表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

95/144

第三王子 アビゲイル

 <アビゲイル・サーチベール>


「最近調子が悪そうだな」


 婚約者のエメライン・ブルグリアの様子がおかしいことには気が付いていた。

 だが、それを令嬢に尋ねることを避けてしまった。

 病気であれば婚約解消に発展する可能性があるからだ。

 病気を理由に婚約解消を突きつけられるのが怖くて目を背けてしまった。

 知らなければ婚約者でいられる。


 エメラインは国母にも相応しいと評価されるほど貴族からの信頼が厚い。

 本人は侯爵家を継ぐと宣言しているので今はおかしな動きを見せていないが、私達を利用し謀反を企む貴族は存在する。

 それは私だけでなくスタンリー兄さんもワイアットにも存在している。

 残念ながら私達兄弟仲は良く、兄弟全員が嫡男であるヴァージル兄さんを蹴落とそうなんて微塵も考えていない。

 万が一不幸があった場合、二番目のスタンリー兄さんが王位を継ぐ。

 私もワイアットも兄達を排除してでも王位が欲しいと思った事はない。


「エメライン嬢と婚約したい」


 婚約について、周囲からは政略的に見えても私の一目惚れで願い出た。

 ワイアットはまだ婚約者がいないが、ヴァージル兄さんもスタンリー兄さんも私も婚約者に対して一目惚れしていた。

 これは遺伝ともいえる。

 そして最近ワイアットも気になる令嬢を見つけたのを、私もスタンリー兄さんもすぐに察知している。

 恋愛に疎い本人がその感情に気が付いているのかは分からないが、令嬢は私達のどの婚約者より手ごわい様子。

 特に令嬢を鉄壁のように守護する兄の存在が最大の難関ともいえる。

 兄として援護はするつもりでいたが、状況がそれを許さなくなっていた。


 ワイアット経由でエメラインの友人の婚約者から話したいと申し入れがあった。

 その場にワイアットの想い人も同席し、どのような話になるのかなど想像できていなった。

 それが、まさかの事実に行きつくとは……


「アヘンが検出されました」


 今の国王である父が国王となった時に、アヘン禁止の法律を制定され公布の日より施行された。

 アヘンは医療や菓子などにも使用されるので、栽培などは徹底的に管理している。

 それなのに王宮が把握していないアヘンが発見された。


 高級品とされ貴族に人気の他国の茶葉に、アヘンが混入していた。

 隣国のエーバンキールが計画したとすれば我が国との戦争に発展する可能性がある為、慎重に調査を進める。

 混入していた茶葉を調査したところすべての茶葉ではなく、無作為にアヘンが混入されていたことで発見が遅れたと言える。

 そして運が悪いというべきか、無作為に混入していたアヘン茶葉の被害者に私の婚約者、エメラインも含まれていた。


 早急に調査しつつ安全な場所へとエメラインを促した。

 

「茶葉以外のアヘンは発見できていません」


 報告を受けるも暗礁に乗り上げる。

 エメライン自らが摂取したとは考えられない。

 令嬢はそんなことをする人間ではない。

 調査していくとお茶会にある令嬢が持参した紅茶だったと分かった。

 その令嬢は隣国の婚約者のいる王子に近付き婚約解消まで追い詰めたと聞く。

 私に近付くためにエメラインにアヘンを摂取させたのかと思うと殺意が湧いた。


 エメラインの話ではその女自身もアヘン入りの紅茶を口にしたと聞くが、あの女にアヘンの中毒症状は出ておらず健康だと報告が上がる。

 何かしら細工して飲まなかったか、あの女の紅茶にだけはアヘンが入っていなかったのかだろう。

 あの女がアヘン入りの紅茶を振る舞ったのは確かだった。

 エメライン以外にもお茶会に参加した令嬢皆に同じ症状が出ていたことを確認。

 令嬢達の様子を窺うも皆体調不良という事で本人を確認できなかったが、紅茶が出された時にそれとなく例の茶葉についても尋ねた。

 どの貴族もその茶葉は購入しておらず、令嬢達のお茶会で飲んだ紅茶のみだと分かる。

 それだけであの女が犯人だと決めつけていた……


「……何故、病気療養しているのは……学生だけなのでしょうか? 」


 それは、あの女が学園でばらまいているからで今さらの質問に撥ね退けようとしたが、その後の令嬢の疑問は確かに私達の思い描いていた犯人像では辻褄が合わないことに気が付かされた。


