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0点令嬢と嘲笑われた私、結果を固定できる最強スキルでした

作者: セトガワ
掲載日:2026/02/03

 何歳かは覚えていない。

 ただ前世で、社会人だったのは覚えている。

 ブラックな環境で毎日心身をすり減らし、それでも善人でいようと心がけた。

 優しくしようと努めた。

 でも利用されることも多く、下に見られたり、馬鹿にされることも多かった。

 もう死なせてよ……。

 冗談でそんな風に願ったところ、車が突っ込んできて私は死んだ。

 

 あのね神様?

 そういうとこだけ、願い聞いてくれるのやめてもらえます?

 ただ神様も鬼じゃなく、異世界のオール伯爵家の令嬢に転生させてくれた。

 最強の戦闘一家と呼ばれる家柄で、私は優しい家族に育てられた。

 幸せだった。


「——お待ちかねの時間です! 今月の神託、残るはアリナ様のみ! こちらの令嬢は、なんとあのオール家の次女です!」

 

 司会が話すと、広場に集まった聴衆たちが大盛り上がりだ。

 王族、貴族、平民と。

 身分関係なく集まっている。

 高台には、今年十六歳になる才能ある者たちが集められ、そこで神託の儀を行う。

 いつしかエンタメと化し、毎月行われている。

 

「皆さまもご存じの通り、オール伯爵家は我が国最強クラスの戦力を誇る一家でございます。オール伯爵、夫人、長男、長女、次男と五人連続で、規格外指定で——100点満点を叩き出しました!」

 

 そう、なんかランクとか色々あって、点数まで付けられちゃうのだ。

 高ければ尊敬され、低いと小馬鹿にされる。

 神託といっても、ここで能力を得るわけじゃない。

 あくまで判定ができるようになる。

 才能自体は幼少より存在することがほとんど。

 火魔法とか、わかりやすければいいけど、そうじゃないことも多い。

 私もそうで、全く才能がわからない。

 

「アリナ、緊張しているな」

  

 強ばっている私の肩を、軽く揉んでくれるイケオジ。

 シュダル・オール。

 尊敬するお父様だ。


「能力など、なんだっていい。お前は、俺の大事な子だ。堂々としているんだ」

「はい、お父様。私、堂々とします」

「それでいい!」

 

 実際のところ、恐怖心は消せなかった。

 もしクズスキルだったら?

 父親も態度が変わるんじゃないかって。

 衆人環視の中、私は神託の白亜の石柱の前に立つ。

 この上に紙が一枚のせられている。

 国王が立ち上がり、お父様に声をかける。


「どうだろう、シュダル。彼女をどうか、王国騎士団に。いずれ団長に必ず昇級させるという契約で」

「陛下、それはアリナが決めることです。俺は娘の意思を尊重します」

「アリナよ、ぜひ考えてみてくれ」

「陛下、ありがとうございます」

 

 私は胸に手を当て、頭を下げる。

 神官が指示を出す。


「ではアリナ様、こちらに触れてください。能力が紙に映し出されます」

 

 すごい技術だよね。

 私はおそるおそる、石柱に触れる。

 パァァァ——

 石柱が幻想的に光り出す。

 神官が紙を取り、目をクワッと見開く。


「こ、これは……!?」

「どうなのだ!」

 

 王様がかなり食い気味だ。


「け、結果固定【ラスト・アンカー】……です」

「……ふむ?」

 

 首を傾げる王様と、誰もが同じ心境だったと思う。

 なんなら私も、なんじゃそりゃって感じだ。

 神官が急いで、分厚いスキルブックを調べる。

 そこには、大量のスキルが記載されてある。

 

「——ない。結果固定は、記載されておりません」

 

 予想した未来と違い過ぎると、人は沈黙してしまうらしい。

 昼の広場が、異常な静寂に包まれる。


「誰か、スキルに詳しい者はいないか!?」

「陛下、私に少し覚えがあります」

「おお、グリアール! すごい能力なのだろう? な? な?」

  

 グリアール様は、魔術師団長のお偉いイケメンだ。

 圧力がすごい王様に対し、クールな彼は淡々と話す。


「『伝説の王』アイデンが若い頃に使っていた能力に、ラストアンカーなるものがあります」

「ふぉおおお!? やはりやはりやはりッ! オール家にふさわしい能力がきたか!?」

 

 私や父より、王様が狂喜乱舞している。

 理由は判然。

 兄も姉も、現在国には仕えていない。

 いわゆる取り逃したので、どうあっても私を取り込みたいのだろう。

 でも、グリアール様の表情が微妙に固い。


「しかしアイデンには多くのスキルがありました。その中には、あまり使えないものも多く……。特に本人も言っていたようですが、ラストアンカーは……」

「まどろっこしい! どんな能力なのだ!」

「サイコロの目を固定します」

「ハイ?」


 王様の首の傾きがすんごいことになってる。

 それ折れちゃうから戻してください!

