100話 今日は駄目な日みたい
あー、頭痛い。
【解析】使いすぎた。今日はもう駄目。
「いたいー……いたいー……」
ゾンビのように「あ゛ーあ゛ー」言いながら枕に顔をうずめる。
今朝は腕の幻痛で目が覚めるという最悪な目覚めだった。早く目が覚めてしまったからマジックアイテムの首輪の解析をしていたんだけど、やりすぎてしまったみたい。
「ああー……あー?」
首輪を手に持って上にあげてぷらぷらさせていたら、スルリと手の内から滑り落ちて輪っかが腕を通った。首輪が二の腕まで通ったとき、キュッと輪が締まって腕に装着された。
「んんっ!?」
え、これ首じゃなくても付けられるの? 凄い勢いで魔力吸われる……!?
幸い、首と違って引っ張ったら抜けて外すことができた。
「あっぶな……外せない装備なのに勝手に起動しないでよ……」
というか、これ間違って付けちゃったら大変なことになるんだけど。R18指定受けるよ。僕見れない。
正規の方法以外の外し方もまだ分からないから、割とガチで詰む。もしかして僕、自分にとって一番危険な物を部屋に置いてる?
<淫魔の隷属首輪>は三つある。そのうち一つは奴隷少女に付いたままだから、僕が持っているのは二つ。マジックアイテムは一点物が多いんだけど、中には同じ物が何点も発見されるケースがある。冒険者の体験談では使い捨てのマジックアイテムがダース単位で同時に見つかったこともあるそうだ。ステータス鑑定のマジックアイテムのように違う迷宮から何度も見つかる物もある。
この首輪は奴隷商が取り扱っていた物だけど、似たような拘束具のマジックアイテムは恐らく他にもある。それでいて、同じ物が三つあったことから考えてこの系統は武器と比べてレア度が低い。ある程度の金と伝手があれば用意できる品なのだろう。
僕はこれを付けられたらどうしようもない。もし何かの間違いで捕まることがあって、似たようなマジックアイテムで拘束されたらゲームオーバー。この首輪を知ったとき、当然危機意識を持った。
……それに、奴隷少女の首輪も外したいし。
そんなわけでコツコツ解析しているんだけど……マジックアイテム、正直舐めてました。
マイナイフ、<回帰の小刀>を解析したときは使い方くらいしか調べなかった。解析したところで同じ物を作ったりも技術的にできないだろうからそれ以上解析する必要が無かったんだよね。
<淫魔の隷属首輪>も使い方はもう分かってるんだけど、それ以外で外す方法となるともっと構造を調べないといけない。
真っ先に考えたのは【虚像】で騙して外すことだけど、無理だった。【虚像】は機械の認識も阻害することができるけど、この首輪は魔力を込めれば外れるというもの。魔力満タンだよって嘘をついても、じゃあその魔力を使って鍵外すよっていう段階で躓く。だって外すための魔力無いんだもん。
似たような話で、魔力を込めたら炎が出る魔道具があったとして、魔力を込めたと【虚像】で誤認させても炎は出てこないのだ。【虚像】は機械の働きを騙すことは出来ても、機械のエネルギーを騙して動かすことは出来ない。
……まあ、僕だけだったら自身の総魔力量を騙せばギリ行けるかもしれないけど、どちらにしろ魔力を流せない奴隷少女には無理かな。
【虚像】が駄目となると、じゃあ分解でもして壊してしまおうかと調べているところなんだけど、マジックアイテムは余りにも複雑だ。そもそも迷宮から発掘されるという由来自体が謎で、機械というよりは特殊な特性を持った鉱石のようなものと言った方がしっくりくる。
機械だったら作成手順の逆を辿れば分解できるけど、天然物の鉱石なんて分解できないよね。あーあ、今日はもうやめたやめた。
「【虚像】で腕は痛むし、【解析】は頭痛するし、【投擲】のせいで筋肉痛になる……。僕のスキルってみんなドM仕様なのかな。痛い。あー、段々この痛みにも慣れてきたかも。そのうち本当に気持ち良くなってきたり? うふふ……リスカしよ……」
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痛いー。左手首痛いー。
ずっとズキズキする。ちょっと病んでたからってやるんじゃなかった。チキって薄皮切る程度だったけど。血がだらだら流れたりもしなかったけど。魔法具ナイフの切れ味を自分で再確認してしまった。
午前中はベッドの上で休み、たっぷり二度寝をしてからお昼を食べに部屋を出る。朝食より早い時間に起きて朝食の前に寝直しちゃったから朝ご飯抜きになってしまった。お腹減った。
まだ頭痛が残っている気がする……。
こういうときは、団長に甘えるに限る。
広間でご飯を食べながらきょろきょろ周囲を見渡す。
「青空ちゃん」
「……ちっ、あらた君か。今はお呼びじゃないんだよ」
「辛辣だな、声かけただけだろ……」
「で? 何か用?」
「隣いいか?」
「まあ、いいけど……」
もぐもぐしながら隣の床をぺちぺち叩く。広間には椅子やテーブルがあるけど、今日は陰気な気分だったから壁際の床に体育座りして食事をしていた。お昼ご飯、お椀一つにパン一個だから食べる場所には困らない。
「テーブル使わないのか?」
「別にいいでしょ」
「てかそれ、どうやって食べてるんだ? 仮面貫通してるんだが」
「幻術だよ」
一瞬だけ幻術を解いてみせる。顔に付いている仮面は幻術で、今は頭の横に掛けてある。
「おお……」
「なに? その反応」
「青空ちゃん、やっぱ仮面取って過ごしなよ」
気軽に言ってくれる……。それができていたら引きこもりしてないよ。
今日はあらた君の相手をする気になれない。一つため息を吐いて被っているフードの端を引っ張った。
「……もしかして機嫌悪い?」
「ちょーダウナー」
「今日暇ならそろそろ竜の死体を解析してほしかったんだが」
あのドラゴン、僕らと戦う前から傷を負ってたみたいで、それが気になるらしいあらた君に解析を頼まれて完全に放置していた。戦闘中、ドラゴンを見上げる位置に居た僕は背中の傷に気付かなかったけど、知ってたらそこ狙って攻撃していたのに。【解析】を行動解析に回していたから気付けなかった。
「あー、今日は無理、頭痛い。別に急ぎじゃないでしょ?」
「そうなんだが、後回しにしてだいぶ経ったぞ」
「解析さんはタスクが詰まってるんだよ」
「まあ、そのうち頼んだぞ」
「はいはい」
首輪の解析もちょうど行き詰まっているところだし、今度見てあげるとしよう。
話は一区切りついたのか、あらた君はお椀に口を付けてスープを飲んだ。
それを見ていてふと思う。
「あらた君さ、それタダ飯食らいじゃない?」
「え……?」
「粗食だし、人数多いから違和感なかったけどさ、考えてみたら団員でもないのに何しれっと毎食食べてるの。それ食べるために稼いだの僕だよ? このヒモ神官っ」
「……生活費、後で渡すよ」
「よろしい」
あらた君は他に仕事してるんだから食費くらい貰わないとね。というか出ていっていいのよ?
でもこれ、一人分にしたら原材料どれくらいだろ? きっと相当安い。あらた君には割高料金を請求しよう。運搬費とか掛かってるんだよ。前回運んだのあらた君だけど。あ、そう考えるとあらた君ちゃんと仕事してた、しょうがないから割引してあげよう。




