表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/2

翌朝

 朝日が差し込み、蝉の声がじりじりと響く、六時を過ぎると太陽が待っていたかのように日差しを強くする。

「朝やから、涼しい思ってたけど、夏やからやっぱり暑いんやなあ」

 私の隣では新太郎が汗をかきながら、涼しさを求めて、歩いていた。

「新太郎さん、どこかで座って休んでいく?」

「そうさせてもらいます」

 東寺の夏は常に影を求めていた。

 五重塔を近くでまじまじと見上げるのはやはり久し振りだった。

 家を出た際に見上げることはあれども、やはり、ありがたみを求めて、見に来るのは違っていた。

 日のせいで五重塔の細かい箇所は影によって隠れていた。

 祇園の夜の後、雨が降っていたのか、境内の砂は湿っていた。

 そのせいか、じっとしていると涼しさが込み上げて来るようで、蝉の鳴き声の中にいて、暑さと涼しさが見事に共存していた。

 それは喧騒に包まれた静けさを東寺が作り出しているのにとてもよく似ていた。

「二年前にここを訪れたの覚えてはる?」

 新太郎に言われ、私は

「覚えてはるよ。忘れることはないやろうな。この場所で私達は....」

 私はその先の言葉を言うことを躊躇った。近くに二人の老人が歩いていたのだ。

 いつしか、太陽が雲に隠れ、境内は日陰に埋もれ、私達はその隙を狙い木陰から逃げ出した。

「詩乃さん、ここを後にしたら、二人っきりにならへんか?」

「ええけど、何をするん?」

 私の言葉に新太郎は何も答えなかった。むず痒い表情を浮かべ、時折、私を睨むように見ていた。

 やがて食堂の五重塔が見える場所に座り、風が吹き止んだことに気がついた。

 小さい頃に五重塔で家族で写真を撮った。新太郎曰く、そこに、新太郎がいたらしいのだが、私の記憶にはわかりかねた。それは私の記憶の断片が抜けているのか、それとも新太郎の記憶が正しいのか、それは今でもわかりそうでもないが、その思い違いのお陰で私達は幼馴染の先の存在になり得ることができた。ひょんなことがきっかけで永遠の存在になれたのである。こんなに嬉しいことがあるであろうか。

「詩乃さん、昨日の祇園祭のこと覚えてる?」

「かんにんえ、あれは本当に酔っ払ってたのやと思うわ」

「狐につままれたような心持ちやったで」

 新太郎の言葉に私ははっとした。今年は私がつままれたのか。確かに体を取られたような、ふんわりとした宙に浮かんだようなぼやけた心持ちであった。

「暑なって来たし、帰ろうか?」

「そうやね」

 砂を踏む足音は蝉にかき消え、京の夏は今年も始まりを告げた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