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魅魍魎島シリーズ

恋ヲ識ル吸血鬼

作者: 文房 群



 いつもそれは突然だ。




       ×



 ひゅるりひゅるりと冷たい風が砂塵を転がす。

 冬季を迎えた土地は、今宵も月下で寂れた姿を晒し、見る者の心を映したよう。



 下弦の月は、禁忌の森の奥深く。

 古来から帰らずの森とも恐れられ、人が立ち入ることのない森林の中に、ひっそりと聳える城を照らす。


 悠然と建つ城はかつて、この土地を支配していた者が権力の証として建てたものであった。

 しかし現在は度重なる国政の変化により、財産と権力を失った領主は城を売り払い。

 幾度と繰り返される侵略により、拠点とされ征服され戦場となり果て――いつしか、隙間風が堂々と吹き抜ける古城は、時を経て形成された森林に取り残された。



 そして現在。

 存在すら人々の記憶から消された古城を、根城として利用する者がいた。


 ――ブロード・スケル・チェン・ヴァンピー。


 『変化の王』と名高い、闇に生きる夜の主。

 彼もまた、廃屋の城に住み着く――吸血鬼の一人である。



「――さて」



 今夜も森の周辺に広がる人里にて、生き血を啜り帰ったヴァンピーは人型となり、栄華と共に朽ちた廊下を歩く。

 蜘蛛の巣とネズミの歓迎を受け、石の道を闊歩する彼は、奥の部屋に辿り着き。



「…………」



 一つ。ため息を吐き、華やかしい意匠の残る扉を押した。

 二百年ほど前、応接間として使われていた空間は、快く異形が立ち入るのを許す。


 部屋に立ち入ったヴァンピーは、背後で扉が閉まる音を聞きながら、その鋭い双眸を開いた。



「急に呼び出すとは、何用か」



 銀色の瞳が貫くのは、壊れかけのソファーに腰掛ける青年。

 儚く崩れそうな印象のある彼は、組んだ手の上に額を当て俯いたまま、ヴァンピーに促した。



「まあ、席に着こうか親友」



 囁くような、静かな声音。

 普段は活発である彼の落ち着いた口調に、先日は見受けられなかった『何か』を感じ取ったヴァンピーは、自称親友の言うままに。

 テーブルを挟み、正面の彼より小綺麗なソファーに腰を下ろした。


 キィキィと鳴き声を発する蝙蝠がヴァンピーの影に飲み込まれ、応接間に静寂が訪れた頃。

 ゆっくり顔を上げた青年に『変化の王』はテーブルの上に置かれた葡萄酒に手を伸ばしながら口を開いた。



「……相も変わらず格上を敬わない奴だな――『昼の闇』デムーン」



「相変わらず偉そうな奴だね――『変化の王』ブロード・スケル・チェン・ヴァンピー」




 片手でワインのコルクを開け、自らの影を透明なガラスのグラスに変化させたヴァンピーは、無表情で赤々とした葡萄酒を注いだ。

 天井から降る月光を浴びるそれは、先程啜った生き血の如く鮮やかである。



「で。何時もより三時間も早く呼び出して、何の用だ。我が輩は暇ではない」


「とか言いながら寛ぐあたり、お前らしいな」



 失笑する青年――デムーンは姿勢を正すと、悠々とソファーに身を任せ月光を反射する葡萄酒の色彩を愉しむヴァンピーの態度に構わず、口を開く。



「実はさ……俺も正直戸惑っているというか……まあ、初めての感覚にドギマギしてるんだけどさ……きっとこれは親友に語るべき素晴らしい――」


「早急に用件を話せ。でないと我が輩の親友とほざくその減らず口を裂くぞ」


「……キミって昔から茶目っ気が無いよね」



 冷淡な言葉を吐くヴァンピーに苦笑を浮かべたデムーンは、咳払いをし、改めて話を切り出す。



「実は、俺……」


「…………」




「恋を、したんだ」




 ――ヴァンピーの足が、霧と化した。



「ここから少し離れた所に、若い娘の多い人里があったか」


「待てよ親友、話を聞いてくれ! 俺は初めてなんだこんな気持ち!」


「我が輩には関係ない。貴殿一人で愚行に励むがいい」


「ぐぐぐぐ愚行うう!? 愚行だってそんなお前待てよ親友ううう!」



 今にも全身を霧と変えようとするヴァンピーに、デムーンは『ほら葡萄酒まだあるからさ! な!』と、テーブルの下から次々と封の切られていないボトルを出し並べていく。

 ずらりと並べられた葡萄酒の山、山、山。

 壮観な光景に心を動かされたヴァンピーは、仕方ないとしぶしぶ元の人型をとり、優雅に身体をソファーに預けることにした。


 グラスの液体を煽り、気を落ち着かせた彼はほっとした表情を見せる自称親友に、冷たい眼差しを向ける。



「恋などとほざきよって……いつから貴殿はそのような戯れ言を吐くようになった」


