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〈第八話〉 偽善者の救済




「ごめんなさい。」







気がつくと、わたしの目の前にはただ赤しかなかった。手にはさっきよりもひどく、二人の血がついている。赤く染まった張本人の96番さんは頭が消え、バランスが崩れたのかテーブルに体をひどく打ち付けて倒れてしまった。彼女のどうにか絞り出した声は頭の飛び散る音と重なってかき消されてしまった。


「。。。。」


数秒間、重苦しい沈黙が続いた。

レイさん、かいさん、あいさんはただ彼女の死体を見つめている。顔は青ざめていて、一番動揺しているように見えたかいさんは手で口をふさいでいた。

そんな彼女らとは反対にならさんの手にはもう白い布切れをもっており、おそらく片づける気満々なんだろう。ならさんのその異質さに、わたしは恐怖を覚えた。

だれも動かなかった。誰一人として動かなかった。みんな分かってたと思うんです。


この中に、まだ犯人がいる


わたしは知ってる。きっと、みんな分かっていたと。もし、レイさんの推理があっていたとしても、やはり無理がある。一人では成し遂げられない。つまりは共犯者、もしくは真犯人がこの中にいる。

そんなお互いがお互いを疑いあっている中、最初に声を出したのは意外にも93番さんだった。


「んで、みんな悲しそうなの?喜ぼうよ。彼女もようやく救済されたんだよ。」


93番さんはリズミカルに手をたたきながら、いった。リズミカルっていってもところどころリズムが外れていて、神経を逆なでされるような感覚に襲われる。そして、彼女が目を細めて窓の外へと視線をやった。そこには、もう枯れてたはずの木が紅い蕾をつけていた。


「てめえは何言ってんだ?エミっ。。あいつが、いや、人が目の前で死んだんだぞ?何が救済だ。狂ってんのかあ?」

「私が狂ってる?んな、まさか。」


あははっと軽く笑い流し、93番さんは死体へとようやく視線を移した。


「彼女は哀れだった。だって、救済の手伝いをしたのにもかかわらず最後に救済されたんだから。」


救済。。?手伝い。。。??一体、さっきからどういうこと。。?

どんなに頭を回転させても、わたしには93番さんの言いたいことが全く分からなかった。


「もしかして、てめえが殺したのか?」

「ーん。んだね。逆によく分からなかったね。」

そういいながら、93番さんは自分の白髪を手でそーっと撫でた。

髪からの反射がわたしの瞳には不自然に映った。


「死は救済。だれかが言った言葉だけど、私はそれにとっても同感です。」

「な、なあ。96番、お前なんか様子が変だぞ。。!?」


吐き気を抑えながら、かいさんが93番さんを心配そうに見つめた。

かいさんはくりさんと同じく、今まで頼れる先輩としてわたしを助けてくれた優しい人。きっと、93番さんも彼女にとってかわいい後輩なんだと思う。


「私は変じゃない。これが普通です。」

「でも、お前はもっと優しくて、そんなことを気にかける前にあくびをするような。。ほら、あの時だって!!」


ダンっ


かいさんが言葉を紡いだ直後に、彼女の横を鋭いくりさんが愛用していた果物ナイフが素早く通って後ろの壁に勢いよくぶつかった。

恐る恐る93番さんの方へと顔を向けると、彼女の瞳には光がなく、どこか狂気を感じた。


「じゃあ聞くけど、私たちはなんであいつらの道具じゃなきゃいけないの?

なんでさ、魔法という素晴らしいものをあげなきゃいけないの?

 んでさ、悪役として扱われなければいけないの?

