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花は  作者: 立花
4/5

其ノ四

「奪うまでだ」

春沢がそう言った瞬間、東郷が声を張り上げた。

「者ども、かかれー!」

「おおぉぉぉぉー!」

野太い歓声が聞こえ、軍隊が凄い勢いで迫ってきた。

「どうする白!こっちきちゃったよ!」

「どうするも何も…、戦うしかないだろ」

「勝てるわけないよ!!」

「一人あたり十人。勝てる可能性はある」

「えっ?一人あたり十五人だろ?二人で三十人」

「三人で三十人だ。もう一人いるだろ。ほらあそこに」

白が山の近くにある桜ノ宮家を指さした。ドアの前には、買い物から帰ってきた空が涼しい顔で立っていた。

「げっ、兄ちゃん帰ってきてるじゃん!面倒事起こしちゃったから、怒られる!」

しかし白は、それよりも空の顔に疑問を抱いていた。

彼は温厚な性格で、争いごとが嫌いだった。だから、殺陣の訓練もずっと嫌がって、一人だけ弓道を始めた。白と紅が稽古をつけてもらうのさえ渋い顔をしていたし、二人が喧嘩をすると、珍しく怒って声を張り上げることもあった。そんな空なのに、戦争寸前のこの状態を涼しい顔で見ているとは。

「とりあえず、麓まで降りるぞ」

「了解」

二人は一気に麓まで駆けおりる。目の先には、迫りくる軍勢。柄に手を置いて、全員が戦闘の準備をした。

その時、白は視界の端で動き出す、空の姿を捉えた。思わず足を止める。

「受け取れ!」

空はそう言って、何かを投げてよこした。彼が投げてきたそれは…


『妖刀、月花(げっか)


人を切ることが出来ないと評判の刀だった。

「これは紅に!」

また空は刀を投げてきた。

力無しの空がどうしてここまで重い刀を投げられるのだろうか。しかし白には、そんなこと聞く余裕はまるでなかった。

「紅!受け取れよ!」

前を走り続けている紅に向かって、思いっきり刀を投げる。白が投げたそれは紅まで届くことなく、紅の足を止まらせた。挙句、ちょっと戻らせた。

「なにこれ!」


「妖刀、桜花(おうか)


月花と対になる刀だった。

「なんでそんなものが」

「これらの刀は特別な力を持っている。しかし、月花では人は切れない。悪いが、一人でいけるか?」

紅は深く頷いて、桜花を手に取った。鞘から抜く。刀は、艶めかしく光っていた。


「桜ノ宮家三男、桜ノ宮 紅がお前らを引き受けた!」


「一人で相手されるとはこっちも舐められたもんだな!野郎ども、ぶっつぶせ!」

東郷が鼻息を荒くして叫ぶ。決して舐めている訳ではなかった。ただ、相手が悪すぎた。

「桜花、力を貸してくれ」

紅は呟いて、刀を掲げる。そして、力強く一振りした。瞬間、軍隊の動きが鈍くなった。


桜花の能力。人に幻想を見させる。


鈍くなった軍隊の足はやがて止まり、今度は後ずさりし始めた。目線ははるか上空に向いている。彼らが見ているのは、巨大な化物の幻想だった。

「う、うわぁぁぁ!」

その声が啖呵を切ったのか、兵たちは次々と泣きっ面で逃げ出した。恐怖に耐えていた東郷と春沢も、部下が誰もいなくなると

「覚えとけよ!」

と言って走っていった。


こうして、軍隊は撤退したのだった。


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