「……八時間前だね。俺の世界が変わったのは」



 記憶を振り返ったらしいデムーンは、血色の悪い頬を朱に染め、ふっと口元を緩ます。

 ――これはいつぞやの亡き知り合いが時偶に浮かべていた、陶酔の表情か……。


 かれこれ三百年の付き合いになろうデムーンから始めて見る、恋する者の表情。

 それを確認したヴァンピーは、自らが経験したことがない恋というものに『愚かだ』と軽蔑しがら、呆れた調子で続きを促す。



「それで、聞いてほしい話とは何だ」


「何かと嫌そうな態度はするけど、根は世話焼きで良い奴だよねお前――いたたたた狼に変化させた足で噛みついてこないであたたたたた……!」



 無言で変化を解除するヴァンピーに、容赦ないよねと呟いたデムーンは、目の前のボトルに手を出した。

 傷口にかけたら治りが早くなるかな、と自分の脚につけられたら噛み痕を診ながら。



「でさ、俺はその子に恋しちゃったワケだけどさ……どうすれば良いかな? アプローチとか、プロポーズとか」


「……婚約を前提にしているのか」



 勢い良く首を縦に振ったデムーンに、ヴァンピーは手で顔を被いたくなる。

 そういえばこの旧友は性格的に、どんどん先へ突っ走るところがあったのであった。


 思考より先に、心に感じたままに行動。

 今昔にいたるまで人に狩られ続けてきた異形である吸血鬼だからこそ持ち合わせている長所――思慮深さが無い。

 自由奔放、その場任せに臨機応変に対応する。

 それが吸血鬼最大の弱点である日光を弱点としない、柔軟な思考を持つ変わり種の吸血鬼――デムーンであった。


 深いため息を吐きたい気分に駆られたヴァンピーは、新たに葡萄酒のボトルを開封しながら、とりあえず付き合いの長い自称親友が誰に恋をしたのか、問うことにする。


 ヴァンピーから見て魅力的な女吸血鬼など、数多くいた。

 しかしその内、誰が一番恋とは無縁であった変わり種の心を射止めたのか、予想がつかなかったからである。



「誰に堕ちたか。ムライト家か。シルヴァスタ家か」



 思いつく限りヴァンピーは心当たりのある女吸血鬼の名を述べていくが、どれにもデムーンは首を振らない。

 二十ほど名を上げていったヴァンピーであったが、どれも違うようだ。


 ――ならばどの吸血鬼が、こんな奴を骨抜きにした?


 名を上げる間にも思考するヴァンピー。

 本来ならば貴殿のような格下に、我が輩の頭脳を使うことなど無いのだぞ――と内心苛立ちながらも、考えを巡らしていく彼は、ふと。


(……『八時間前に世界が変わった』?)


 少し前にデムーンが言った言葉を思い出し、ある予感を抱いた。


 ――八時間前と言えば、真昼ではないか?


 本来ならば吸血鬼は眠っている時間。

 弱点である日光が地を照らしているその時間に起きて活動する吸血鬼など、『昼の闇』と呼ばれるデムーンぐらいだろう。


 そんな時間に彼は、一体誰に恋をしたというのか。



「……まさか」



 胸中に湧き出る嫌な予感に、ヴァンピーは目を見開き正面の異形を凝視する。

 人の形をした異形――ヴァンピーと同じ、生き血を糧にする、吸血鬼という種族である彼は、



「――そうさ」



 そうっと微笑み――疑問を渦巻かせれるヴァンピーを理解へ導く一言を、告げた。




「俺は、人間の女の子に――恋を、したんだ」




 ――ヴァンピーは下半身を蝙蝠と化した。




「付き合ってられぬ。帰る」


「いやだから待ってえええ! 俺の話を聞いてええええ!」


「断る。愚者と化した貴殿に付き合うほど我が輩は格下ではない」


「お願いだから! 葡萄酒山ほど奢るから! ただ話を聞くだけで良いからああああああッ!」




 半分以上飛び立った蝙蝠に、『うわぁーん頼むからー!』としがみつくデムーン。

 情けなく懇願してくる昔馴染みの姿に、苛立ちを募らせたヴァンピーは眉間に谷を形成した。


 半身を霧と蝙蝠に変えた吸血鬼の中の吸血鬼は、冷酷な言葉を縋りついてくるデムーンに浴びせる。



「恋などという愚行に走るならまだしも、よもや相手が人間の女だと? 貴殿には吸血鬼としての誇りは無いのか!」


「誇りとか言われても俺は平民生まれだし! そんな貴族様の価値観とか道義観とか分からないし!」


「一体これまでに何人の同胞が人間に殺されていった! 時代を追うにつれ数を増やした人間共は今や、少数となった我が輩共を死に物狂いで狩りに来ているぞ!」


「実はこの二年の間にお前が言ってた女吸血鬼は狩られてたんだよ! 『やっぱ女の子が良い』って美少女のケツ追ってたせいで! あと今思い出したけど、昨日俺達と一緒にこの城に住んでたヤツ死んだぜ! パンを喉に詰まらせて!」


