20話 ちなみに噂は僕が広げた
「な、なんだこいつは!?」
「うわっ、離せ!」
「ぎゃあああああ!!」
「やばい、逃げろ!」
少し離れた場所から声が聞こえてくる。
幻聴だ。
「どうしたんだ?」
「さ、さあ」
幻術の冒険者たちが騒ぎ出したことに盗賊が疑問を抱いている。
――ヒヒーーーン。
馬の嘶きが聞こえてくる。
そこに居た幻術の冒険者たちが、だんだんと散り散りに逃げていった。
「君たちは町へは行けないから聞いたことないかな。知ってる? 『嘶く甲冑』の噂」
「は? いきなりなんだよ……」
「その話を聞けば、今の状況を理解できると思うよ」
『嘶く甲冑』
とある騎士がいた。
騎士は銀色に輝くフルフェイスの甲冑に身を包み、愛馬と共に戦場を駆ける。
その騎士はとても強く、敵からは死の象徴として恐れられ、仲間からは勝利の象徴のように敬われていた。
騎士の居る国は戦に勝利するたびに繫栄し、また戦争を繰り返した。
しかし、常勝を重ねる国を恐れた他国が連合を組み、孤立無援となった国はやがて滅びてしまう。
その国が滅びた戦争で、騎士は最後まで戦い続けた。
愛馬に乗って戦場を渡り歩き、幾つもの屍を生み出し、その首を刎ねられて最期のときを迎えても、首を失ったその躰は馬に跨ったまま最後まで戦場を駆け続けた。
戦争が終焉を迎えたとき、その騎士の躰を乗せた馬はどこかへ姿を消した。
代わりに、とある騎士が徘徊する姿を見るものが増え始めた。
その騎士は銀色に輝くフルフェイスの甲冑に身を包み、甲冑からは馬の嘶きが聞こえてくるという。
一つの国が消え、多くの血が流れた土地で、いつもその騎士は探している。
守るべき国を、討つべき敵を、在るべき躰を――。
「――それが、『嘶く甲冑』の噂だよ」
「え、それって……」
噂話を語るのはこれで終了。
語り終わったら、幻術を使って僕としたっぱ君の姿を隠す。
「あ、おい! どこへ消えた!?」
「分かんねえ……急に、消えちまった」
「そんなことより……」
再び馬の嘶きが森に響き、盗賊たちが、冒険者が逃げたことにより開けた森の一角へ目を向けた。
――彼らはそこに、銀色の甲冑を幻視する。
条件は整った。
ただ語るのは終わり。ここからは現実に僕の騙りを混ぜる。
"虚ろなる実像"
【虚像】の幻術は、相手に自分のイメージを押し付ける能力だ。
だけどそれは、このスキルの効果を半分しか使っていない。
二つのレンズで作られた虚像は、現実に映し出される。
お互いに同じものをイメージしたとき、このスキルは現実に作用して実体を作り出す。
――ヒヒーーーーーン。
甲冑から馬の嘶きが聞こえてくる。
その存在は嘘だけど、今ここに、実体は存在する。
「やべえ、こっちに来た!?」
「ひいっ!!」
カチャカチャと音を立てながら甲冑が盗賊との距離を詰める。
盗賊の一人がナイフを投げるけど、その甲冑で簡単に弾かれた。
「て、テメエらも戦え! 攻撃しろ!!」
「お、おう、やってやる!」
「くらえ!!」
二人が剣で斬りかかる。
しかしそれも、甲冑に傷一つ付けられず、止められた剣は掴んでへし折られた。
「ひっ、こ、殺される……!」
「助けてくれー!?」
あとは甲冑に任せて放置してても大丈夫そうだね。
したっぱ君の傷口にハンカチを押し当てて止血しようとしているけど、血がドロドロと溢れ出てきて止まらない。
したっぱ君の【活性】スキルは傷の治りを早くする。
だけど、スキルの力だけでは足りていない。
うぅ、結構やばいかも……。
「はあ、はっ、はぁっ……」
「だいじょうぶ。だいじょうぶ」
とにかく、今すぐ手当てしないと。
