0点令嬢と嘲笑われた私、結果を固定できる最強スキルでした
何歳かは覚えていない。
ただ前世で、社会人だったのは覚えている。
ブラックな環境で毎日心身をすり減らし、それでも善人でいようと心がけた。
優しくしようと努めた。
でも利用されることも多く、下に見られたり、馬鹿にされることも多かった。
もう死なせてよ……。
冗談でそんな風に願ったところ、車が突っ込んできて私は死んだ。
あのね神様?
そういうとこだけ、願い聞いてくれるのやめてもらえます?
ただ神様も鬼じゃなく、異世界のオール伯爵家の令嬢に転生させてくれた。
最強の戦闘一家と呼ばれる家柄で、私は優しい家族に育てられた。
幸せだった。
「——お待ちかねの時間です! 今月の神託、残るはアリナ様のみ! こちらの令嬢は、なんとあのオール家の次女です!」
司会が話すと、広場に集まった聴衆たちが大盛り上がりだ。
王族、貴族、平民と。
身分関係なく集まっている。
高台には、今年十六歳になる才能ある者たちが集められ、そこで神託の儀を行う。
いつしかエンタメと化し、毎月行われている。
「皆さまもご存じの通り、オール伯爵家は我が国最強クラスの戦力を誇る一家でございます。オール伯爵、夫人、長男、長女、次男と五人連続で、規格外指定で——100点満点を叩き出しました!」
そう、なんかランクとか色々あって、点数まで付けられちゃうのだ。
高ければ尊敬され、低いと小馬鹿にされる。
神託といっても、ここで能力を得るわけじゃない。
あくまで判定ができるようになる。
才能自体は幼少より存在することがほとんど。
火魔法とか、わかりやすければいいけど、そうじゃないことも多い。
私もそうで、全く才能がわからない。
「アリナ、緊張しているな」
強ばっている私の肩を、軽く揉んでくれるイケオジ。
シュダル・オール。
尊敬するお父様だ。
「能力など、なんだっていい。お前は、俺の大事な子だ。堂々としているんだ」
「はい、お父様。私、堂々とします」
「それでいい!」
実際のところ、恐怖心は消せなかった。
もしクズスキルだったら?
父親も態度が変わるんじゃないかって。
衆人環視の中、私は神託の白亜の石柱の前に立つ。
この上に紙が一枚のせられている。
国王が立ち上がり、お父様に声をかける。
「どうだろう、シュダル。彼女をどうか、王国騎士団に。いずれ団長に必ず昇級させるという契約で」
「陛下、それはアリナが決めることです。俺は娘の意思を尊重します」
「アリナよ、ぜひ考えてみてくれ」
「陛下、ありがとうございます」
私は胸に手を当て、頭を下げる。
神官が指示を出す。
「ではアリナ様、こちらに触れてください。能力が紙に映し出されます」
すごい技術だよね。
私はおそるおそる、石柱に触れる。
パァァァ——
石柱が幻想的に光り出す。
神官が紙を取り、目をクワッと見開く。
「こ、これは……!?」
「どうなのだ!」
王様がかなり食い気味だ。
「け、結果固定【ラスト・アンカー】……です」
「……ふむ?」
首を傾げる王様と、誰もが同じ心境だったと思う。
なんなら私も、なんじゃそりゃって感じだ。
神官が急いで、分厚いスキルブックを調べる。
そこには、大量のスキルが記載されてある。
「——ない。結果固定は、記載されておりません」
予想した未来と違い過ぎると、人は沈黙してしまうらしい。
昼の広場が、異常な静寂に包まれる。
「誰か、スキルに詳しい者はいないか!?」
「陛下、私に少し覚えがあります」
「おお、グリアール! すごい能力なのだろう? な? な?」
グリアール様は、魔術師団長のお偉いイケメンだ。
圧力がすごい王様に対し、クールな彼は淡々と話す。
「『伝説の王』アイデンが若い頃に使っていた能力に、ラストアンカーなるものがあります」
「ふぉおおお!? やはりやはりやはりッ! オール家にふさわしい能力がきたか!?」
私や父より、王様が狂喜乱舞している。
理由は判然。
兄も姉も、現在国には仕えていない。
いわゆる取り逃したので、どうあっても私を取り込みたいのだろう。
でも、グリアール様の表情が微妙に固い。
「しかしアイデンには多くのスキルがありました。その中には、あまり使えないものも多く……。特に本人も言っていたようですが、ラストアンカーは……」
「まどろっこしい! どんな能力なのだ!」
「サイコロの目を固定します」
「ハイ?」
王様の首の傾きがすんごいことになってる。
それ折れちゃうから戻してください!
