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act.1 oxblood mages stand up to Dragon!


けたたましい警報の音に少年が飛び起きる。睡眠時間が足りていないのか、単に寝起きが悪いのか、おぼつかない足取りで歩きながら壁にある端末を操作し、彼のよく見知った人間を呼び出す。

「ルチル!どうしたんだこれ?!」

返答はない。相変わらず頭に響くサイレンに負けじと少年は声を張り上げた。

「おい!ルチ――」

「うるさい!十分聞こえているっ!」

少年にも劣らぬ大音声が響いた後、目前のドアが開く。黒髪の少女がそこに立っていた。

「サイ、すぐに支度しろ!87番障壁から『やつら』が何匹か侵入している!」

茶髪の少年、サイはルチルの言に目を見開く。

「ちょ、ちょっと待て、『竜』が来てるのか?!俺まだ戦い方とかロクに知らねェぞ!」

「『竜』は多数ゆえ人手が要る。新入りのお前もサポートで当然出動だ。急ぐぞ、時間がない!」

いうや否や、走り出したルチルに慌ててサイがついて行く。くすんだ赤色の制服を着た彼女は、揃いの服がまだ真新しい後輩を一瞥し、速度を変えずに口を開く。

「とりあえず障壁まで行く。それから説明をするから、しっかり動けよ」



今から半世紀と少し前、人間は活動の拠点を地下深くに移し、生活を始めた。そうなった、いや、ならざるをえなかった原因はひとえに『彼ら』の存在が大きい。その姿から、『彼ら』は竜と呼ばれた。突如現われた竜は人を襲い、町を破壊した。ルチルもサイも経験の差こそあれ、赤い制服は竜に対抗しうる唯一の手段『魔法』を使う事の出来る『魔法使い』である事を示す。



段々と天井に記された番号が87に近づくにつれて、爆発音が聞こえてくる。

先に着いた魔法使いが竜と接触して、既に戦闘を始めている証拠だ。

その音を聞いて、少し手前で二人の魔法使いは手近な建物の陰に隠れる。

「…サイ、魔法を使ったことは?」

「言霊の習得までしかやってねえ」

「急ぎだ。一度しか言わない。よく聞け。魔法は個人の精神に呼応して発動するのはお前も知っているな?個人差はあるにしても、そう何度も打てるものではない。まずは武器で体力を削り、隙を見計らって詠唱するのが対竜戦の鉄則だ。今回は私が魔法を使う、お前は竜を引き付けろ」

一息に説明を終え、沈黙して相手を見据える。昔から喧嘩ばかりして来た所為か、こういった時にサイの目は揺らがない。強い眼差しに、ルチルは微笑を浮かべた。

「行くぞサイ!」

「ああ!」


第87番障壁、そしてその周囲は煙のような揺らぎで囲まれていた。

「竜が広がらないよう、誰かが手を打ったようだな」

「結界タイプの魔法か。ちょっと退いてろ」

前に進み出たサイは小型の刃物を持っていた。脇差程の大きさしかないそれを煙に突き立て、そのまま一気に煙を真下に切り裂く。切り口と、鍔の部分にあしらわれた黒い星の淵が青白く輝いていた。

その輝きにルチルが感嘆の声を洩らす。

「…見ない武器だな。魔法で鍛えてあるのか?」

「どうだかな。形見だから詳しくは知らねーけど、魔法に効くのは確かだ」

言いながら、未だ燐光を放つそこを左右にこじ開ける。煙の壁はその部分だけゴムのように柔らかく伸び、上背のあるサイと横に並んでいたルチルを難なく呑み込んだ。

結界内には、空気そのものが熱気となって逆巻いていた。

「サイ、上だ!」

二人が背後に飛びすさると同時に、二人の間を炎が掠める。

「俺達を張っていやがったな…」

サイが見上げた先には、金の目に翼の生えた硬そうな皮膚を持つ――竜が瞳と同色の炎を吐き出していた。

「サイ!」

「…分かってる!」

竜が再び口を開くと同時に左に跳躍。視界の端に金の筋をとらえながら、先程の短刀を持ち直す。竜が首を巡らせて軌道修正して来た炎を前進することで避けて、首の付け根を蹴り上げる。

一人と一匹の悲鳴が上がった。

「いってぇ!一番柔らかい部位って講義で言うから蹴ったんだぞ畜生!」

悪態を吐きながら短刀で斬り付け、そのまま首を踏み台に跳躍して距離をとる。前方では、青白く光る傷口から竜が血を吹きだしていた。

「ルチルッ!いけるか?」

ルチルの唱える言霊がそれに応えた。

「交差せよ盟友!その腕と血で誓え!《腕引》(かいなひき)!」

帯状の白光が展開し、竜を包囲する。サイは、初めてその魔法を見た時のように、壁の内側から無数の腕が伸びているところを想像した。

「収束!」

ルチルが拳を握ると同時に光の輪が急速に直径を縮める。無数の槍と化した内壁の腕が交差して対象を貫く、ルチルの魔法である。光が消え、竜が二人の間に倒れる。しかし二人は竜の屍を背にしたままである。

「さすがに閉鎖した空間では、血を嗅ぎつけるのも早いか…」

「第2ラウンドか?上等だぜ」

見上げた先には、仲間の血に反応して上空を旋回する二頭の竜があった。

それを見てルチルは息を呑む。動揺を押さえ、背中合わせの少年に努めて平静に指示をした。

「……サイ。攻撃しようとするな。遠くまで逃げる事が優先だ」

「あ?何でだよ、お前の魔法までサポートするんじゃねぇのか?第一離れたら魔法だって――」

「以前渡された『あれ』を使え!こいつら相手では…」

言い掛けたルチルは弾かれたように走り出し、サイに体当たりした勢いで路地に二人飛び込む。

刹那、背後に閃光が走った。

「雷…?」

「伏せろ!」

ルチルが被さるようにして起き上がりかけた少年を押さえ込むと、轟音と共に閃光が膨張した。

「っ…何だ?雷が広がったように見えたぞ…」

未だ火花が散る音の聞こえる路地の闇から、二人の影がむくりと起き上がる。

「…奴らの《属性》の組み合わせがまずい。反属性同士が相乗効果を生むパターンだ」

「雷と――水か?」

独言のような呟きに少女は首肯する。

「ああ、感電した水を一滴でも喰らえばまず動けんだろうな。あの二匹を離すより他はない」

「オーケイ、さっさと一匹頼むぜルチル。魔法が使えねー以上長くは無理だ」

「安心しろ。非力な研修生はすぐに私が助けてやる」

「てめぇ…真顔でときどきムカつく事言うな…」

素直に額に青筋を立てたサイを嘲笑するように、ルチルは口を曲げ、目を細めた。

「これで怒りをぶつけに帰って来なければならなくなったろう?」

じゃあな、と言い残してルチルは体をたわめるようにして駆け出す。その背中に何か声を掛けるべきかコンマ数秒迷い、何も言わずに少年も反対方向に駆け出した。

誰もいない路地が、そして残された。

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