普通のじゃない、僕が、彼にしかできない方法でだ。
【解析】
したっぱ君の状態を解析。
傷の状態を解析。
【活性】スキルを解析。
【虚像】スキルを解析、最適化。
【虚像】"錯誤惑う感覚"
彼のスキルを惑わせ、制御する。
――――。
=====
「……あれ? 俺は、どうして」
したっぱ君の声が聞こえる。
よかった。無事意識が戻ったみたいだ。
「兄貴?」
うん、ほんとよかった。
「兄貴? ねえ、どうしたんすかうずくまって。ねえ兄貴ってば」
「揺らすなぁ……」
「あの、俺途中から意識が無かったんすけど、今どうなってんすか?」
「……見れば分かるでしょ」
「分からないから訊いてんすけど」
今の状況。
盗賊三人は白目を剥いて気絶し、僕はうずくまってしたっぱ君の胸の上に頭を乗せている。
……頭痛が痛い。
頭の痛みが痛くて痛むように痛い。
【解析】スキルの副作用だ。使いすぎた。
この痛みは直接脳にくるから、錯覚なんかじゃ誤魔化せない。
「……それより君、体の具合はどう?」
「あ、そういえば刺されたんすよね。傷が消えて無くなってんすけど……」
「だいじょうぶ?」
「うす。強いて言えば、なんだか凄く腹が減っているくらいですね」
「ならよかった。じゃあ早く帰らないとね」
「あの盗賊はどうするんすか?」
あー、あれね。どうしよっか。
「取り敢えず、縛ってアジトに連れて行こうか」
「俺、三人も運べないんすけど」
「怪我したばっかりだしそんな無理させないよ。……出ておいで」
木の陰から銀色の甲冑がひょっこりと顔を出す。
まだ消していなくて、したっぱ君を驚かせないように隠れさせていたのだ。
「うわっ、誰ですかあれ」
「僕のナイト様だよー。甲冑君、あれ運ぶのよろしく」
甲冑はブルルンと呻ると、盗賊三人を一纏めにして片手で担ぎ上げた。
「あ、あとあれも」
町で買った食料も、ついでに持たせることにした。
「したっぱ君、その体で悪いんだけど、おんぶしてくれない?」
「うす。大丈夫ですよ」
したっぱ君に背負ってもらって、僕たちはアジトへの帰り道を進みだした。
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「うおっ、なんだこいつは!?」
「敵か! ……って、旦那たちも一緒かよ」
「君たち、団長を呼んできて」
「はいよ」
アジトに戻り、すぐに団長を呼んでもらう。
僕の頭痛はまだ治っていない。
「ミルピィおかえり。呼んでるって言われたけど……なんか随分、人が増えてない?」
「急患だよ」
「その担がれてる三人が? にしてはぞんざいにしてるわね……」
「違う。ミルピィ様がだよ。あとしたっぱ君も」
「……言われてみるとぐったりしてるわね。てっきりダレてぐでっとしてるだけかと思ったわよ」
頭痛がする中したっぱ君の背中で揺られて、今は完全に力が抜けて体を委ねている状態だ。
力尽きていると言ってもいい。
「したっぱ君は栄養が足りていないから多めにご飯を食べさせて安静にさせて。この三人は他の盗賊だから、縛って適当に閉じ込めるか見張りを付けるようにして」
「一番気になるのは、その長身の甲冑なんだけど」
「それはミルピィ様のだから気にしないでいいよ。……ありがとう、もう降ろしていいよ」
僕はしたっぱ君に降ろしてもらうと、甲冑にも盗賊と荷物を降ろさせて、代わりに僕を持ち上げさせる。
盗賊三人とは違い、丁寧に、優しく持ってもらう。
「じゃあ、ミルピィ様はもう休むから。おやすみ」
部屋に戻ったら、必要なことは全て甲冑にやらせて、用が済んだら消して眠りについた。




