21話 頭痛はなんとか治ったよ
遅めの起床。
朝食を食べに行ったら、出てきたのは昼食だった。
いただきます。
「ミルピィ、やっと起きてきたのね。あの他の盗賊だという三人をどうするのか訊きたいんだけど」
「団長、おはよう」
「おはよう。……って、もうお昼でしょ」
「じゃあこんにちは。それで、昨日の三人はどこにしまってるの?」
「縛り上げて暇な人に見張らせてるわよ。部屋はあとで案内するわ」
「うん、なら会ってみて決めようかな」
ご飯を食べ終わったら団長と、ついでにしたっぱ君の三人で昨日の盗賊を見に行く。
部屋に入ると、手足を縛られ、目と口を塞がれて地面に転がっている男どもと、それを椅子に座ってボケーっと眺めている男がいた。
何と言うか……シュール。
「あ、団長……あぶね、もう少し遅かったら俺の意識が飛んでたよ」
「ご苦労さま。これからその人たちから話を聞くから」
「ういっす。じゃあ飯食ってくるわ」
そう言って椅子に座っていた男は部屋を出ていった。
「さってと」
話をするためにも目と口を開けないとね。
…………。
近づいて布を外そうとして、触りたくなくて手を引っ込めた。
拘束されて一日放置された男……あまりいい状態とは言えない。そこまで酷くは無いけど、なんかベタベタしそう。
「したっぱ君、目と口のやつを外してあげて」
「え、なんで今、自分でやろうとしたのやめたんすか」
「触ることに不快感を覚えたからだよ」
「いろんな意味でひでえ……」
文句を言ってくるけど、上司命令で実行させる。
「? ここは何処なんだ?」
「あれ、てっきり牢屋の中だと思ってた」
ここに来るときは気を失っていたからね。
まだどんな状況なのかよく分かっていないのだろう。
よし、それを分からせるためにも、ここは強気にいこう。
「おーいお前たちぃ、今自分がどんな立場にいるか分かってるんだろうなぁ。うちの盗賊団に手を出したんだ、このあとどうなるかも想像が付くよなぁ(低めの声)」
「へ? 盗賊?」
「えっ、だって、あのとき冒険者に囲まれてそれで……」
「冒険者風な格好した盗賊だって居るだろうがぁ。なあお前たち、ちょっと前からうちのシマ勝手に荒らしていたようだなぁ。……舐めてんの(ドスの効いた声)」
「ひっ!? ほ、他に盗賊団がいるなんて知らなかったんです許してください!」
「ほう? 許してほしい……なら当然、精一杯の誠意ってものが必要だよなぁ(上から偉そうな声)」
「へい! 俺ら、マジックアイテムを持っていますんで、それをぜひ貴方様へ」
「マジックアイテムだあ? それはあの、俺の可愛い部下を刺したナイフのことか!(威圧的な声)」
「ひいい!? そ、そのことについては、本当に申し訳ありませんでした!!」
「なあ、お前も痛かったよな?(急に優し気な声)」
「……はい? あ、うす」
「ほらみろ。死ぬほど痛かったとよ(有無を言わせない声)」
「すみません! すみません!」
「そのことについては、どうかあのナイフを差し上げますので水に流して頂けると」
「ハッ! お前たちを返り討ちにした時点で、あのナイフは既にうち等の物なんだよ!(見下す感じの声)」
「そ、そんな!?」
あっはっは。
うちのしたっぱ君に大怪我を負わせた罪は重いのだー!
したっぱ君も、これを見て溜飲を下げるといいよ。
ちらっ。
「……団長、なんすかあの兄貴のキャラ」
「そんな気分なんじゃない? あの子、だいぶ気分屋だから」
「そういえば、前にも何故かやたらとテンションが高いときがありました」
え、えっ……なんか冷たくない?
そっちだけ冷めてない?
「え、違うよ? ちょっと脅しておいたほうが為になると思ったからやってるんだよ? それにこいつら、したっぱ君に大怪我負わせてるんだよ。しっかり懲らしめないと」
「その割にあなた、随分楽しそうじゃない」
「ぜ、全然そんなことないよ? そう、これは作戦。そういう態度で不安を煽る作戦なんだよ」
「……て、あれ、ターオズ怪我してたの? どこに?」
「反応が遅い! ナイフでわき腹をざっくり刺されたんだよ! 結構危なかったんだからね!」
「ああ、そういえばその傷、気が付いたら治ってましたね。兄貴、何かしたんすか?」
「すごく頑張りました!」
頭痛がするほど頑張った。
そうだ、まだそのことについて感謝されていないじゃないか。
……あれ、でもそもそも傷を負ったのは僕を庇ったから?
あれ? もしかして、感謝するのはこっちの方?
「……ねえ君、ちょっとこっち寄って」
「? うす」
「ちょっと屈んで」
「こうすか?」
「(……ありがと。庇ってくれて)」
「あ、はい……こちらこそ、治してくれてありがとうございます」
何だろう照れる。
恥ずかしい。
「ごほんっ、それじゃあ、彼らの処遇を決めようか」
「「「――――!?」」」
誤魔化しの一言で、芋虫三人に緊張が走る。
別に、これから考えるんだけどね。
「この場に居る三人で決めちゃっていいよね。ツートップが居るわけだし」
「まあ、私は構わないけど」
「俺、新人なんすけどいいんすか?」
「君は今回、こいつらから一番被害を受けてるからね。君が処刑って言うんならそれでもいいんじゃないかな」
「「「そ、それだけはご勘弁を!!」」」
「俺も、そこまで過激なのは好きじゃないです」
まあ僕も「あ、じゃあそれでお願い」とか言うようだったらビビるけどね。
「じゃあ案その1、町に行って引き渡す」
「まあ、無難なところですね」
「問題は、こいつらが僕たちのことをばらす可能性があること」
「大問題じゃないっすか……」
「同業者だからね。こいつらを連れて町に行くのはどうしてもリスクがあるよ」
「盗賊引き渡しに行って、事情聴取か何かでこっちまで盗賊だとばれたら心底情けない犯罪者よね」
そんなマヌケにはなりたくないね。
「案その2、適当な処罰を与えたあとに解放」
「これは、どうなんすかね?」
「私たちの負担は少ないけど、利益も少ないわね」
「そうだね。せいぜい肉体労働をさせて楽をするくらいかな」
「ただ体を使う仕事なら、既に人手が余ってるのよ」
「じゃああとは、肉体的な罰を与えるとか。これは、怪我させられたしたっぱ君がすっきりする」
「いや、しないですよ」
その2もペケと。
したっぱ君は欲が薄いね。
「案その3、うちの盗賊団に取り込む」
「……これはターオズとそこの三人次第ね。ターオズが彼らと一緒の生活は嫌だというなら却下するわ」
「いや、そんなこと無いっすよ。そもそも俺、一時期路地裏で寝ていたくらいなんで、隣の部屋に誰がいようと気になりません」
「お、俺らもそれがいい! 仲間にしてくれ!」
「それは適性を見て決めるわ」
「ん、じゃあ取り敢えず、この案でいいかな? 彼らがどうしようもなくダメそうなら改めて考えるということで」
特に反対意見も出なかったため、これにて終了。
彼らは臨時でうちの盗賊団に入ることになった。
その能力(主に人格)が認められれば、正式にうちの社員となってもらう。
まあ、結構脅したから大丈夫だと思うけどね。