 とはいえ、誰もが同じ気持ちだ。


「サイコロを振って目が出ますよね。その結果を、固定するのです」

「……それだけ、か?」

「はい。伝承によると」

 

 残念そうにうなずく彼に対し、王様は虚無感たっぷりの目でうつむく。

 少しして、私を見て、お父様を見て、もう一度下を向く。

 そしてボソリと一言漏らす。


「……すまぬが、先の件は、なかったことで頼む」

  

 落ち込んだ様子で王様が席に戻ると、神官が告げる。


「では、こちらは最低評価になりますので…………0点です」

 

 ちなみに、今日の最低点だ。

 なんなら、今年に入って0点出した人はいない。

 スキルブックに載っていれば、普通10点くらいはくれる。

 

「——ぶふっ!」

 

 聴衆の誰かが噴き出す。

 それを皮切りに、大爆笑の合唱が始まった。


「だはははっ!? ゴミスキルゥ!」

「嘘だ、あのオール伯爵家の娘さんがっ」

「0点令嬢のご誕生だぞッ」

「ギャハハハハハハハハ! ゲハハハハハハハハハッ!!」

 

 平民だけじゃない。

 貴族も王族も口元を隠してはいるが、めっちゃ楽しそうに笑うじゃん。

 芸能人がミスすると、ネットとかで必要以上にぶっ叩かれる現象。

 あれに似ているのだろう。

 王国最強の一角を担うオール家。

 大いに期待された娘が、まさかのゴミクズスキル。

 それも、狙っても中々出せない0点ときた。

 そりゃ最高のエンタメにもなりますわ。

 誰が音頭を取ったか知らないが、大衆は屈辱的なコールまで始める。


「ザーコ! ザーコ! ザーーコ! ザーーーコ!」


 地鳴りのような雑魚コールの中、私は表情を一切変えず、ジッとグリアール様を見つめる。

 伝説の王の話が本当だとして————安直すぎないか?

 

 ☆


 家に帰ると、お父様がテーブルいっぱいにご馳走を用意してくれた。

 チキンボーンやスープなど、美味しそうな料理ばかり。

 

「アリナ、いっぱい食べよう。腹一杯にして、あんな奴らのことを記憶から追い出してしまおう」

「……そうですね」

「さっきも言ったが、お前は最高の娘だ。能力なんて関係ないんだよ。俺の命より、ずっと大切なんだ」

「お父様、私は落ち込んでいません。でもお気遣い、感謝します」

 

 とても心配そうな目で、お父様は私を眺める。

 ──私は、本物の馬鹿だ。

 こんな優しい父が、私を見捨てるかもしれないなんて疑っていたんだから。

 でも落ち込んでないというのは本当だ。


「サイコロを貸して欲しいんです」

 

 お父様はダッシュで出ていき、すぐにサイコロを持ってきてくれた。

 私はサイコロを握り、一つ尋ねる。


「私の能力は、どうやって発動すると思いますか?」

「おそらく、念じることでいけるとは思うが」

 

 結果を固定するスキル。

 ならば、サイコロの目を3に固定。

 そう強く念じて、サイコロを転がした。

 出た目は……6。

 あれ?

 全然思った通りにいかない。

 念じ方が足りなかったかと、もう一度同じようにする。

 今度は1だった。

 少し考え、次は1に固定する。

 出た目は……1。

 たまたまかもしれない。

 もう一度行う。

 1。

 その次も1。

 1、1、1、1、1、1。


「すっ、すごいぞ! 本当に1しか出ないな!」

 

 お父様が大興奮だ。

 次は意識のロックを外し、振ってみる。

 4だ。

 アンカーを打ち込んだら、解除しない限りは同じ数字を出せるらしい。

 じゃあなんで、最初は3での固定が機能しなかった?

 流れから考えると、おそらく3を出していなかったから。

 では次の検証で、時間差でも数字は可能なのか。


 最新の目は4。

 ここで同じ目にラストアンカーを使えば、次の目は4。

 では6の目に固定はできるか?

 できるなら、過去に出した結果の中から、選択して結果を固定可能ということ。

 出た目は……6。

 少なくとも、この短時間であれば、出した結果の中から選択できる。

 これが明日も有効なのか、その辺は検証が必要かな。

 

「お父様、別のサイコロを貸してください」

 

 新しいサイコロを6に固定して転がす。

 2だった。

 次は2に固定すると、2。

 これで条件の一つはわかったかな。

 スキルは、同じジャンル(サイコロ)であっても、別の物だと機能しない。

 固定するには、個別ごと、結果を出す必要がある。

 次の実験は、二つ同時にサイコロを投げる。

 最初のを6、後のを2に固定。

 どちらも、個別で出した結果だ。


 最初……1

 後……2


 後だけ固定されている。

 念のため、もう一度。


 最初……4

 後……2


 アンカーは同時には打ち込めないと。

 そして最後に意識したものが固定されるっぽい。

 

