なんだかスッキリしない
翌朝には昨日の雨が嘘のように晴れた。
地面は泥濘、馬車移動する私達の行く手を阻む。
それでも私達は進み、カストレータ家の領地に入り屋敷に到着。
久しぶりの……
安心できる我が家は、懐かしく感じる。
「漸く私は……帰って来たのね……」
私達の到着と聞きつけたお父様が現れる。
「お帰り、リーナ。アンドリューも無事で良かった」
「「はい」」
「お二人を迎える準備も出来ているから」
事前にアンドリューが手紙で知らせていたので、お父様はサーチベール国の貴族である二人の令嬢を迎え入れる準備は既に出来ていると話す。
最後に見た時の娘溺愛のお父様であれば『リーナ良く帰って来たな、寂しかったぞ』と言って、アンジェリーナを抱きしめてくれたに違いない。
今は、優しい瞳で無事に帰って来たことを受け止めてくれている。
「到着したようだな」
私達の馬車に続き、令嬢達の馬車も到着。
降りてくる姿は貴族の気品を感じられる。
体調が悪いはずなのに、そんな様子を一切見せない。
「ようこそ。ブルグリア侯爵令嬢、ルトマンス伯爵令嬢。お待ちしておりました。私が当主の、レイモンド・カストレータです。お二人の事は聞いております。何かご不便な事がございましたら遠慮なく使用人や私どもに仰ってください。こちらが私の家族です」
「初めまして。私がアンドリュー・カストレータです。フォーゲル伯爵のところで領地経営について学ばせていただいている者です。私がアビゲイル殿下、ワイアット殿下、ルースティンとの連絡係をさせていただきます。何か連絡事項があれば私が行います」
「初めまして。私がアンジェリーナ・カストレータです。使用人と共に私もお二人のお役に立てればと思っておりますので、よろしくお願いいたします」
お父様とお兄様の後に続き私も挨拶。
「初めまして。私、エメライン・ブルグリアと申します。この度は私達の病状を解明していただいたばかりか、療養場所まで提供していただき感謝しております。カストレータ公爵様、アンドリュー様、アンジェリーナ様にはご迷惑をお掛けいたしますが、よろしくお願いいたします」
「初めまして。私、アイリーン・ルトマンスと申します。本日からカストレータ公爵家の皆様のお世話になります。よろしくお願いいたします」
エメラインもアイリーンも貴族的な挨拶を交わすも、弱弱しく視線も俯いている。
「長旅でお疲れでしょう。部屋を用意してありますので夕食までお休みください。二人の案内を」
「「はい」」
二人の様子を見てお父様は、使用人に令嬢二人を客室に案内させる。
きっと、立っているだけでも体力を消耗しているに違いない。
令嬢達は隣国まで療養しに来ていて、私達は令嬢達の隔離・補佐を任されている。
二人の様子をそれとなく観察し手助けできるようにしなければならない。
「まずは身体からアヘンを抜く事よね……これはお医者様に聞いた方が良いわよね」
医者ではないので、カストレータ家に長年専属医師として信頼のおけるものに対応策を尋ねる。
「彼女達二人には毒の影響が残っているようなのどうしたらいい?」
アヘンの事は避け、毒と大雑把に尋ねる。
「どのような毒でしょうか?」
「それが、分からないの」
「分からないですか……であれば、水分を意識的に取り軽い運動をして身体から出すのがよろしいかと」
「分かったわ。ありがとう」
過剰摂取しているアヘンを体内から抜く都合のいい薬は無い。
医師の言葉通り、水分を積極的に取り入れる。
問題ないとは思いたいが、念の為紅茶は避けハーブティーやスープをこまめに摂取してもらう。
汗をかくのもいいのかもしれないが、体力が衰えている令嬢達に体を動かしましょうというのは時期尚早だろう。
「体を動かさずに汗をかく方法……サウナでもあれば良いのに……あったりするのかな?」
密閉された所に熱した石に水をかければサウナにできるのかな?
安易すぎる?