とはいえ、誰もが同じ気持ちだ。
「サイコロを振って目が出ますよね。その結果を、固定するのです」
「……それだけ、か?」
「はい。伝承によると」
残念そうにうなずく彼に対し、王様は虚無感たっぷりの目でうつむく。
少しして、私を見て、お父様を見て、もう一度下を向く。
そしてボソリと一言漏らす。
「……すまぬが、先の件は、なかったことで頼む」
落ち込んだ様子で王様が席に戻ると、神官が告げる。
「では、こちらは最低評価になりますので…………0点です」
ちなみに、今日の最低点だ。
なんなら、今年に入って0点出した人はいない。
スキルブックに載っていれば、普通10点くらいはくれる。
「——ぶふっ!」
聴衆の誰かが噴き出す。
それを皮切りに、大爆笑の合唱が始まった。
「だはははっ!? ゴミスキルゥ!」
「嘘だ、あのオール伯爵家の娘さんがっ」
「0点令嬢のご誕生だぞッ」
「ギャハハハハハハハハ! ゲハハハハハハハハハッ!!」
平民だけじゃない。
貴族も王族も口元を隠してはいるが、めっちゃ楽しそうに笑うじゃん。
芸能人がミスすると、ネットとかで必要以上にぶっ叩かれる現象。
あれに似ているのだろう。
王国最強の一角を担うオール家。
大いに期待された娘が、まさかのゴミクズスキル。
それも、狙っても中々出せない0点ときた。
そりゃ最高のエンタメにもなりますわ。
誰が音頭を取ったか知らないが、大衆は屈辱的なコールまで始める。
「ザーコ! ザーコ! ザーーコ! ザーーーコ!」
地鳴りのような雑魚コールの中、私は表情を一切変えず、ジッとグリアール様を見つめる。
伝説の王の話が本当だとして————安直すぎないか?
☆
家に帰ると、お父様がテーブルいっぱいにご馳走を用意してくれた。
チキンボーンやスープなど、美味しそうな料理ばかり。
「アリナ、いっぱい食べよう。腹一杯にして、あんな奴らのことを記憶から追い出してしまおう」
「……そうですね」
「さっきも言ったが、お前は最高の娘だ。能力なんて関係ないんだよ。俺の命より、ずっと大切なんだ」
「お父様、私は落ち込んでいません。でもお気遣い、感謝します」
とても心配そうな目で、お父様は私を眺める。
──私は、本物の馬鹿だ。
こんな優しい父が、私を見捨てるかもしれないなんて疑っていたんだから。
でも落ち込んでないというのは本当だ。
「サイコロを貸して欲しいんです」
お父様はダッシュで出ていき、すぐにサイコロを持ってきてくれた。
私はサイコロを握り、一つ尋ねる。
「私の能力は、どうやって発動すると思いますか?」
「おそらく、念じることでいけるとは思うが」
結果を固定するスキル。
ならば、サイコロの目を3に固定。
そう強く念じて、サイコロを転がした。
出た目は……6。
あれ?
全然思った通りにいかない。
念じ方が足りなかったかと、もう一度同じようにする。
今度は1だった。
少し考え、次は1に固定する。
出た目は……1。
たまたまかもしれない。
もう一度行う。
1。
その次も1。
1、1、1、1、1、1。
「すっ、すごいぞ! 本当に1しか出ないな!」
お父様が大興奮だ。
次は意識のロックを外し、振ってみる。
4だ。
アンカーを打ち込んだら、解除しない限りは同じ数字を出せるらしい。
じゃあなんで、最初は3での固定が機能しなかった?
流れから考えると、おそらく3を出していなかったから。
では次の検証で、時間差でも数字は可能なのか。
最新の目は4。
ここで同じ目にラストアンカーを使えば、次の目は4。
では6の目に固定はできるか?
