結論6:爺さん代理候補に目を付けます。
「ここまで来れば爺さんは追いつけないだろう。あの鈍足ではな!!」
「あの……ありがとうです」
といってナイフが握られた彼女の右手が、俺の首に近づく。
「え……か、かかかか構わない……よ? か、構わないから、その手に持っているナイフを僕の首から遠ざけてくれないかな?」
「何の事……です?」
うん、彼女の笑顔は満点です。
「いや怖いからー、にこやかに微笑んでも目が笑ってないからー」
刻一刻と迫るナイフ。流石にふざける訳にもいかず、真摯な眼差しで彼女に訴えて掛けます。
「切れる切れる僕の首が胴体と分離しちゃうよ、それぞれ別行動始めちゃうよぉぉぉぉぉ」
「……何でちょっと楽しそうなんですか。なかなか変な人ですね」
「ありがとう。人間、如何なる時も楽しむ事が重要だとじっちゃんとばっちゃんが言ってたんだ」
「そのじっちゃんとばっちゃんも、こんな状況は想定外だったと思いますが」
「え、そうなの?」
「いや、私に聞かれましても。常識で考えてみれば、含まれている方がおかしくないですか」
「確かに可笑しいね(笑)」
「……あなた……頭がおかしいですよ。今の文脈からどう解釈すれば、変わっているという意味合いじゃなく、面白いという意味合いのおかしいになるんですか」
「え、違うの?」
「……こんな立場で言うのもなんですが、お爺さんがかわいそうです。私はあなたが怖いです」
「えー、そんなこと言わないでよー。毎日爺さんと会える訳じゃないからツッコミ役の人が欲しいんだよー」
「この状況に動じないどころか、楽しんでるあなたの精神は正に異常です」
「え……そそそそそんな事ななな無いんだだだだよよよよよ」
「……あなたと関わっていると頭が痛いです。もういいですから帰ってください」
ふむ。わざとらし過ぎただろうか。
「俺って帰れるなら帰りたいよ……だけど帰れない。だって俺……帰る家が……」
「あっ、えっと……」
「帰る家があるんだ!!」
「なら大人しく帰って下さいよ!! 帰る家が無いと思って少し同情しちゃったじゃないですか!!」
「同情するなら金をくれと言っておくべきでしょうか?」
「知りませんよ! なんで私にお金せびっているんですか!?」
「お金が欲しいんだ!!」
「私もですよ! というか大体の人がそうですよ!!」
「うむ。欲に素直でよろしい。そんなあなたに強欲の名を授けよう」
「何権限で授けているんですか!? そんな名前いらないです!!」
「まぁまぁ、遠慮しなさんな」
「一切遠慮なんてしてないの分からないんですか!? もうやだ誰か助けて!」
「あ、どこ行くんですか! まだ話は終わってないよ!!」
凄い速さで路地裏を駆ける彼女。その姿はさながら食い逃げ。
「くそぉ、逃げられた。……ま、まぁ結果的には助かった訳ですしぃ? 結果オーライですしぃ?」
ひとまず命は助かった事に安堵した。