 んでさ、囚人みたいに囚われなければいけないの?」


かいさん、いやわたしたち全員を責めるように93番さんが言い続ける。

今までの93番さんからは想像もできないような、的確なことをずっと言い続けた。

きっと、わたしも気づいていた。この制度、魔女制度の可笑しさを。それでも、すがるしかなかった。そう、非力だからなにもできないって。


「んでっ。。けほっけほ。」


なれない長文を喋りすぎたせいなのか、93番さんは言葉を詰まらせて乾いた咳払いをした。


「私は許せないの。あいつらに従うのが。とっても憎いです。」


きっと、93番さんが言うやつらは王様や普通の人のことだと思う。

横のレイさんはあいも変わらず死体を見つめ続けていて、顔を見てもどんな感情なのかが全く分からなかった。そんな彼女を見てつまらなかったのか、93番さんが言った。


「本当は、あなたも救済したかったのです。同じようにあの忌々しい王にとらわれてしまった私たちと同じような子だもん。」

「っ。。。違う!!!」


ポスっ


バッと立ち上がり、レイさんは手に持っていた紙を投げつけた。

二人の話に加われないわたしは、ただぼんやりとここでの光景を見つめることしかできなかった。


「レイは同じじゃない!!!」

「何が違うの?あなただって思ったでしょう?なんで、魔女じゃない自分も囚われなきゃいけないのって。」

「っ。。。あっ。。だって!。。。っ。いやっ。。。その。。。!」


93番さんはにやりと不気味な笑顔を浮かべて、レイさんを見つめた。レイさんも言葉がつっかえつっかえになってしまい、なかなか言葉がでなかった。


「とりあえず、違う!レイは自分の意思でここにいるの!!レイの気持ちを決めつけないで!!」


涙目になりながらもレイさんが必死に言葉を吐きだした。わたしもどうにか加わろうとしても、やっぱり二人の覇気に圧倒されてただ傍観しかできない。どうしよう。。。


「気づいてないだけで、あなたは。。。」

「黙って!!!」


ついに怒りが限界を超えたのかレイさんが今までにないほどの大声で、キレた。

ひ、ひぇえ。。。怖いよお。。。

わたしはびくびくしながらも、どうにか目線をそらさずにレイさんと93番さんを見つめ続けた。


「レイは、人を殺さない!!!相手の気持ちも考えずに勝手に救済とかしない!!」

「あ、あの、えっと、私もそう思います。救済を謳いながら相手の願いも聞かずに殺するなんて、それはただの偽善だと思います。。!」


どうにかわたしもレイさんの「味方」として話に入り込んだ。震える手を押さえつけて、さっとレイさんを見つめる。


やっぱり、わからない。。


横から、あいさんもわたしたちに加わるように鋭い視線を93番さんに向けた。

さすがにここまで自分を否定されるとは思ってなかったのか、93番さんはどこかびっくりしたように目をまるく見開いていた。それでも、数秒後には元通りの余裕な表情に戻っていた。


「まあ、私の救済劇はもう終わったのであとはどうでもいいです。」


そういって、彼女は両手を挙げた。降伏のポーズだ。ならさんから習ったやつだ。

意外にもあっさり諦めた93番さんを驚いてみつめるのはわたしだけではなく、レイさんもかいさんも同じだった。一言も言わなかったならさんでさえ、どこか驚いたように眉があがっている。


「まだ、何か隠してんじゃねえのか!?うちはてめえを信じてないからな!!!!」


ただ一人、まだ疑っていたのはあいさんだった。あいさんは、まだ猫みたいに歯を立てて瞳をぎらつかせている。なんか、戦闘モードみたい。


「もちろん。見ての通り降伏です。」


93番さんは手をひらひらと分かりやすく振った。

あいさんも流石に信じ始めたのか、ぎらついていた瞳が落ち着いていくのが分かる。


ようやく、ようやく終わったんだああ。。。


わたしは安堵の息をついて、緊張でこわばった肩の力が一気に抜けた。

みんなが安心したその瞬間、93番さんが「。。でも」と不安をあおるように、いたずらっ子の39番さんを思い出すような悪い笑顔を浮かべながらいった。。


「。。贈りの魔女はどうしたのでしょうね?もう結構な時間がたつけど。。」

「てめえ、まさか。。!?!?」


そう言って、あいさんは彼女の近くに走り寄り、胸倉をバッとつかんだ。

それでも、93番さんにはいっさいの焦りがなかった。なんなら、どこか幸せそうに見えた。








「さあ、最後の救済です。」




読んでくれてありがとうございます!楽しんでもらえたら嬉しいです!!


第二章も残るはあと二話の予定です!

どうか、次も楽しみに待っててもらえたら光栄です!!

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