4話
タバコを吸おうとカバンを漁っていると、
「申し遅れました、私はリンデン王国第一王女アリーシャ・リンデンと申します。」
スカートの端をつまみ、軽く持ち上げて、挨拶をする。
カーテシーだったか、あまり馴染みがない行為だ。
勿論挨拶されたのは俺ではなく、勇者君が挨拶を返す、他の生徒達も銘々に挨拶を交わしている。
(というか、本当に彼が勇者なのだろうか、・・・顔で決めてないよな?)
などと、僻み根性丸出しで嫌になる・・・、何らかの方法で確認した、もしくは認識できるのだろう。
(定番でいえば、『鑑定』とか、そういえば言葉も普通に通じてるな。)
今更ながら疑問に思うが、まぁいいかとタバコを探す。
移動用で使う防水性のバックパック、大きめの物だが、着替えなどは入ってない、
別のカバン―バスの下部分に入れてしまった―の中だ。
手帳や旅のしおり、筆記用具に折り畳み傘、それとスマホに目当てのタバコが3箱。
「ほわぁあ!なんですかコレ!甘いです!シュワシュワです!!」
生徒達から貰ったお菓子に、小躍りする姿は微笑ましい、残念系なのだろうか、腹黒王女ではないだろう。
袋を開け銀紙を剥がす、ボッと火を点け、吸い込む・・・。ふぅぅ・・・と紫煙を曇らせる。
よほどいい顔をしていたのか、王女が興味深げにこちらを見ていた、初めてこちらを見た気がする。
というより、タバコ・・・あるよね?
(タバコないと、ダメ、ゼッタイ!)
はぁ・・・、今後の不安が増えた、どこか腰掛けられないかなと、辺りを見渡す。
「うおっ」
思わず声を出してしまった。背後に漆黒の鎧、・・・ではなくガイラスと呼ばれた白髪の老騎士がいた。
カバンを漁っていたから警戒されていたのだろうか、その瞳はタバコを興味深げに見つめていた。
「す、すすす、スイ・マスカ?」
どもり、片言、・・・でもしょうがないと思うんだ、存在感が半端ない・・・。
先ほどまで気付けなかったのが不思議だ。
「おお、済まない、それがタバコという物か?実物は初めて見るな。」
顔付きや雰囲気は怖いが、その言葉は安心感を与える。
タバコを1本渡し、火を点けるが、点かない。
「すいません、軽く吸ってください」
ボッとライターで火を点ける、これには驚かないな、同じような道具があるのかもしれない。
タバコの先端が赤くパチと音を立てて光る、燃焼と共に煙が肺を満たす。
初めてであんな吸い方をしたら絶対咽るのだが、そんなお約束にはならず、ふぅぅと白煙を曇らせる。
「ふむ、いまいちよくわからんな?」
1分も経たずに吸い終わってしまった。本当に人間か!?
期待していたほどの物ではなかったのか、興味は失せたようだ。
「いや、貴重な物を済まなかったな・・・、私はガイラス・ラインハルト、王国騎士団長をやっている。」
そういって差し出された手はあまりに大きい、思わず両手で取ってしまった。
「私は高橋・・・いや、ツトム・タカハシ、教師をしています。」
ニッと笑った老騎士の顔は、やっぱり怖い。
※ガイアス→ガイラス 誤字修正しました。