101話 知識自慢したくなるときって、あるよね
今日は町へ……行かない!
用事無いしぃ、備蓄もまだあるしぃ。お部屋で解析でもしてようかにゃあ。頭痛に気を付けよう。
「あ、兄貴。お疲れ様です」
「ん? ああ、したっぱ君か」
仕事をしていないのに労われてしまった。
なんかしたっぱ君の顔見るの久しぶりな気がする……。いや、顔は合わせてるんだけど接する時間が前より減ったからかな。
あ、そうだそうだ、最近構ってないからしたっぱ君の相手してあげようと思って半分忘れていた。……半分は覚えていたんだよ?
「君は今日暇?」
「あ、はい、大丈夫す。町ですか?」
「いや、稽古付けてあげる」
「……! うす! お願いします!」
「うん、じゃあ準備してきて」
気合い十分なしたっぱ君に装備を取りに行かせてから外に出る。
したっぱ君はうちの盗賊団では珍しく真面目に強くなる努力をしている。スキル持ちで若いから鍛えればそれなりに強くなれる素地もある。
でもまあ、僕が鍛えると言ってもすぐ結果が出るわけじゃない。こういうのはたぶん、地道な努力が大切なのだろう。
取り敢えず、いつもやってるらしい素振りをやらせることにする。継続は力なり。
でもその間僕が暇だから雑談をする。
「剣ってさ、誰でも振るうことができるじゃん? 鍛えれば凄い剣技が身についたり」
「……? うす」
「それに流派とかあってさ、それによって剣術がいくつもある。じゃあスキルの【剣術】ってどういうものなのか気にならない?」
「……剣の腕が、凄くなったり、あとは、門下に入らなくても、最初から剣術が使える、とかっすかねっ?」
「僕も同じような戦闘系スキルを持ってるから何となくイメージを持ってたんだけど、あらた君が【剣術】スキル持ってたからいろいろ調べてみたんだ」
「え、あの神官さん、【剣術】持ってるんすか。だから帯剣、してるんすね」
「いつも帯剣してるなんて最近の神職は物騒だよね。でね、まず僕の【投擲】スキルは物を投げるという動作に補正が掛かる感じなの。身体全体を巡っている魔力が投げるという運動をサポートしてくれるの」
例えば僕がナイフを投げるとき、スキルによって僕の身体は構えから重心の移動、手首のスナップまで最適の動作を取ることができる。こう投げれば強く投げられて命中するというイメージができて、その通りに身体を動かせる。
それに、僅かだけど物理的な運動サポートも入っている。魔力が筋のように、または筋肉の収縮のように身体の動きを引っ張っていくのだ。筋肉痛の原因でもある。
ちなみに、投げることへのサポートが基本性能だけど、サブとしてキャッチすることにも補正が掛かる。
あと、投げることに付随して、物を放つということにもある程度の補正が掛かる。吹き矢みたいに投げるではなく吹いて飛ばすようなもの。これは威力に補正はないけど、命中率に影響が出る。投げるときの命中精度をそのまま活かす感じだ。
「だから投擲術に流派があって、研鑽の末に最適な動作での投擲ができたとしても、感覚的に最適動作ができて、尚且つ運動に魔力補助があるスキル持ちには敵わないんじゃないかなって。勿論本人の身体能力の差は別としてだよ」
【投擲】のお陰で貧弱な僕でも華麗な投げナイフを披露できるけど、そもそも貧弱じゃなかったらもっと威力が出ていることだろう。砲丸投げでレーザービームできたりして。
「それで【剣術】の場合だけど、あらた君の話を聞くとやっぱりある程度【投擲】と同じでね、剣をどう振ればいいのか分かるのと、振ったときにより力が籠もるんだって」
あらた君は一言で「剣についての勘が良くなる」とも言っていた。
投擲のケースと言葉を揃えると、剣を振る最適な動作ができて、その運動に補助が入るということだろう。
「じゃあスキル持ってる人は流派とか修練とか要らないんじゃないかと思ったんだけど、あらた君から面白い話を聞いてね、大体の流派は開祖がスキル持ちなんだって。同じ【剣術】スキル持ちでも違う流派の剣技を扱ってるってこと。つまり、スキルによって導かれる最適は一つじゃないし人によって違う」
それはそのときの状況や扱う人によって変わってくるんだろう。自分にあった剣術というのがそれぞれ違い、スキルにもそれが影響するわけだ。
「だから修練して自分にあった剣術を身につけて鍛えた方が相乗的にスキルの効果が高くなるんだって」
ただ感覚的に剣を振るのではなく、自分の型を明確にする。その上で型にあった修練を積むことで効率的に剣術の研鑽をすることができる。そのためにどこかの門下に入るのは一つの手で、実際にスキル持ちで門下に入る人は少なくないそうだ。スキルがあるからって自己研鑽だけで強くなれるわけじゃない。
「へえ……兄貴は、【投擲】の修練を、したり、するんすか?」
「僕はほら、そういうことするとしてもまず筋トレからになるし」
「あぁー……」
投擲3回で筋肉痛起こす身体なんて論外だからね? 満足に投擲できるところからだよ。
素振りを1セット終えて、小休止するしたっぱ君に飲み物を渡す。
「まあ、ここまではただの雑談ね。ここからは君について」
「あ、雑談だったんすか」
「そうだよ。でも意味ない話でもないから安心して」
むしろ前段階。この次の話に必要な予備知識である。
「今の話を踏まえて、君が【剣術】のスキル持ちと比べて足りないのは何だと思う?」
「えっと……自分にあった剣術と、スキルによる剣技の威力」
「そうだね。スキルの効果は大きく分けて動作補助と運動補助の2つがあるとして、動作補助はスキルが無くても修練すれば最適な剣の振り方ができるようになるんじゃない?」
「最適かどうかは分からないっすけど……」
「自分にあったよく斬れる剣の振り方、くらいの表現の方がいいかな? で、それは鍛えればクリアできるとして、運動補助。魔力の補助を受けた剣技の威力は歴としたスキルの有無の差だけど、どうすればクリアできると思う?」
「スキルの威力……それ以上に鍛える……?」
「まあ、普通はそうするしかないよね。スキルの差なんて関係ないくらい身体を鍛えればスキル持ちにもスキル無しで勝てるんじゃないかな」
僕なんか同じ【投擲】持ちが居たら投擲対決で簡単に負けるだろうし、スキル無しで凄腕の投擲使いにも負けるかもしれない。
「ただ、君の場合はもっと可能性がある。君はボスゴブリンを一太刀で斬り捨てることができたはずだよ」
「あ、【活性】スキルで剣の威力を上げれば……」
「そう、【活性】による運動能力の底上げ。これができれば戦闘系スキルに負けない力を手にできるはずだよ」
「おおー!」
まとめ。
したっぱ君は剣の鍛錬と併せて、【活性】スキルの鍛錬もしましょう。
まあ、前にも同じような話はしてあるし、言わなくても分かってた課題ではあるんだけど理屈込みのほうがやる気出るでしょ。
解析知識を振りかざして満足した僕は、日中いっぱいしたっぱ君の特訓に協力してあげるのだった。