「湯浴みをする場所の一角にクローゼット程の空間を作り、そこでバケツに焼け石と水を用意すれば完成なのかな?」
サウナってそんな感じだったような……
「火事にならず、温度が上がれば問題ない? 試す必要あるよね? お父様に聞いてみようっ」
お父様の許可を得て、客人用の湯あみをする場所の一角にサウナ室の建設を願う。
日本人も昔は湯に浸かるより、蒸し風呂が主流だったと習ったような気がしなくもない。
サウナの原型は世界共通ではなくお風呂文化に特化した国限定だったようで、この世界には存在していない。
「分かった。執事に相談すると良い」
伝えるのに困惑するもお父様は私の願いは叶えてくれるので数日で完成予定。
「本当? ありがとうっ」
蒸し風呂の設計図を大まかに伝えていた時に、まさかのアビゲイルとルースティンが到着。
事前に話していた予定では、私達が出発した二日後に追いかけると言っていたが、到着が同日とは思わなかった。
「アビゲイル殿下……お早い到着ですね。何か緊急なことでも?」
「いや、私達は馬車ではなく馬で来た」
「馬ですか? それは大変お疲れなのでは、すぐにでもお休みください」
サーチベール国から騎士数名を連れて馬で……
馬車とは違い当然馬の方が早いが、乗車する本人の腕次第なので気を抜いて落馬などしてしまえば怪我だけでは済まされない危険を伴う。
行動力は素晴らしいが、王族として自身の身の安全も考慮してほしい。
護衛の騎士は大変だったに違いない。
彼の行動には思うことはあるが、それだけ婚約者が心配なのだろう。
こんなにも急いで駆け付けてくれる人がいる事は、今の令嬢達の心の支えとなりこれから起こりうる禁断症状にも耐えられるだろう。
「心配はいらない。それよりも時間を無駄にしたくない。私達だけにして頂けないか?」
「はいっ」
私としては馬での長距離移動だったので休んでほしいのだが一刀両断され、四人で情報を共有することになった。
アビゲイルが私達が出発した後にいち早く行ったことは、ドレスト伯爵家への密偵。
アヘン入りの紅茶にドレスト伯爵が関与しているのか、お茶会に参加していたマデリーンの現在の様子について。
「ドレスト伯爵は嫡男がエーバンキール国に留学中、月に一度様子を見に行っているそうだ。その際、茶葉を買い付けているようで、自身の店に同じ物を下ろしていた。そちらを確認したのだが、アヘンの混入は発見されなかった。そして養女のマデリーンは普段通り過ごしている。アヘンの影響は確認できていない」
それはドレスト伯爵がエーバンキール産の紅茶にアヘンを混入させていることになる。
その為養女のマデリーンには被害が出なかったというようにと、取れてしまう。
「だが、マデリーンも同一の茶葉で紅茶を頂いていたのではありませんか? 」
同席していたアンドリューの疑問は私も気になっていたことだ。
マデリーンは紅茶を残すような事はしておらず、紅茶も同じポットから注いでいる。
一人アヘン入り紅茶を避けることは難しい……というより不可能だろう。
それにアヘンの中和薬はない。
自然に体外に排出するほかない。
マデリーンの体は新陳代謝が異常にいい……
なんてことないよね?
「そこがわからないんだ。エメラインにも尋ねたが、『マデリーン様が紅茶を残したことは一度もありません。それとなく彼女が一口飲み観察し、毒の存在が無いことを確認してから頂いておりました』と話してくれた。私もエメラインの用心深さは知っているのでそれは確かだと思う」
毒の存在を確認してから口にする。
貴族の令嬢が口にする内容ではないように感じるが、アビゲイルがそのように話すのだから確かなのだろう。
令嬢達はマデリーンが淹れた紅茶を、マデリーンが率先して飲んだ事で『問題ない』と判断した。
悪役令嬢でもないマデリーンが紅茶にアヘンを混入させるとは思えない。
流行りのざまぁ物のように、悪役令嬢にヒロインの立場を脅かされている状況でもない限り、毒物を混入することは無いはず。
「我々は、エーバンキール産の茶葉全てにアヘンが混入していたのではなくランダムで入れられていた可能性も考え、エーバンキール産の茶葉を取り扱っている店を隈無く捜査したがアヘンは発見されなかった。今後も定期的に茶葉を調査し続ける。ドレスト伯爵だが、密偵を送るのは困難な状態となっている。伯爵邸も伯爵の領地にある別邸もかなり護りが鉄壁で密偵も時間が掛かっている。今は国境に視野を広げ密偵を置いている状態だが、これも時間が掛かるだろう」
大量に輸出している茶葉全てにアヘンを混入は難しく、僅かであっても脅威はあるだろう。
寧ろその方が相手をじわじわ追い詰め発見まで時間を稼ぎ、症状が出始め騒ぎになった頃には犯人は姿を消すことが出来る。
