9話 はぁ、鬱だ
ああああああああああ!!
うわああん!
「うぅ、ぐすっ……」
油断した。まさかあんなスキルがあるなんて。
【真眼】
真実のみを見ることができる目。
まさに僕の天敵。
幻術が効かないなんて聞いてない! 反則!
しかも仮面外してるとこ見られた! 素顔見られたぁ!
うぅ、最初から違和感はあったんだよなぁ。
まず第一に、お嬢さんと声を掛けてきたし。どう見ても男の幻術を掛けていたのに。
最初は自分に言われてると気付かなかったから、聞き間違いかと思ったんだけどなぁ。……はぁ。
幻術の姿は笑ってないのに、笑顔だと指摘されてようやく気付いた。
それで【解析】で調べたらこれだよ。もう、最悪。
あの人、めっちゃガン見してたし! やたら見てくるなあと思ったら!
男の姿だったから、僕に気でもあるのかと思った。逆ナンかと。
「はぁ……」
憂鬱。
せっかくいい気分だったのに、あいつに台無しにされた。
そもそもあのテラスに入ったのは、休憩しながらしたっぱ君が道を通るのを待つためだった。
オープンテラスなら通りがよく見えるし、向こうも探してるだろうから一か所に留まった方がいいという判断だ。
だから暫くの間あそこで粘ろうと思ってたのに、あいつに台無しにされた!
あー、もう! もー!
ああ!? 荷物忘れた!
さっき買った食料全部、テラスに置き忘れた!
戻れと? あの場所に?
あの人は同じ席に居たし、僕が荷物を忘れていったことに気付くだろう。
一応あっちは好意的だったから、荷物に気付いたらそれを持って待っているか、僕を探しに来る可能性が高い。
やばい、どうしよう。
幻術が効かないのはともかく、素顔を見られた。
もう会いたくない。
でも、あの荷物を諦めるのは難しい。
大人数で食べる食料だから、結構な量でその分金が掛かっている。それに、調味料は結構高い。それなりに貴重品だ。
あの人が親切に待ってくれているとも限らないし、取りに戻るなら早くしなければいけない。
「兄貴、やっと見つけましたよ」
「したっぱ君!」
「あの、ターオズって名前があるんすけど」
もう聞き慣れた呼び名で声を掛けてきたのは、探し人。
良かった。この案件は一人では荷が重かったんだ。
「実は、困ったことになったんだ……」
早速したっぱ君に相談する。
カフェに居たら、女の人に声を掛けられた。
その人と相席をして、いろいろあって慌ててカフェを出たら荷物を忘れた。
「だから君、荷物取ってきてくれない?」
「ええ、俺その人と面識ないんすよ。荷物くれと言ってもくれないでしょう」
「そこはほら、僕の特徴を、告げるなり……」
しまった。したっぱ君とあの人では知ってる情報が違う。
あっちは僕の素顔を知っていて、名前などの内面的な情報を知らない。
反対にしたっぱ君はそこら辺は知ってるけど、僕の素顔を知らない。
仮面を着けた人でもお互いに通じるだろうけど、それだけでは僕の身内と見られないだろう。
「人の荷物狙うやつなんて多いですし、兄貴も来てくれないと無理ですよ」
確かに。僕もさっきチンピラに絡まれたし。
「うぅ、しょうがないか……」
背に腹は代えられない。
パッと行って荷物を返してもらおう。
二人でさっきまで居たオープンテラスへ向かう。
外から様子を伺うと、テラスにはまだあの女の人が居た。隣に僕の荷物もある。
「あれ。あの人。金髪の」
「ああ、あれですね。隣にあるのが兄貴の荷物すか」
確認ができたから、いよいよ中へ。
店の入り口を通り、そのままテラスに向かう。
「――あ!」
向こうもこっちに気付き、笑顔で手を振ってくる。
僕は、したっぱ君の陰に隠れた。
「(任せたよ!)」
後ろから小声で応援する。
したっぱ君も「うす」と小声で返事をして、交渉を始めた。
「すいません。荷物を忘れたみたいで」
「いえいえ。あ、保護者の方ですか?」
「え? ええと……」
「(適当に合わせておいて)」
「はい、そうなんすよ。ご迷惑お掛けしました」
「そんな、全然平気ですよ。はいこれ、どうぞ」
「ありがとうございます」
ミッションコンプリート!!
「(よし、帰るよ!)」
「(うす)それでは」
「あ、待ってください」
「はい?」
ちょっと! もう帰るんだから呼び止めないでよ!
したっぱ君も止まらなくていいのに!
「私はハルクルファ・リークルと言います。是非そちらのお名前も教えて欲しいのですけれど」
嫌ですぅ。自分の情報を教えたくありません。
全力で嫌そうな顔をするけど、相手に幻術の姿は見えていないし、今は仮面を着けているから気付かれない。
「……ミール」
結局下手に粘られるより、さっさと教えたほうが相手も満足するだろうと考えて、冒険者登録した偽名を教える。
「ミールちゃんですね! ありがとうございます!」
よし、これで用は済んだでしょ!
したっぱ君の裾をくいくいと引っ張り、帰りたいという意思を伝える。
「それでは今度こそ失礼します」
「はい、ミールちゃんとのまたのご縁を願っています」
願い下げだ!
店を出たら、ダッシュでその店から離れた。
「はあ、はあ。これでひと安心」
「兄貴、そんな走って帰り持つんすか?」
「今日はもう疲れた……」
ホントあの人が現れてから散々だった。
はぁ、時間戻らないかなぁ。
「もう、帰ろう……」
テンションだだ下がり。暫くは持ち直りそうにない。
今日はもう帰って寝よう。
荷物はしたっぱ君に持たせたまま、門を出る。
夕方にこんな荷物を持って町を出るのは門番に不審に思われる恐れがあるから、このときだけはしたっぱ君にも幻術を掛けて荷物を誤魔化した。
疲れた体でだらだらと帰り道を歩く。
帰宅。
「あ、帰ってきたのね」
「ただいま……」
「おかえりなさい。どうしたのよ? そんな疲れた顔して」
「顔見えてないでしょ」
「雰囲気よ」
まあ、実際疲れた顔をしてるだろうけど。
顔……。顔を見られたんだよなぁ。
「はぁ……」
「ターオズ、何かあったの?」
「俺と別行動中に女の人と何かあったみたいで」
「女の人? ミルピィが対人関係で何かあったなんて珍しいわね」
「うぅ……」
団長の言う通り、今回のは僕らしくない珍しい出来事だ。
僕は常に自分を偽って生活している。場所によって大なり小なり違いはあるけど、人の居るところでは常にだ。
都合の悪い部分は隠した、浅い関係しか作らないからここまでダメージを受けることは今までなかった。
ホント、あの女とは相性最悪。
隠し欺く僕と、視て暴く彼女。【真眼】、なんて横暴なスキルなんだ。
「わたし、疲れたからもう部屋に戻るね」
「え、わたし?」
「……間違った。ミルピィ様ね」
自分のキャラまでブレてきた。
したっぱ君の前で、わたしなんて言ったことないのに。
「ミルピィ、晩御飯は?」
「要らない。お腹空いてない」
一応パフェ食べてきたし。チンピラから巻き上げたお金で。
二人と別れて、自分の部屋へと戻る。
それから桶に水を汲んできて、体を清めたらパジャマを着てベッドに入る。
本当に疲れていたから、意識はすぐに、離れていった。