「最近では人々への見せしめとして、力無い民を魔女とでっち上げ虐殺しているではないか! そんな人間に恋だと!? ――恋とか云うもののせいでその魂まで愚かになったか!」



 ――この時。

 ヴァンピーはらしくなく、平常心というものを失っていた。

 それは上流貴族に生まれた吸血鬼としての教えから、ではなく。


 ひねくれ者である自分に、愛想を尽かすことなく付き合い続けてくれた――友を案じているから。


 故に、彼は人間に恋をしたというデムーンに怒りを抱く。

 自ら破滅するつもりなのかと、心配しているから怒るのだ。


 それをデムーンは、知っていた。

 感じ取っていたのだ。

 しかし――彼の感情は止まらなかった。

 生まれて初めて抱く感情は、放たれた言葉の裏柄に秘められた思いに応えるよりも、表面の侮辱に応じてしまった。

 ――その結果、



「……ッ、お前は――ヴァンピーは恋をしたことが無いから、そんなことが言えるんだよ!」



 ――爆発した。

 ヴァンピーが知る限り、一度も怒ったことのないお人好しのデムーンが。

 感情を――怒りを、爆発させた。


 それと、同時。

 ヴァンピーに縋りついていたデムーンは自分の腕を貴族吸血鬼の上体に回し、自らの体を大きく、大きく後ろへと――反らした。



「ぬお゛ぉッ!?」



 ズゴオォォォンッ――と。

 海老反りとなったデムーンにより、ヴァンピーは頭から石塊でできた床に突き刺さる。

 ずっぽり、頭だけ綺麗に。



「きで――何をするか!」



 人型では抜け出せないと悟ったヴァンピーは、一度全身を蝙蝠へ変え、体を構成し直す。


 乱れた紫髪を整える彼は今し方、自分にジャーマンスープレックスを決めた者を揺れる視界に捉え、



「いいか上流吸血鬼貴族六代目ヴァンピー家当主ブロード・スケル・チェン・ヴァンピー!」



 ビシィッ! と鼻先に指を突きてきたデムーンの、これまでの付き合いでも見たことがない気迫に絶句させられた。



「恋ってヤツはな――理屈とかじゃないんだよ!」



 デムーンは顔を高揚させて、大声を張り上げる。

 どこまでも感情を剥き出しに、思いを有りの儘に。

 豊かに純粋に――真っ直ぐに。



「頭で考える隙なんてない! いつの間にか心が震えて、その人のことしか見えなくなっている!」


 ――医者に行け。

 絶句しながら、ヴァンピーは思う。

 今ならギリギリ間に合うだろう。良い医者に診てもらうといい。



「気がついたらその人の笑顔を思い浮かべて、体中がほかほかして世界の全てが美しく見える!」



 ――錯覚だ。

 同胞をやられたせいで気が動転しているんだろう。気を落ち着かせるといい。



「本能も心もすっ飛ばしたところで……そう。魂で感じたんだ――この人が運命の人だって」


「……運命の人?」



 ふわふわとした言葉が並べられる中で、とうとう胸中に浮かんだ言葉を抑えきれなくなったヴァンピーは、嘲笑気味に紡いだ。

 この短時間でとうとう脳の奥まで恋に犯された――と。



「逢っただけで、何故運命の人などと断言できる。ましてや人間を相手に」



 流石に馬鹿馬鹿しいと思えたヴァンピーは、熱弁を振るう旧友に肩を竦めるしかなかった。

 これは取り返しがつかないほど、頭が愚かになってしまっている――医者も手を施せないと、認識せざるを得ない。


(――恋とは愚かになることだと、大昔に祖父が言っていた気もするが……)


