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少し騒がしい朝を迎えてから、いつもの通りに時間は過ぎて昼休み。
悠斗は自分で作ったお弁当を包んだミニ風呂敷を持って屋上へ続く階段を亀とうさぎの競争を思い出すスピードで登っていく。どちらかって?それはもちろん亀のほうである。屋上は鍵が閉められ、こんな時間にそこに近づく生徒はいないに等しい。それなので、場所取りなどの心配もなく急ぐ必要性もないのだ。
屋上へ出る扉の前の踊り場にたどり着く手前で、見知らぬ人影に気づく。
「・・・」
「なんだお前」
目を合わせないように進んでいると向こうから声がかけられた。こんなところに来るメンツだ。きっといい子ではないだろう。関わり合いたくなかったが、声をかけられれば無視するわけにもいかない。視線を少し上に上げるとそこには綺麗な金色の髪が目に入った。
そこには今朝出会った人魚姫が立っていた。
「・・・・・・」
「誰だお前」
先ほどとは違い少し苛立ちを含んだ声。悠斗は慌てて返事をしようとするが頭の中がパニックになり言葉が出てこない。
「まぁいい」
ノアは少し興味をなくしたように、そっぽを向く。残念そうな、それでいて少し嬉しそうな微妙な表情をうかべる悠斗は扉の前まで行く彼女を見守る。屋上の窓から入る光が彼女の光を透け、さらに光り輝く。歩き方は崩れていないのに、堂々とした姿はファッションショーに出ているモデルも顔負けだ。そして彼女は足をあげて、少し力んで・・・。
「って!ちょ、ちょっとまった」
「なんだよ」
「それはこっちのセリフ。何しようとしてんの」
「ん?開かないから開けようとしただけ」
それで蹴り開けようと。
どうやら噂に負けないほどの不良様らしい。
なんとか扉とノアの間に体を割り入れることで、扉の無事を手に入れた悠斗は安堵の息を漏らす。
「さっきからなんだよ。そもそもおまえは誰だ」
あきれ半分のため息を吐きつつ、こちらを睨み付けるノアに身の危険を感じつつも説明をする。
「鷺宮悠斗。ここの二年。よろしく九重さん」
「なんで私の名前を・・・って今朝、プールで覗いてたやつか」
「の、のぞいてない!」
顔を真っ赤にして否定する悠斗をノアが鼻で笑う。しかし、そんな表情もすぐにかわり再度睨み付けられる悠斗。
「しかし・・・そんな覗き魔が私の邪魔するってのはどういうことだ」
「だから、覗き魔じゃないって」
「そんなことはどうでもいい」
ドスのきいた低い声。その圧力に対峙して悠斗は唾を飲み込む。
「なにも壊すことないかなって」
「あぁ?でも、鍵が」
「これがあるから」
悠斗はポケットから緑色のリボンのついた銀色のカギを取り出した。それを鍵穴に差し込むとカチャリと音をたててゆっくりと扉は開く。
「さあ、どうぞ」
悠斗は姫に使える騎士のごとく傅いた。