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4枚目 人だかりができていると気になります。

 途中の公園に寄ったりしつつ女の子と会話をしながら歩いたため、家から近い駅まで四十分掛かった。公園に植えてあった桜の木が満開だったから、今の季節は春だと推測する。女の子の話から、今日から私たちは高校二年生になることが分かった。つまり、今日は始業式なのだ。さっそく、女の子と離れてしまうかもしれない可能性に心細さを感じていると、女の子に「また一年間よろしくね!」と背中を叩かれた。私たちは同じクラスなのだろうか。既にクラス分けが発表されているのかと思ったが、どうもそういうわけではないようだ。

 疑問に思いつつ電車に揺られること二十分。駅から出ると、私たちと同じデザインの制服をたくさん見つけたので、時間帯的にもいい具合になったのだろう。

 学校の校門が見えてきた頃、女の子が首をかしげながら口を開いた。


「それにしても、昨日ですべて終わったわね。今日から新しくなるんだろうけど、どうなるのかしら」


 すべて終わった? 新しくなる? 何のこと? 勉強、とかかな。


「そうだね。難しくなるのかな?」

「それもありえるわね。前回までもなかなか終わらなかったのに、難しくなったりなんかして大丈夫かしら」

「大丈夫だよ。予習復習をしっかりすれば成果は出るって!」

「予習復習って、あんた……。はぁ、まぁ、そうよね。ちゃんと、自分の行動を振り返ることは大事よね。って、あれ? 何か、前よりも人が多くない?」

「え?」


 既に校門の前に着いていた。女の子と一緒に人だかりの中を突き進んでいく。クラス分けが発表されているようだ。クラスを見に来ているのなら、この人だかりにも納得できるのだが、女の子はそれでは納得しなかったらしい。女の子はずんずん人を掻き分け、先頭まであと少しというところまで進んでいた。そんななか、この人ごみの中を突き進むのに疲れた私は、人ごみから外れる。することもなく、ぼんやりと人だかりを眺めていると、見覚えのある人物を見つけた。

 彼女の名前は、皐月瑞穂。『十二人十二色~好きな性格の人がきっといる~』という乙女ゲームのヒロインだ。え、もしかして、私、乙女ゲームの世界に入っちゃったの!?


 『十二人十二色~好きな性格の人がきっといる~』とは、現代日本のどこにでもある普通の私立高校が舞台の乙女ゲームで、サブタイトルの通り、種類豊富な数多な性格、たとえばツンデレにヤンデレ、鬼畜にショタに俺様などなど、十二種類の美形たちを攻略する。しかも、びっくりすることに名前を知ることさえできればモブキャラですらも攻略できてしまう。製作者の努力を褒め称えたくなる作品だ。


 私は、そんな乙女ゲームの世界に入ってしまったらしい。ここはヒロインの、現実に行われたら笑いを誘いそうな恋愛事情を傍観しようではないか! とか、言ってみたい。でも、私にはムリだわ。だって、せっかく美形の攻略方法が分かっているんだよ? しかも、それを知っているのは私だけとか。そんなの、私に攻略して、と言っているようなものではないか! 煩悩万歳。私は私がやりたいようにする!

 絶対に私の好きな性格である彼を攻略してみせるからっ!!


 などと覚悟を決めていると、女の子が鼻息を荒くしながら私の元まで駆け寄ってきた。


「ちょっと! なんで、私の後ろから着いてこなかったのよ! せっかくの喜びを分かち合おうと思ってたのに!!」


 喜び? 私が乙女ゲームで彼を攻略しようとしていることかな。まさか、分かってしまったなんて、さすが女神様(他称)だ。


「何変な顔してるのよ! いい? 今からビックニュースを言うわよ。落ち着いて聞きなさい!」


 まずは、あなたが落ち着いたらどうだろう。なんて、口に出したら叩かれそうだな。お口チャック!

 肩を掴みそうなくらいの勢いで迫ってくる女の子に対してそんなことを考えていると、女の子が感極まったように震えながら私の手を握り、ぶんぶん振ってくる。


「モブキャラの私たちにも名前ができたのよ!! 今まで攻略対象とヒロインにしかなかったのに!」




 ――――は? 名前? ……いままでなかったのぉぉおおおお!? 不便だな、おい! て、いや、違う! そこも確かに気にするところだけど、もっと気にするべき点があったでしょう! よく思い出すのよ、私。この女の子は今なんて言った? モブキャラの私たちにも? 攻略対象とヒロイン……? 



 ――――え?


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