 確かにそうであるな、と。

 恋を語るデムーンの様子からそう確信したヴァンピーは、これ以上旧友が愚かにならないために、彼を夢想から覚まさせる言葉を放とうとし。



「――光っていたんだ」



 ――春の到来を報せる南風を彷彿させる穏やかな声に、口を閉ざした。


 揺るかな微笑を湛えるデムーンは、端正な顔に困惑を映し出したヴァンピーへ。

 神父が、聖書を唱えるかのよに。



「俺を映した彼女の瞳が、キラキラと輝いていたんだ。宝石のように――あの星空のように」



 月光の零れる天井を見上げるデムーンの髪が、サラサラと隙間風に揺れる。

 月の光を浴びた彼の銀髪はほのかに光り輝き、それは洗礼を受けた殉教者のように――神聖であり。

 異形でしかないヴァンピーの双眸には、グラスに注いだ葡萄酒よりも、遥かに美しく映った。

 昼に生きる月下の異形に、変化の異形は悟る。

 もう何を言っても――彼の心は揺らがないと。



「……貴殿は我が輩と同じ、異形のものであろう」



 音を立てずソファーに座るヴァンピーは、光の下に姿を晒す旧友の意を確認する。



「分かってるさ。俺もお前も同じ、吸血鬼だ」


「……吸血鬼は人間から忌み、嫌われ、避けられ、告発され、狩られる。巧く昼の世界に紛れ込めている貴殿もいずれ感づかれ――殺されるぞ」




 ――三百年。

 人間より遥かに長い時を生きる彼らが培ってきた、三世紀にも及ぶ時間の中で。

 高慢なヴァンピーがこのように、他者へ忠告したのは、付き合いの中で初めてであった。

 それは信頼と、心遣いの証。

 主にデムーンがちょっかいをかけるような形で形成された関係で、ヴァンピーから向けられた厚意。

 一瞬ぽかんと呆気にとられたデムーンは、少々ひねくれた吸血鬼貴族の心配に、くしゃりと顔を歪めて。



「その時は助けてくれよ、親友」



 ――ヴァンピーは今宵一番の笑顔に向かって、指でコルクを弾き飛ばした。


 頭貫いたあああああああッ! と既に完治した足をばたつかせ、額に開いた風穴に悶絶するデムーンを見下す人型の吸血鬼は、優美な仕草で脚を組み、



「――厚かましい格下だ」



 グラスを、傾けた。



       ×



 ――吸血鬼が、人間に恋をする。


 ヴァンピーにすれば天地がひっくり返るほど有り得ないことであった報告を、友から受けて二年。

 西方で魔女狩りが激化していき、拠点としていた土地にも徐々に人々の疑心暗鬼が深まっていく最中で。

 とうとうデムーンの正体が吸血鬼であると、人間に知られた。


 国が立て直り、僅かながら経済が豊かになった影響で、頑丈な建物が造られるようになった。

 それと共に、建物に建設者の意匠が施されるようになり、ガラスをその装飾に用いられるようになったのだ。

 ガラスは不明瞭ながらも、人の姿を映し出す。


 しかし、吸血鬼の姿はガラスには映らない。


 その不自然さを疑った者が夜半通しでデムーンを見張り、彼が家畜の血を啜るのを目撃した人々は、彼にかけられた疑いを確かなものにした。

 デムーンは吸血鬼である、と。


 それからは怒涛の勢いであった。

 異形であるデムーンを人々は裁判にかけ、死刑を申告した。

 村の平和を守るため、と。

 そして吸血鬼であるデムーンと交際をしているという女も、魔女ではないかと疑いをかけられる。

 歴とした人間である彼女は、必死に自分の無実とデムーンの弁解を求めたが、人々は応じず。


 魔女裁判が始まる前日。

 もう言っても無駄だと、人々の内に秘められた異形への恐怖を感じ取ったデムーンは、吸血鬼故の卓越した身体能力を駆使し、恋人と共に村から逃げ出した。




       ×



 息を切らし、青年は走る。

 愛おしい恋人と共に、吸血鬼デムーンは他国の境界となっている森林を駆けていく。


 背後に迫りよってくるのは、逃亡する異形を追いかける灯火。

 小波のように押し寄せてくるそれに一片の恐怖すら抱きながら、デムーンは彼女の手を引き南の隣国へ向かう。


 デムーンは吸血鬼であるが、狼や霧といったものへの変化や吸血を介しての繁殖といった吸血鬼特有の能力を、一切持たない。

 彼にあるのは精々、人間を遥かに超越した身体能力と生命力ぐらいである。

 なので彼に、背後から追跡してくる人々を追い払う手立てはなかった。

 彼女の手を離さぬよう、しっかりと握り、逃げることしか――デムーンには、残されていなかった。



「ごめんね。俺のせいでこんなことになって……」



