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結論2:罪は軽いです。

 牢獄生活生活二日目。


 恐らく今日も快晴の空が街を覆い包み、暖かい日差しが降り注いでいる事であろう。


 しかしながら、自分は外気さえ吸えない独房の中である。つまりは外の天気など、どうでもいい訳だ。


 よって行う行動はただ一つ。


「監視員さぁぁぁぁん!! 朝ですよぉぉぉぉ!!」


「────っせぇな。朝っぱらから」


 監視員の目覚まし時計の代わりである。


「監視員さぁぁぁぁん! 監視員さぁぁぁぁ!!」


「うっせぇって言ってんだろうが! 何度も言わなくても分かってんだよ!!」


「おや、朝っぱらから元気ですね?」


「……その言葉、そっくりそのままお前に返してやるよ」


「いえ、返上させて頂きます」


「俺が返上してんだよ!」


 今日も今日とて、監視員さんは絶好調である。寝起きであると言うのに、彼の声量は衰えてはいない。


「おとーさーん。朝ごはんまだー?」


「誰がお父さんだよ! お前を産んだ覚えはねぇよ!!」


「それは男ですからねぇ……。当たり前と言えば当たり前ですわぁ。はよ朝食」


「あー……もうどうしようもないな。これ」


 監視員さんは憂鬱モードに突入。確変に期待です。


「おとっつぁーん」


「分かったから黙っててくれ。で、朝食は適当に買ってきてやるから、何食いたいか言え」


「黙れとか言えとかいうどっちつかずの命令にドン引き」


「お前はもうトマトでいいな。トマトに決定だ」


「あざーす」


「いや、トマトでいいのかよ……」


 自分からトマトを押し付けたにも関わらず、謎の心配。この人の思考回路が心配ですね。


「いやー、昨日のトマトしりとりをやってから無性にトマトが食べたくなってね? トマトトマト言っていたら夢にまでトマト出てきちゃってもうトマトよ。トマトにトマトソースかけて食べれば、それはそれはトマトなトマト──」


「トマトトマトうるせぇよ! どんだけトマト愛強いんだよ!!」


 トマト話で元気を取り戻した監視員さん。なるほど、この人もトマト好きの同士であったか。これは敬うべきかもしれない。


「監視員さん? さっきから文句ばっかりですよ? 早くトマト買ってきて下さい? そして早くここから出して下さい?」


「お前ほんとふざけんなよ!? 俺を何だと思ってんだよ!!」


「パシり」


「違ぇよ!! お前の監視役だよ!!」


 初耳である。


「お腹が空きすぎて力が出ませんわー。むしろ喋りに力が入りますわー」


「喋りに無駄な力を入れてるから余計に腹が空くんだろうが。で、本当にトマトでいいんだな?」


「はよ行きなはれ」


「お前あとで覚えとけよ……」


 買い出しに向かおうとする監視員であったが、ふと、彼に喋り掛ける声が牢獄に響く。


「……監視員……さん……?」


 おふざけを続ける監視員の後ろには、さほど寒くは無いのに、首にマフラーを巻きつけた小柄な女の子が佇んでいた。


 青紫色の髪をおさげに束ねた彼女は、惚けたような表情でこちらを観察している。


「シムル様! いや、これには事情が……」


 焦る監視員。反応をみる限り、監視員の上司か。


「……? ……それより……君の……処分」


 俺に小さな指を突きつける少女。あ、爪が伸びているよ?


「一生牢屋で監視員とお喋りす……お喋りしと刑なら、喜んでお受け致します」


「断固お断りしてやるよ!? 俺が辛いだけじゃねぇか!! あと無駄に言い換えてんじゃ────」


「…………いま……お喋り……してるの……」


 むすっとした顔の彼女の視線を浴びる監視員さん。あーあ、年下に怒られちゃった。どんまい。いいことあるよたぶん。


「も、申し訳ありません」


 落ち込む監視員さんに、救いの一言でもかけてあげるか。


「そうだぞ、監視員くん。君は自重したまえ」


「お前ぇ…………ふん。せいぜい処罰が重ければいいな?」


「いいねぇ」


「いい訳ねぇだろ!? そこは謝ってでも罪軽くしとけよ!!」


 監視員さん、後ろ後ろ。少女が凄いジト目で見てきているよ?


「…………」


「も、申し訳ありませんシムル様! どうかお許しを」


 だが彼女はしばらくすると、こちらに視線を送ってきた。


「…………厳重……注意で……釈放? ……だって……」


「本気ですかシムル様! こいつは色々とヤバい奴ですよ!?」


「奇声……発していた……だけ……だよ? …………罪……軽いって……言われた」


「それはそうですが……」


「決定……事項……?」


 つまりは無罪放免だね。その喜びを監視員さんに伝えるとしよう。


「じぃさんや。早く檻から出しておくれ」


「誰が爺さんだゴラァ」


 機嫌の悪いお爺さんは、それはそれは不愉快そうに笑っていたそうな。

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