「庭に移動します」

 

 オール家は金持ちなので、庭も相当に広い。

 訓練用の木人形もいくつも設置してある。

 私は石を拾って、その内の一つに狙いを定める。

 ここで、私の運命が決まると言ってもいい。

 全力で投げる。

 スカッ。

 ありゃ……豪快に外してしまった。

 ちなみに前世に比べると、信じられないくらい投擲速度は速い。

 遺伝の力で、身体能力はかなり高いのだ。


 落ち着いて、もう一度投げる。

 今度は、木人形の右肩の部分に当たった。

 同じ石を拾って元の場所に戻る。

 さて……胸のドキドキが半端ない。

 これでアンカーを打ち込んでも肩に当たらなかったら……サイコロ限定スキル確定だもん。

 深呼吸して、私は投擲した——


「——当たったッ!?」

 

 歓喜の声が漏れる。

 木人形の右肩に、間違いなく当たった。

 念のため、もう一度投げるがやはり当たる。

 安堵のため息をつく。

 サイコロ固定じゃなくて、本当によかった……!


 まだ実験は終わりじゃない。

 次に、同じ石を木人形とは真逆の方に全力で投げた。

 摩訶不思議な力が働いているのか、石は少し飛んだところで真逆の方に弧を描くように動き、人形の右肩に直撃した。

 静かに見守っていた父も、さすがに舌を巻く。


「結果を固定してしまうスキル……。天下を取れるぞ、我が娘よ!」

  

 お父様のテンションの高さも理解できる。

 この石が、あの木人形の右肩に、当たった。

 この結果を固定すれば、どんな投げ方でもいけるのだ。

 アンダースローでも当たる。

 寝っ転がりなら放り投げても当たる。

 何個か試して、わかったことがある。

 結果への過程は、私の動作に依存している。

 軽く投げれば、軽く当たる。

 本気で投げれば、剛速で当たる。

 

「ラストアンカーの対象を変えてみます。私のフォームを確認してください」

「よしきた」


 まず一投目を投げる。

 この動作にラストアンカーを打ってみる。

 石は敢えて大きさの違うものを使う。

 もう一度、投擲する。


「私の動きは同じですか?」

「まったく同じだ。俺の目はわずかな違いも見逃さん」

 

 お父様の太鼓判ありなら、間違いない。

 ちなみに石の着地点は違う。

 形状や重さの違いがあるからだ。

 このスキルはアンカーの対象を切り替えれば、色んな使い方ができそう。


「お父様、じゃんけんしません?」

「じゃんけん……とは?」

「説明します」

 

 やり方を教える。

 その上で、お父様と一回目のじゃんけんを行う。

 勝ったのは私だった。


「勝った事実にラストアンカーを打ってみます。もう一度、じゃんけん……ぽん」

 

 おっ、今度は私が負けた。

 つまり勝ったとか負けたみたいな概念にラストアンカーを打つことはできないと。

 

「次の実験を行ってもよいですか?」

「どんとこい、愛する娘よ!」

 

 ノリがよくて最高すぎる。

 二人で木剣を構える。

 

「お父様、私の振りで、わざとその木剣を吹き飛ばされてください」

「わかった」


 正中に構えるお父様の木剣に対して、私は薙ぐように振った。

 わざと力を抜いているので、難なく木剣を飛ばせた。

 お父様が木剣を拾って、同じように構え直す。


「この木剣が、その木剣を吹き飛ばした結果に、アンカーを打ちます。お父様、次は全力でお願いします」

「いくら可愛い娘でも、無理だと思うぞ」

「ですよね。本来なら、天地がひっくり返っても不可能です」

 

 全力で握るお父様から木剣を飛ばせるなら、その者は冒険者ギルドにいきなりSランク登録されてもおかしくない。

 真剣なお父様の顔。

 オーラが圧倒的だ。

 こちらは敢えて、真逆のふにゃっとした感じでいく。


「片手で、しかも左手で……ていっ」

 

 全力ではない、テキトーな感じの一振り。

 到底、奇人の如きお父様に通じるわけが────あった。

 コロン……

 お父様の手から逃げた木剣が、地面に落っこちた。

 手が痺れているのか、お父様は驚愕した顔で自分の手を見つめる。


「全力、でしたよね?」

「全力で握ったのに、俺が負けた……。なんかすごい衝撃だったぞ」


 これで確定した。

 感情を堪えきれなくなった私は、お父様に礼を述べると全力ダッシュで部屋に戻る。

 ダンダンダンと足を踏みならしてから窓を開ける。


「ザコはお前らの頭の中だああああ————!」

 

 アイデンは大嘘つきだった。

 真実を知っているのは私とお父様だけ。

 あの広場にいた者たちは、なんにも知らない——



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