 確かに病気療養しているとされるのは学生だけ。


 あの女が犯人だと決めつけていたので学生に被害が出るのは当然と疑問にも思わなったが、冷静に考えるとあの女を犯人にするには難しい部分もある。

 あの女が学園に編入する前から学生の「留学」という名の「病気療養」は始まっていた。

 運悪くアヘン混入茶葉を購入し頂いてしまい症状が現れたとしても、学生だけでなく家族全員に影響が現れるもの。

 そのような情報は入ってきていない。

 であれば、アヘンは学生を狙ったものと考えられる。

 

「どの人とも対面されていない……行方は分からないのですよね……」


 令嬢の指摘に後ろめたさを感じた。

 婚約者が被害に遇い、同じ状況の貴族に「アヘンの被害者に会わせろ」と強く言えなったのは事実。

 私が兄達に今のエメラインに「会いたい」と言われたら、明らかに「病人」という姿を見せたくないあまりどうにか断れないものかと考えてしまうと同情し無理に対面を望まなかった。

 全員がアヘン中毒だと決定した訳ではない。

 「病気療養」の裏で別の事件も考えられる。

 私が早くエメラインを苦しめた人間を捕まえたいあまり、自身の視野を狭めていたことに気が付く。


「……学生……無差別、不特定多数……狙う……学生が沢山いるところ……」


 令嬢の独り言に鳥肌が立つ。私は犯人を完全に見誤っていったのかもしれない。

 犯人は大多数の貴族を狙っていた。そこにエメラインが狙われたことで、私は「私の婚約者の座を狙っての犯行だ」と決めつけていたが、病気療養しているのは男子生徒も含まれている。

 これは私の「婚約者の座」が狙われたのではなく我が国の「貴族」が狙われていたのではないかとも考えられる。

 婚約者が巻き込まれたので私が指揮を執るべきと考えていたが、もうすでに私の範疇を超え兄のヴァージルや国王にも報告すべき事件ではないかと判断した。


 報告したことで我が国で起きている状況に驚くか、既に情報が入っているのかは分からないが、私にも影響してくる。

 婚約者のエメラインが自身の意思とは関係ないにしてもアヘンを摂取していた事実が発覚すれば、「王族の婚約者に相応しくない」と判断されかねない。

 どんな事が有ろうと私は……


「エメラインと婚約解消する気はない」


 エメラインは他国で療養させることにした。

 今サーチベール国に留まることは危険と判断してだ。


「エメライン」


 離れるのは辛いが、一日でも早くエメラインには回復してほしい。

 信頼のおける人物でなければエメラインを預けることは出来ないが、アンドリューとアンジェリーナなら任せられると判断した。

 ここ数年我が国で貧困層改革の為に留学を延長しているアンドリューの噂は耳にしていた。貴族が貧困層の改革に着手するのは珍しいことなのに、その為にわざわざ留学を選ぶのは相当な変わり者と言える。

 そんな令息なら問題ないと判断できるし、その妹君が動いてくれた事で「アヘン」にまで辿り着けたといえる。


「アンジェリーナ嬢のおかげだな」


 令嬢は常に重要なことに気が付く、鋭い着眼点を持っている。

 そして失礼だが令嬢がシュタイン国の王子と婚約解消している為、王族との婚約に興味を持っていない事に好感が持てる。

 婚約者のいる私だが、良からぬ行動をする令嬢には迷惑していた。

 私の婚約を政略だと思い込んでの行動だろう。

 そんなことをしても私が靡くことは決してないというのに。

 

 アンジェリーナとの会話で私が調査すべきことが明確になった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