 木々の間をすり抜け、できるだけ遠くへ、できるだけ見つからぬように駆けるデムーンは、確かに手を握り返す恋人――アヴィに謝罪をする。

 恋人が吸血鬼であったがため、魔女という疑いをかけられた彼女。

 生まれも育ちも人間であるデムーンの恋した相手は、暗い恋人の手を強く握った。



「あんたは悪くない……悪いのは偏見ばっかで、あんた自身を見ようとしないヤツらさ」


「アヴィ……」



 疲労を悟られぬようにと気丈に振る舞い、汗塗れになりながらも笑顔を見せるアヴィに、萎んでいたデムーンの意志は息を吹き返す。


 ――何をしてでも、アヴィだけは守らないと……。

 彼女が告発された瞬間より硬く誓った。

 その誓いを胸に、デムーンは前へ進む。

 ただ一つ、繋がれた手だけは離さぬように。


 そうした決意とは裏腹に、非情にも灯りの波は逃走者との距離を縮めていく。

 アヴィの体力に合わせ逃亡するデムーンに、追いつきつつある追っ手。


 追跡者のうち、数名が矢を番えた。張った弦を引き、ギリギリと逃走者のいるであろう地点に目星をつける。

 射撃の準備を終えたことを視認した村の護衛団の一人が、合図を下す。



「――討て!」



 びゅんと、弦がしなる音。

 空を裂く矢。灯火の光を鏃が静かに反射し。



 そして世界は、霧に包まれた。



「な、にこれ……」



 突然視界を覆った濃霧に警戒を示すアヴィ。

 行く道を照らす月光すら食らう霧へ戸惑いを露わにする恋人とは対照的に、即座に辺りを見渡したデムーンは驚きと共に、何も言わずに古城に置いてきた友の名を零す。




「……ヴァンピー?」


「――夜更けであるのに人間共が騒がしいと思えば……とうとう勘付かれたか」



 霧から轟く男性の声音。

 デムーンの目の前で渦を巻き始めた霧が収束し、圧縮し、濃紫の影となり――三十代後半の男の姿を形作る。

 かつり――と。

 森の中に高価な革靴の音が鳴り、



「……しかし二年、か。よくもそれまで疑われなかったことだ。流石は『昼の闇』、と言ったところか」



 かくして、濃霧の中に不死身の異形は現れる。


 霧と同様。唐突に現れた男に警戒するアヴィの肩に手を置き、敵ではないことを伝えたデムーンは、辺りを覆う霧の主に訊ねる。



「お前、何でこの場所に……!」

「たかだか紙切れ一枚で三百年の友に別れを告ぐなど、不敬にも程があるであろう」


「友……」



 三百年の付き合いの中で、初めて高飛車な親友から発せられた、『友』という言葉。

 一体どういう心積もりで言ったのか、デムーンが考え始めた時、ヴァンピーは霧の先――追跡者のいる方向に目を向けた。


 霧伝いに感じる、人間の動揺と狼狽、恐怖と敵意。

 行く手を塞ぐ霧に視界を奪われながらも矢を放ち、前進し続ける人々に、吸血鬼貴族は眉間を寄せる。


 ――何が何でも異形を排除するか。



「……人間共め」



 忌々しい、と言わん限りに霧向こうを睨み付けたヴァンピーは次に、デムーンの恋人らしき女に視線を転じる。

 頭の先から爪先まで、一瞬で鑑定し終えた貴族は、平民吸血鬼に告げた。



「品がない女だな」


「「な……!?」」


「貧相な体つきでもある。我が輩の好みではない」


「ちょっとあんた! 初対面なのに失礼じゃない!?」



 ヴァンピーの鑑定に怒髪天を衝いたアヴィが掴みかかろうとする。

 それを後ろから羽交い締めにし、『落ち着いて! 親友に悪気はないんだよ!』と懸命に説得するデムーン。

 その一連の光景を見たヴァンピーは、鼻先で笑う。



「――貴殿には相応しい女だ」


「!」


「ヴァンピー……」



 目を丸くする吸血鬼と人間の驚愕の目を受けながら、吸血鬼貴族は周囲の霧を蝙蝠の群れへと変化させる。

 小舟のように群れを集めたヴァンピーは、旧友に最後の忠告をした。



「南は止めておけ。彼方も魔女狩りが多発していると聞く――東に迎え。極東でなら慎ましく生きていけるだろう」


「ヴァンピー、この礼はどうすればいいか……」


「米酒、というものでよい。極東でしか見受けられないらしいからな」



 異形の力に目を瞬かせるアヴィを横抱きにし、躊躇なく浮遊する蝙蝠の小舟に乗り込んだデムーンは、毅然と地上に残る親友を見る。


 背を向け、霧の向こうを見つめるヴァンピー。

 ――どうやら彼は、別れを綴った置き手紙を読むや否や、駆け落ちする友を助けに来たのだらしい。


(やっぱり……お前は良い奴だよ)


