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5枚目 名前は何でしょう?

 この目の前にいる女の子はモブキャラ、と言っただろうか。いや、きっと、私たちみたいな存在はモブキャラみたいな者よ! っと言う意味だろう。そうだ。そうに違いない! この子もここがゲームの世界だと知っているだなんて、そんなのことありえないもの。攻略対象やらヒロインというのは、ここが乙女ゲームなのではないかと疑ってしまうほど美しい人たちがたくさんいるためだ! うん、そう、きっとそう!


「えっと、私たちの名前は何だったの?」


 引きつってしまいそうな顔を何とか笑顔に変えつつ、女の子に問いかけると、女の子は目を輝かせた。それほど、言いたい話題なのだろうか。


「私の苗字は元からあったから私の名前に関してはすぐに分かったのよ。でも、その名前を見た瞬間にしっくりくる、と感じたの。欠けていたピースがはまったって感じだったわ。それに、他の名前も見ていたら名前を見ただけで他のモブキャラの顔が思い浮かんだのよ! この名前はこの人だ、って分かったの! すごいわよね!?」

「うん、すごいね。で? 私たちの名前は?」

「あ、ごめん。興奮してて。えっと私は世良川千恵。あんたは、園川綾乃よ」


 ――園川綾乃……。確かに、しっくりする。でも、私の名前そんな名前じゃない。だって、私の名前は別にあるもの。私の本当の名前は……。――あれ? 私の、本当の名前は……、何?


「まあ、というわけでよろしくね! 綾乃!」


 女の子――千恵は急に背中をばしんと叩くと、私の手を握ってぶんぶん振り回した。ちょっ、痛いよ、千恵。背中に手形ができてそう。くそう! もし痕ができてたら、デザート奢ってもらうからねっ!


 その後、体育館で始業式に参加し教室に戻ってホームルーム。今日は午前中だけらしく、そのまま解散となった。せっかく、この世界が乙女ゲームの世界だとわかったのだ。さっそく行動しようではないか。

 一緒に帰ろうと言ってきた千恵には申し訳なかったが用事があると断り、私は中庭に向かった。

 中庭は私が好きな性格の彼の出現ポイントだ。彼は時間があるときはいつも中庭にいるので、きっとすぐに出会いイベントが発生するだろう。

 そう思っていたのに、その日は結局出会いイベントはなかった。次の日も、その次の日も、昼休みと放課後に中庭へと足を運んでみたが、彼に会うどころか彼を見かけることすらなかった。

 何で彼はここに来ないの? ここは彼のお気に入りだったはずでしょう? 何かおかしい……。


「ねえ、君さぁー。こんなところで何してるのー?」


 妙に間延びした声が後ろから聞こえた。驚いて振り向くと、そこには主要攻略対象であり、近隣の不良どもをまとめあげる手腕を持ち先生たちを困らせる問題児、水無月加純が立っていた。


「なん、で。ここ、に……?」


 彼の出現ポイントは屋上だったはずだ。不良のサボり場所の定番だと思い、印象に残っていたからよく覚えている。それに、こんなムカつくような語尾を伸ばした話し方でもなかったはず。どういうこと?


「何でって、ここは俺のお気に入りの場所だからねー。設定では屋上になってたけと、今の屋上は先輩の領域だから行けないしー」


 先輩? 彼が言うことを聞くような先輩など存在していただろうか。そんな人物が出てきた覚えなどない。


「そんなことより、今は俺が質問しているんだけど。――早く答えろよ」

「っ!?」


 彼は今までとは違い、ドスの効いた低い声で言う。怖い。彼のルートで何度か聞いたことはあったが、実際に言われるのはここまで怖いものだと初めて知った。


「俺はあんたのことを知らないし、あんたはモブキャラだよねー? モブキャラと言えば俺らの恋愛を傍観してたから、最初はあんたもその類いだと思ってたんだよー。でもさぁ、あんた、堂々とここにいるよねー。傍観をするつもりなら、物陰に隠れたりするはずなんだけどー。つまり、傍観をするつもりはない。そしてここは、 主要攻略対象の睦月和哉の出現ポイントだよねー。ということは、あんたは睦月和哉に会いたいんじゃないかなー?」


 ほとんどバレている。口調は戻っているが、私を見る目は冷たい。怖さが倍増している。これは、絶体絶命かもしれない……。


「そして、設定の呪縛が解放されたから、睦月和哉がここに来ないのはもう周知の事実なんだー。"彼女"があんなに全力で嫌がっいるにも関わらず追いかけ回す、その物凄く迷惑な執着は学校内でも有名だからねー。普通の人は睦月和哉に会いたいならここには来ず、"彼女"のもとに行くはずなんだー。まあ、彼や"彼女"に近づこうと思う人も早々いないけど。それなのに、あんたはここにいる。――――あんた、普通のモブキャラじゃないよねー?」


 彼はにっこりと悪魔のような笑顔で私に告げた。

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