SS 運転手 上
本日2話目です。
リンデン王国王都ティヨル、その王城にある牢獄の一室。
ここは普段使われておらず、一般の犯罪者は郊外にある監獄へと送られる。
部屋の質に応じ、罪を犯した貴族、異国の間者や重要人物を監禁している。
その中でも質の良い部屋に、投獄されている人物がいた。
まぁ、投獄されている人物にとっては、全く質が良いとは感じていないようだが。
「訳わかんねぇぞ・・・」
紺色の制服、妻からもらったネクタイ。トレードマークの帽子はどこかにいってしまった。
まだまだ30半ばといった年頃、昔は少しガラも悪かったが、今では家族の為に働くお父さん。
頭のイカレた女に掴みかかろうとした後、強烈な閃光と雷撃により気絶した。
鎧を着たイカレ集団に連れられ、牢に入れられ監禁されている。
「どこなんだ・・・ここは?」
壁の上部に設置されている、鉄格子付きの窓に月明りが差し込む。
「どこなんだ!!」
ガァン!と正面の大きな鉄格子を蹴り飛ばすが、音を立てて揺れるものの壊れることはない。
音に気付いたのか、看守がやってきた。
鎧などは来ておらず、軽装ではあるが槍を武装している。
「大人しくしていろ、そうすればじきに出れる。」
「じきっていつだよ!ここはどこなんだ!?説明しろぉお!」
看守はフンと鼻を鳴らし、槍の柄の部分で肩を突く。
「ッ・・・」
「大人しくしろといったろ?じきといったらじきだ。」
そう言って看守は牢から離れていく。
看守の靴音が響く石造りの牢で、男は肩を押さえ怒りに震えていた。
男以外には誰もいない静かな牢獄。
「お困りみたいだねぇ・・・旦那。」
運転手は不意に掛けられた声に、首を回し辺りを見渡すがそれらしき人物は見つからない。
「こっちですよ、こっち。」
そう言った声のするほうには、鉄格子付きの窓から覗いてるコウモリがいた。
「・・・」
「旦那ぁ?」
誰かの悪戯か、自分の頭がおかしくなったか、喋るコウモリなどいるはずがない。
ありえない!と、頭に手をあて下を向きながら大きく揺する。
「やれやれ、また来ますぜ・・・旦那。」
そういうとコウモリは飛び立ち、地下牢には異世界人が一人。
ボサボサの頭で窓を見つめポツリと呟く。
「訳わかんねぇよ・・・」
その呟きに答える者は今はいない。
・・・
・・
・
あれから何日が経っただろうか。
夜になると、喋るコウモリがやってくる。
「本当にその方法で、帰れるのか?」
「もちろんですよ。旦那。」
薄暗い牢の中、唯一の喋り相手に何度も確認する。
「だけど、どうやってこの牢から出たらいいんだよ。」
頑丈そうな鉄格子。分厚い石の壁、穴を掘るにはどれだけの時間が掛かるのか。
「力を貸しますぜぇ。あっしと契約しましょう、旦那。」
どんな闇金の保証人よりも断りたい。・・・だが他に手はないのだが。
「何を要求するんだ?」
少なくともクーリングオフはできなそうだ。
「なにも?あっしは旦那が元の世界に戻る、お手伝いがしたいだけなんですよ。」
キキキ!と牙を剥き出しに笑う姿は信用ならない・・・。
「そうか・・・」
だが、頼るものなど他に何もない。
大人しく待っていれば、ここから出れる保証など何処にもないのだから。
彼の頭にあるのは戻ること。どんなことをしても、何を犠牲にしようとも。
彼の愛する家族の元へ。
「・・・契約を結ぼう。」
ゆえに、この世界がどうなろうと知ったことではないようだ。
コウモリの奇妙な笑い声が、夜の王城に木霊していた。