 高飛車な言動のせいで誤解を受け、同類からも敬遠されていた貴族へ微笑んだデムーンは最後。

 浮上していく舟の上から、感謝の言葉を落とした。

 ひねくれ者の、親友に向けて。



「――次に会ったら、一緒に葡萄酒も奢ってやるよ」


「――次に会う時までに、その無礼な言動を改めておけ」



 ――もう会うことはない、と。

 両者共に理解しながら。


 果たされることのない約束を――彼らは交わした。



「…………さて」



 小舟が東方へ向けて出航した後。

 霧の中に残ったヴァンピーは一人、着実に近付いてくる足音と敵意を感知しながら、ブツブツと呟きを零す。



「これだけ騒ぎを起こせば、あの城ももう使えぬな。良い根城だったのだが……流石に百年使うと城も廃れるか。ふむ……これを機に別の場所へ移るとしよう」



 霧の奥で松明の光が点滅し、不安と戦意の話し声が聞こえる。

 シュッ、と真横を通り過ぎた矢に口を閉ざしたヴァンピーは、不機嫌そうに顔をしかめた。



「野蛮な人間共め……」



 言葉を発するより早く、その体を霧散させた吸血鬼は武器を携える人間の群れを嫌悪を侮蔑の眼差しで睨み付ける。



「これも良い機会だ。この地を発つ前に、軽く運動をするとしよう」



 ――この場で人間を足止めするためにもな。

 嘲笑と共に宣告したヴァンピーは、それまで展開していた霧を全て、影へ変じさせた。

 夜空の如く深い、暗黒の影へと。


 霧が影へと変わる超現象に、驚愕と動揺を隠しきれない人々。

 ゆらりと揺らめき森を覆う、闇と影の陽炎。

 それを一望する吸血鬼は、冷酷な言葉を追跡者に降らせた。



「『変化の王』の力――下等なその身で識るがいい」



 夜闇より深い影から、厳格な声が響いた。

 ――刹那。


 影が、盛り上がった。


 人間の一人が悲鳴を上げる。

 勇敢な人間は矢を構え、大木ほどに盛り上がった影に矢を放った。

 空気を貫く鏃が、影に触れた――直後。


 影は無数の蝙蝠となり、星空を埋め尽くした。

 暗闇に取り残された人間は怯えを露わに、次々と四方八方に矢を放つ。

 しかし矢は蝙蝠に当たる直前、別のものに叩き落とされ、踏みつけられる。

 矢を全てくわえては折り、地面に落としていく。

 追跡者の一人が松明で全貌を照らし出した、その生き物の正体は――狼だ。


 しかも一匹ではない。何十匹も、どこからともなく現れた狼が唸りながら、人の群れを囲っていた。


 増え、広がる悲鳴。

 それを合図に一斉に蝙蝠は羽をはためかせ、狼は地を蹴り、影は拡散し――



 人間は、吸血鬼の恐ろしさを識る。



       ×



「やはり、烏合の衆であったか」



 吸血鬼という異形による未知の恐怖と、物理的圧力により泡を噴き、気絶した追跡者の山。

 人間を積み重ねて作られた山の上に君臨する『変化の王』は、静かに佇む。


 ふと、頭上を仰いだヴァンピーは東の星空で影が蠢いているのを見つける。

 目を凝らさずとも、影の正体が蝙蝠であると気付いた彼は、本人も気付かぬ内に肩の力を抜いた。



「極東、までとはいかぬが、東の大国には着けたようだな」



 ――あそこまで行けば、案じる必要はないだろう。

 ヴァンピーへ向かい真っ直ぐ空から降りてくる蝙蝠の群れ。

 見送り代わりとして小舟の形で送り出した群れを体に取り込みながら、その数を数えた彼は、全て残らず帰ってきたことを確認した。

 何もかも全て、上手くいったようである。

 後は――かの二人が決めることだ。


 友としての義は全て果たした、と。

 静寂に包まれた境界の森で、三百年の友がいる方角へ背を向けたヴァンピーは、西の夜空を見上げる。

 ――これ以上、この場に留まる理由も無い。

 自ら課した役目を終えた吸血鬼は、暫く起きる様子の無い人間の山を崩し、百年ぶりに気儘に行く流れ旅を再開することにした。


 これからは、一人で。

 言を交わす相手もなく。

 肩を並べる者も、なく。


 ――穴が空いたように。

 背中が、軽くなったのを感じながら彼は人から無数の蝙蝠へ、姿を変える。



「……西に行くか」



 無意識の呟きを拾う者も――なく。


 吸血鬼の中の吸血鬼と謳われる『変化の王』は、異端狩りが増加していると小耳に挟んだ西方へ、飛び立った。

 自分と同じ異形のものを、暇潰しがてら捜してやろう、とも思い立ち。



 『変化の王』は、西へ旅立った。



       ×



 『昼の闇』のように、日光の下で生きられない ヴァンピーであるが、彼は日を遮る影さえあれば昼にでも活動できた。

 よって、外套の一部を影と化しそれで日の光を防ぐことで、昼間の空中散歩を可能とした彼は――現在。

 優雅に空の旅を満喫していた。


 何を落ち込んでいるのか。吸血鬼が疎ましく思うほど晴れていても、人々は空を見上げないもので。

 毎日せかせか、上を向くことなく働き続ける人間に、ヴァンピーは見つかることはなかった。

 たとえ見つけたとしても、半身以上蝙蝠と化している彼を見たところで、風変わりな群れだとしか思わないだろうが。



 このように、平和な空の旅を一週間続けてきたヴァンピーであったが――彼は非常に、退屈していた。

 三百年以来の、退屈である。

 思えば時間に暇があった時は、毎回友とくだらない話でもしていた気がするな――という。

 思い出に耽ることすら飽きた不死の異形は、心底つまらなさそうに吐息をもらす。