できるなら、過去に出した結果の中から、選択して結果を固定可能ということ。
出た目は……6。
少なくとも、この短時間であれば、出した結果の中から選択できる。
これが明日も有効なのか、その辺は検証が必要かな。
「お父様、別のサイコロを貸してください」
新しいサイコロを6に固定して転がす。
2だった。
次は2に固定すると、2。
これで条件の一つはわかったかな。
スキルは、同じジャンル(サイコロ)であっても、別の物だと機能しない。
固定するには、個別ごと、結果を出す必要がある。
次の実験は、二つ同時にサイコロを投げる。
最初のを6、後のを2に固定。
どちらも、個別で出した結果だ。
最初……1
後……2
後だけ固定されている。
念のため、もう一度。
最初……4
後……2
アンカーは同時には打ち込めないと。
そして最後に意識したものが固定されるっぽい。
「庭に移動します」
オール家は金持ちなので、庭も相当に広い。
訓練用の木人形もいくつも設置してある。
私は石を拾って、その内の一つに狙いを定める。
ここで、私の運命が決まると言ってもいい。
全力で投げる。
スカッ。
ありゃ……豪快に外してしまった。
ちなみに前世に比べると、信じられないくらい投擲速度は速い。
遺伝の力で、身体能力はかなり高いのだ。
落ち着いて、もう一度投げる。
今度は、木人形の右肩の部分に当たった。
同じ石を拾って元の場所に戻る。
さて……胸のドキドキが半端ない。
これでアンカーを打ち込んでも肩に当たらなかったら……サイコロ限定スキル確定だもん。
深呼吸して、私は投擲した——
「——当たったッ!?」
歓喜の声が漏れる。
木人形の右肩に、間違いなく当たった。
念のため、もう一度投げるがやはり当たる。
安堵のため息をつく。
サイコロ固定じゃなくて、本当によかった……!
まだ実験は終わりじゃない。
次に、同じ石を木人形とは真逆の方に全力で投げた。
摩訶不思議な力が働いているのか、石は少し飛んだところで真逆の方に弧を描くように動き、人形の右肩に直撃した。
静かに見守っていた父も、さすがに舌を巻く。
「結果を固定してしまうスキル……。天下を取れるぞ、我が娘よ!」
お父様のテンションの高さも理解できる。
この石が、あの木人形の右肩に、当たった。
この結果を固定すれば、どんな投げ方でもいけるのだ。
アンダースローでも当たる。
寝っ転がりなら放り投げても当たる。
何個か試して、わかったことがある。
結果への過程は、私の動作に依存している。
軽く投げれば、軽く当たる。
本気で投げれば、剛速で当たる。
「ラストアンカーの対象を変えてみます。私のフォームを確認してください」
「よしきた」
まず一投目を投げる。
この動作にラストアンカーを打ってみる。
石は敢えて大きさの違うものを使う。
もう一度、投擲する。
「私の動きは同じですか?」
「まったく同じだ。俺の目はわずかな違いも見逃さん」
お父様の太鼓判ありなら、間違いない。
ちなみに石の着地点は違う。
形状や重さの違いがあるからだ。
このスキルはアンカーの対象を切り替えれば、色んな使い方ができそう。
「お父様、じゃんけんしません?」
「じゃんけん……とは?」
「説明します」
やり方を教える。
その上で、お父様と一回目のじゃんけんを行う。
勝ったのは私だった。
「勝った事実にラストアンカーを打ってみます。もう一度、じゃんけん……ぽん」
おっ、今度は私が負けた。
つまり勝ったとか負けたみたいな概念にラストアンカーを打つことはできないと。
「次の実験を行ってもよいですか?」
「どんとこい、愛する娘よ!」
ノリがよくて最高すぎる。
二人で木剣を構える。
「お父様、私の振りで、わざとその木剣を吹き飛ばされてください」
「わかった」
正中に構えるお父様の木剣に対して、私は薙ぐように振った。
わざと力を抜いているので、難なく木剣を飛ばせた。
お父様が木剣を拾って、同じように構え直す。
「この木剣が、その木剣を吹き飛ばした結果に、アンカーを打ちます。お父様、次は全力でお願いします」
「いくら可愛い娘でも、無理だと思うぞ」
「ですよね。本来なら、天地がひっくり返っても不可能です」
全力で握るお父様から木剣を飛ばせるなら、その者は冒険者ギルドにいきなりSランク登録されてもおかしくない。
真剣なお父様の顔。
オーラが圧倒的だ。
こちらは敢えて、真逆のふにゃっとした感じでいく。
「片手で、しかも左手で……ていっ」
全力ではない、テキトーな感じの一振り。
到底、奇人の如きお父様に通じるわけが────あった。
コロン……
お父様の手から逃げた木剣が、地面に落っこちた。
手が痺れているのか、お父様は驚愕した顔で自分の手を見つめる。
「全力、でしたよね?」
「全力で握ったのに、俺が負けた……。なんかすごい衝撃だったぞ」
これで確定した。
感情を堪えきれなくなった私は、お父様に礼を述べると全力ダッシュで部屋に戻る。
ダンダンダンと足を踏みならしてから窓を開ける。
「ザコはお前らの頭の中だああああ————!」
アイデンは大嘘つきだった。
真実を知っているのは私とお父様だけ。
あの広場にいた者たちは、なんにも知らない——
面白いと思っていただけましたら、評価していただけると大変励みになります。




