本質的には美女と小学生
「レイラちゃん、一緒にお風呂に入ろう!」
ある日の昼下がり、レイラの住むボロアパートに遊びに来ていたモエちゃんが、その大きな瞳をキラキラさせながらそんなことを言い出した。
ええ!? どうして急に!? それもこんなにお日様がテラバイトの容量を誇っている時間帯に!?
レイラは心の中で絶叫した。これでも一応「社会人」の肩書きを持つレイラにしてみれば、お風呂とは就寝する二時間前、つまり午後10時前後が定番となっているのである。ちなみにその時間帯に入浴することにより、アルファだかブラボーだかチャーリーだかの脳波が刺激されて快眠に繋がるだけでなく、デジタルな電波に乗った自称・美魔女が美肌効果があると語っていた言葉を信じた結果の行動である。
「ねえ、いいでしょう? モエねえ、レイラちゃんと一緒にお風呂に入ってみたかったの」
小学生に独特のあどけない顔に、極上の寿司ネタも顔負けの笑顔を浮かべて近寄ってくるモエちゃんに、レイラは引きつった笑顔を浮かべながらジリジリと後ずさっていた。モエちゃんのサラサーティなヘアーが揺れている。いつもは後ろでひとつに束ねられているのだが、今日ばかりは某・大量生産型アイドルの影響か、ツインテールになっていた。
か、可愛い! モエちゃん、可愛い!! そ、そんなに可愛い顔でそんなにお願いしないで~!!
モエちゃんからの頼みごとにはめっぽう弱い自覚があるレイラである。結局、拒絶していた意志はものの30秒で陥落し、その更に30秒後には、真っ昼間から風呂に入るための用意をいそいそと行っていたのである。
「レイラちゃんってさあ、けっこうおっぱい大きいんだねえ~」
昔ながらの狭いステンレスの風呂は、小学生と社会人が二人そろって入っているだけで互いの手足が邪魔に感じてしまう。至近距離から見つめてくる視線に、レイラは慌てた様子で手ブラを作り、湯だってタコのようになってしまった顔の下半分を湯船に沈めていた。
「な、なんふぇこと言っふぇるのよ、モエひゃん!!」
お湯の中からしゃべるので、レイラの言葉は日本語として成立していない。だが、モエちゃんには聞き取れたらしい。
「だって大きいじゃん。ママも大きいけど、レイラちゃんの方が大きいよ。でもなんでかなあ。レイラちゃんって美人なのにあんまり色気を感じないんだよねえ」
「い、いろけ!?」
さ、最近の小学生はナンテ言葉を知っているのかしら!? もしかして年代のせい!? これがいわゆるジェネレーション・ギャップってヤツかしら!?
自分では若いつもりでも、世間の時間は残酷に過ぎていくのが世の常だ。たま~に勘違いしたオバサンが若作りしてテレビに出て、似たような思考回路のオバサンたちのシナプスを刺激しているが、間違ってもそうはなりたくないとレイラは思う。
あんな……顔のシワを消すことに躍起になって脳みそのシワまで一緒に消してるオバちゃんの仲間にはなりたくないわ!!
心の中でそう思うものの、目の前で一糸纏わぬ裸体を惜しみなく曝してくれているのはまだまだ老化現象の「ろ」どころか成長過程の途中に位置する小学生である。モエちゃんのぷるっぷるした肌と比べると、自分の肌がいかに衰えてきたのか、否応なく思い知らされてしまう。
こ、これが現実……。
勝手に落ち込んだところで、ふとモエちゃんが手を伸ばしてきた。モエちゃんの楓の葉のような小さな手は躊躇い無く湯の中を移動し、レイラの胸を遠慮なく鷲づかみにした。
「ひょ、ひょええぇぇえ!?」
意味不明な叫び声を上げたレイラが湯の中でひっくり返ったカエルのような無様なポーズを取ったが、モエちゃんは全く意に介することなくその手を動かした。
「柔らかぁい。気持ちいい~! いいなあ、モエも大きくなったらレイラちゃんみたいになるかなあ」
モエちゃん、モエちゃんのママも巨乳だから、きっとモエちゃんも将来は立派になるわ。
なんてことを思いながら必死にモエちゃんの手から逃れようともがくが、彼女は楽しそうに胸を揉むその手を止めようとはしなかった。そして湯船の底でレイラは足と尻を滑らせ、パニックのあまり身体を180度ほど反転させ、思い切り顔面を湯の中に突っ込んでしまっていた。
ステンレスでスッテーンなんてツイート、誰がレスしてくれるんだろう。
「レイラちゃん、おしり丸見え~! かぁわいい~!!」
涙目になって咳き込むレイラの鼓膜に、無邪気な笑い声がこだました……。
ここまで読んでくださって誠にありがとうございまっす。
本家本元「たかだのばば物語」はこちらです。
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北郷先生へ。
「これでも頑張ったんです」