「……つまらぬ」



 ――何か愉快な催し物でも無いのか。

 蝙蝠の一部を霧に変え拡散し、暇を潰せる出来事がないか探す吸血鬼貴族。


 しかし、人間は変わらず働いてばかりで、興味を惹かれるようなこともない。

 旅の目的の一つでもある異形探しもついでに行うヴァンピーであるが、なかなか影すら捉えられない同類に、彼は飽いていた。


 ――退屈が最大の敵であるか。


 常に心を蝕むそれに、いい加減打つ手を考えなくてはと、億劫さを抱きながら思考を開始した貴族。

 そんな時、彼は――



「……魔女裁判、か。ふむ」



 下界でいつの間にやら人間達が集まり、そう騒いでいるのを霧を介して知った。

 噂では何度も耳にしたことがあるが、思えば一度も現場に立ち会ったことのない彼は、人間が勝手に始めた告発裁判に、興味を抱く。

 時間的に余裕もある上に退屈していた吸血鬼の判断は、早かった。



「人間の裁判とは一体、どのようなものか……見てみるのも一興であろう」



 裁判の覗き見を即決したヴァンピーは、霧となり裁判所へ向かう。



 雲により曇っていく空の下を移動し、水蒸気ほどの僅かな霧で捉えた地の上空。

 念には念を入れ、霧の姿で下界を見下ろすヴァンピーは人の群れの中から、『人間とは違う気配』を感知した。



「同胞……ではないな。作りが人間に近い……しかしこの清純な流れは……」



 独り言を零していく吸血鬼貴族は、注意深く人垣を眺め『人ではない気配』の主を捜す。


 ――二秒で見つけた。

 暗幕で頭をすっぽり覆った、体躯からして童子だ。

 周囲の人間と比べた背丈からして、八つぐらいであろうか。子どもにしては痩せていて、布切れのような粗末な服を身に纏っている。

 その服の形からして、童子が女子であることを察したヴァンピーは、成る程と。『人間ではない』少女の正体を看破した。




「魔女の子、か……」



 未成熟な魔力の流れからして、そうだろう。

 老年の魔女を知っている彼は魔法を使う者特有の魔力の流れを容易く読み取り、毛色はやや異なるが同じ異形の者として、若年の魔女を分析する。



「魔女……というにはまだまだか。見習いに毛の生えた程度か。潜在能力は有るようだが……」



 あくまでも客観的に見定めるヴァンピーは、崖に向かう少女を助ける気などない。

 ヘタに手を貸したところで少女の今後まで保障できぬ上に、そもそも乗り気ではなかった。

 観客の一人として参加しているヴァンピーは、最後まで傍観を貫く事を決めている。 それで幼子一人が死のうが生きようが、吸血鬼貴族には関係なかった。



 ――浮かべば魔女、沈めば人間。

 大衆が一目瞭然で理解できる、魔女と人間の判別方法。

 たった今残酷な審判を執り行うために、両足に重りを付けた枷をつけられた少女は、切り立つ崖の縁に立つ。


 ――この前処刑された魔女の一人娘。


 ひそひそと野次馬が囁く噂から少女の情報を収集していく吸血鬼は、無関心と地上の様子を眺めるのみ。

 あと一歩。踏み出せば少女は真っ逆様に崖下の海へ落ちる。

 ゴツゴツと無骨な岩肌を覗かせる海へと。


 少女の首から上を覆い隠していた暗幕が、立会人の手により取り払われた。

 瞬時にどよめく民衆。

 無理もない。肩口で切り揃えられた彼女の髪は、夜空に輝く星の如く、美しい銀色であったからだ。



「……身なりは汚いが、清楚であるな」



 東方へ旅立った、刃のような輝きを持つ友とは異なる、星の輝き。

 好感の持てる色に、微少な興味を少女に感じたヴァンピーは『人間に勘付かれたばかりに』と、成長し女として成熟することはない少女の運命を憐れんだ。


 少女が大衆へ振り向いた。

 執行官に言われ、最後の言葉を告げるために。

 上空からでも窺えなかった、少女の表情。


 ――嘆きか、憎しみか。


 死しか待ち構えていない未来に、正真正銘魔女の子どもは何を思うか。

 些細な好奇心と共に少女の容貌を目にした彼は。




 ――――思考を、奪われた。




 言語の消失。思考の停止。時間感覚の喪失。

 刹那瞬間一瞬その時この頃この時間。

 ヴァンピーは生涯、忘れることのない衝撃を受けた。


 零れんばかりに見開かれた吸血鬼の目は、少女の姿を捉える。

 少女の表情は嘆きでも、恨みでもってなかった。

 哀しみでも、怒りでもなかった。



 そこにあるのは――意志。


 凪の海のように静かで、烈火の如く熱い――懸命に鮮明な、生きる意志。

 これから訪れる死ですら乗り越えると、硬い決意を宿した瞳は――閃光であるかのように。

 キラキラと、翡翠色に瞬く。



「――――――――」



 金縛りに遭ったかのように、上空で硬直するヴァンピーの目は、形の良い小ぶりな唇が開かれるのを、見た。

 甲高くもなく低くもない、いかにも幼い少女の声で――だがはっきりと、その言葉は放たれる。



「私は正真正銘、『流星の魔女』ソーラの娘です! 誰が一体、何を言おうと――魔女であるこの誇りだけは、あなた方に奪わせやしません!」



 ――凛と、響いた幼き魔女の声。

 それは大気を震わし、人々の間を吹き抜け――人ではない吸血鬼の心を、穿った。



「――…………」



 執行官の手が、崖へ振り向かせるために少女の肩に置かれる。

 その時にようやく、思考の仕方を思い出したヴァンピーは、呆然と己の口元を、手で覆った。



(……何だ。この、脈動は……)



