」


 手なんか出されたら、残念ながらうちの団から死人が出ることになるだろう。

 完全犯罪で。ちなみに犯人は僕。


「でも風俗か……」

「やっぱ難しいか?」

「別に、そういうわけじゃ無いんだけど……」


 正直僕は行きたくない。

 でも、知らない間に団長がスケベな視線に晒されているのは……。


 あの胸は僕のだ。


「よし、分かった。このミルピィ様に任せておいて」

「「「おおおおおおお!!」」」



=====



 うちの盗賊の団員は、比較的綺麗な服装をしている。

 ちゃんと町で買った服を着ているから、身だしなみに気を付けておけば、そのままの格好で町に入っても問題ない。


「一班よーし…………二班よーし…………三班よーし」


 身だしなみチェック終了。


 今回、大人数だから三つの班に分けた。

 うちの団の男は総勢16人。今回の参加者は14人だ。


 ちなみに不参加の二人は、未成年としたっぱ君。

 今回したっぱ君は留守番を申し出た。風俗に興味が無いらしい。ほんとかどうか知らないけど。

 まあ今はアジトの中に女子供しか残らないから有り難い。


 今回のツアーは、団長たちには物の売買のためだと伝えてある。

 実際、人手があるから内職で加工した魔物の素材を売って、帰りに重い物をまとめて買っておこうと考えている。


「よし、それじゃあ出発するよー」

「「「おおー!」」」


 団員たちのやる気は十分。

 とても気合が入っている。


 でも、そんなにやる気が出ない僕は、秘密兵器を用意した。


 THE・MIKOSHI


 四人で担いで運べる椅子。

 これを工作が得意な部下に作らせた。


 これできっと、今回は楽できる。


「お? おおお?」


 椅子が持ち上げられると、その上に座っていた僕は想像以上に高い場所に持ち上げられた。

 ……こわっ!?


 移動が始まり、動き出したことに驚いてひじ掛け部分にしがみつく。

 わわっ、早い。結構早い……!


 大丈夫だよね!? これ、落っこちないよね!?


 これを作った人のことを信じるしかない。

 これを担いでいる人たちを信じることしかできない。


 ああ、人を信じるって、なんて難しいことなんだろう。



=====



 案外、慣れたら快適だった。

 僕って存外、神経が図太いのかもしれない。


 町が見えてきたところで降ろしてもらい、神輿はそこら辺に隠した。


 それから班ごとに少し時間をずらして門に向かう。

 僕は最初に門の前まで行って、ステータス偽造作業だ。


「はい、次の方ー」


 最初の班がステータスチェックに向かう。


「じゃあこれに手を置いて…………イチゴウ、職業は農民……ニゴウ、農民……サンゴウ、同じく……ヨンゴウ、同じく……ゴゴウ、同じく。あんたらその名前どうなのよ?」

「……名付け親に言ってくれ」

「お、おう、そりゃそうだな。……通ってよし」


 名付け親って僕のことか。

 うーん、いくら何でも適当すぎたかな?


 スムーズに門を突破したい僕としては、あまり突っ込まれないようにしたい。

 よし、次はもっと、ありふれた名前にしよう。


「はい、次の方どうぞ。……じゃあこれに手を置いて…………サトウ、農民……スズキ、農民……ササキ、同じく……サイトウ、同じく……タナカ、同じく。……なあ、お前らさっきのやつらと同じ出身か?」

「え!? ……い、いや、知らないな。どうしてそう思ったんだ?」

「なんだか名前に似通ったところがあると思ってな。まあいい、通ってよし」


 ……あ、ちょっと君たち、こっち見ないでよ。さり気なく潜んでるんだから。シッシッ。


 まあ、今のは僕にも非があると思うからしょうがない。

 大変なんだよ!? 咄嗟に名前考えるの! しかも、14人分!


 あっ、もう次の番か。ちょっと待って、まだ、ああ……。


「…………マフィン、職業は農民……スフレ、同じく……タルト、同じく……プリン、同じく。……………………通ってよし」

「「「「せめてなんか言ってくれよ!?」」」」


 ……さってと、僕も行こうかなあ。


「トゥトゥ、職業は商人だな。通ってよし」


 町に入り、門から少し離れた場所で団員たちと合流する。


「旦那ぁ! なんだよさっきの名前!? イチ、ニ、サン、ヨン、ゴゴウってどう考えてもおかしいだろお!?」

「俺らのときは、なんか妙な発音だったぞ!」

「うちの班なんか完全にふさげてただろ!? 俺なんかプリンだぞ!」

「お、落ち着いて。落ち着いて」


 どうどうどう。

 どうか、どうかお静かにお願いします。


 ……静粛に!!


「まあまあ、門を潜る名前なんてどうでもいいじゃん。取り敢えずその荷物を売って、身軽にしてこようよ」

「……まあ、旦那の名前も変わってるしな」

「えっ、どこが」

「ミルピィって、だいぶ癖のある名前だろうよ。なんつうか、頭に残る」

「ええっ、でも、団長も似たような感じじゃん」

「シェイプル団長か。あれはまあ、そんなには聞かねえが別に変な名前でも無いだろ」

「ええぇ……」


 僕の名前、あれを基準にして考えたんだけど……。

 いったい何が違うと言うのか。


「なあ、そんな名前のことなんかどうでもいいから早く行こうぜ」

「なんだよスフレちゃん、そわそわしちゃってよぉ。楽しみなのは分かるが、そう表に出すもんじゃねえぜ」

「俺はスフレじゃねえ! タルトだ!」

「それこそどうでもよくね?」

「……お前ら、いいから行こうぜ」


 まあ、一部不満があったみたいだけど、無事町に入ることはできた。

 そろそろ移動することにしよう。

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