 著しく低い自分の体温が、沸騰寸前にまで上昇する感覚。

 周りの風の音も、野次馬のざわめきも意識から除外され、耳の後ろで心臓が鼓動する音が聞こえる。

 暗黒から明け放たれ、目の前が開けたように崖に立つ少女の姿しか、視界に映らない。

 数秒前まで関心も湧かなかった、少女の姿しか。



(何だ……何なんだこれは……)



 病に似ていながら異なる、未知の感覚。

 己の身に訪れた異変に戸惑うヴァンピーの脳裏に、いつか人間に恋したという友の言葉が、蘇る。



『頭で考える隙なんてない! いつの間にか心が震えて、その人のことしか見えなくなっている!』



 ――ああ、確かにそうだ。

 思考する隙などなく、いつの間にか心は震え、少女のことしか見えなくなっている。



『気がついたらその人の笑顔を思い浮かべて、体中がほかほかして世界の全てが美しく見える!』



 ――今がまさにそうだ。

 気がついたら少女の笑顔を想像していて、全身が火にかけられたように熱く、愚図な人間共ですら愛しく思えてくる。



 胸中に湧き上がる不思議な衝動を抑えながら、もう一度ヴァンピーは少女を見やった。

 ――霧となっているヴァンピーの姿が、彼女に関知されることはない。

 ましてや、未熟すぎる魔女見習いに。


 ――だが。



「……?」



 少女は、小首を傾げながら空を仰いだ。

 何者かの視線を感じた、とでも言うように。



 エメラルドのような瞳が、捉えられないはずのヴァンピーの目と、交わる。



『俺を映した彼女の瞳が、キラキラと輝いていたんだ。宝石のように――あの星空のように』



 ――嗚呼、そうだ。

 その通りだ、友よ。


 もう会うことはない友の、当時侮蔑していた言葉の意味を、今――実感し、完全に理解したヴァンピーは。

 霧から緩やかに、人の形に己の身体を構成しながら、蝙蝠の羽音と共に地上へ降下していく。


 ――彼は、何も解った。

 不自然な体温の上昇、不整な心臓の鼓動、腹でくすぶる衝動の原因を。

 何もかも理解した彼は、驚きに目を開く少女へ歩み寄る。

 人目を気にせず、近付いていく。



『本能も心もすっ飛ばしたところで……そう。魂で感じたんだ――この人が運命の人だって』



 ――その通りだ、デムーン。


 心の中で、首を縦に振る。

 この世に生まれて初めて、その感情を得た異形の男は、やがて佇む少女の眼前まで歩み寄ると、



「――その言葉、その覚悟、その魂」



 友にも差し出したこののない手を、少女へ差し伸べた。



「我が輩が一片残さず――貰い受けるとしよう」



 ――こうして。

 『変化の王』と呼ばれし吸血鬼は、孤独の魔女見習いの少女に確信した。

 彼女が自分の――運命の人である、と。



       ×



「――と、まあ。このように我が輩は妻と出逢ったのだ」


「へぇ……なんか凄くロマンチックな馴れ初めですね」


「あの時より我が妻は可憐であった……今はその何千倍も可憐であるが」


「本当にサラちゃんは可愛いですよね。何よりも、ヴァンピー伯爵の隣にいる時が」


「ふふ、ははははははははははははっ! そうか。そうかそうであるか!」


「はい。誰が見ても――あ。ところで」


「ふふふふ――うむ。どうしたか孫よ」



「いつになったら僕は、この樹から下ろしてもらえるんでしょうか?」



「……村長が帰還した時であろう」


「最初にそう言われてから四時間ぐらいは経ってますけど。全然帰ってくる気配ないんですけど。いつまで僕は逆さで宙吊りにされてるでしょうか」

「ならば帰ってくるまで、我が輩と妻の思い出話でも語り聞かせることにしよう」


「是非お願いします――ついでに帰ってきた芙蓉へのキツい一撃も」





<了>



×あとがき×



スランプになってました。

その上締め切りも遅れてしまい、申し訳ございません。


なのでこの短編はかつてないほどの低クオリティでお送りされていますが……誤字脱字等あったら諸連絡を下さい!

全く……四分の三以上寝ぼけたコンディションで執筆して、大丈夫なのか……多分ダメだ。ああもう意識が落ちる。


というわけで、突発衝動企画第二段『中世風』。

自分からは中世なんて匂わせない短編を投稿させていただく形で、公表させていただきます。


ロリコン伯爵のお話でした。



最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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[良い点] 確かに地の文がしっかりしている。読みやすい。面白い。この三拍子。 [一言] 多分、短篇なのに長くなるのは仕方ないことなのかも……と思ったり。なら、長編は?ということで……長編を期待して待っ…
[良い点] 地の文の力と勢いを感じました。 読み進めても、苦ではありません。 相当な分量をお書きになっているのではと、勝手ながら想像致しました。 [気になる点] それほどキャラが立っていない気がします…
2014/03/04 03:52 退会済み
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