ドレスト伯爵が犯人というには、堂々過ぎる犯行とも思える。
それよりも、犯人役を押し付ける相手として貴族派のドレスト伯爵が選ばれたという方が納得してしまう。
「ドレスト伯爵は関係なく、あの女が直接混入させている可能性もあるのではありませんか?」
アンドリューはマデリーンを強く疑っている。
「確かに。屋敷内の確認は困難だが、伯爵だけでなく彼女の監視も強化する」
「それが良いかと」
全てがマデリーンの仕業とは言わないが、お茶会に参加した令嬢へはマデリーンという可能性も考えられる。
もしかしたら、この国でもシュタイン国と同じように王子の婚約者を蹴落とし自身が婚約者に成り代わろうと画策していることも考えられる。
マデリーン本人がいくら改心したとしても、過去の行いで判断してしまうのは許してほしい。
ドレスト伯爵とマデリーンについての報告は以上となり次の事柄に移る。
「次に留学と言葉を濁し、病気療養させていた貴族達にワイアットと三人で分担し再度確認した」
アヘンだけでなく、その事もあった。
アヘンが強すぎて、忘れたかったのかも……
「それでどうでした?」
「彼らにエーバンキール産の茶葉について尋ねたが、常備している者としていない者に分れた。こちらがはっきりと病気療養の原因は『アヘンが関係しているのではないか?』と尋ねると、どの貴族も反応があった」
王族が自ら何度も調査の為に訪れ『アヘン』と明確に示された事で、貴族達は観念し重い口を開き真実を語りだしたようだ。
世間体を気にして誤魔化すことは貴族としてよくある事。
たった一つの失態で家門が消えることもある。
それが国が禁止している薬物であれば尚更。
貴族であっても禁止薬物に手を出せば罰せられるのは常識だ。
彼らは犯罪行為に及んだ家族を隠し没落から逃れる為に彼らを『留学』と公表し、王族から更なる追及があった時には『病気療養』と答え逃げ切ろうと考えたに違いない。
彼らは本人の意思とは別に摂取させられていたアヘンの存在について知らなかったので、被害者という認識はなく隠してしまった。
仕方がないが、今気になるとこはアヘンの出所。
そこをアビゲイルに尋ねる。
「アヘンの出所は掴めたのでしょうか? 」
「それを調べようにも本人は話すことが出来ない状態だったり、記憶が無い等で一切情報が得られなかった」
言葉を失ってしまう。
『話す事が出来ない状態』『記憶が無い』という事は重度の中毒患者。
薬物はそこまで深く貴族に浸透していたことになる……が……
「では、アビゲイル殿下は病人の方とはお会いしていないのですね?」
「あぁ。『状態が良くないので、そのような姿は見せたくない』と言われてしまえば無理に会わせろとは言いづらい」
確かに。
病気が進行している姿を誰かに見られるのは避けたい。
相手が王族であれば勇気がいる。
「では、今のところ亡くなった方はいないのですよね?」
「あぁ。皆領地で隔離し、療養中と聞いている」
「そうなんですね。良かった……で……す……」
「どうした? 何か気になる事でもあるのか? 」
気になる事……
引っかかっている事はある……
「いえ。亡くなってはいないのですよね?」
再度確認してしまう。
私の思い過ごしであってほしいから……
「あぁ。そう考えてしまうのも理解できるが、亡くなった時は突然死等と公表し死因を隠しても亡くなった事を隠すことはしない」
「そう……ですよね」
亡くなった事を隠すことはない……
「何か引っかかっているなら、共有した方がいい。それが解決への糸口になるかもしれない」
アビゲイルの言葉で視線が私に集まる。
私の勘違いに三人の時間を奪ってしまうのは申し訳ないと思いつつ、あの事をはっきりさせないと気持ち悪かったりもする。
「頭が混乱しているのですが……」
「ゆっくりで大丈夫だ」
アビゲイルの優しく微笑む姿は、こんな状況でなければ見惚れていただろう。
「……はい……私としては気になることが……二つあります。一つ目は……何故、病気療養しているのは……学生だけなのでしょうか?」
「あぁ。今のところは学生以外に療養中の貴族の報告は受けていない」
学園でマデリーンが貴族達に配布しているのであれば学生限定だか、まだマデリーンや伯爵が犯人と決まったわけではない。
万が一を考え視野を広げなければならない……
のだが……
私の疑問は更にマデリーンを犯人にさせてしまうかもしれない……
「誰かが故意に茶葉にアヘンを混入させたのが原因で病気療養されている。であれば……家族全員に同じ症状が現れてもいいはずではありませんか? なのに、当主や夫人の健康被害は話題にはなっていないのですよね?」
私の中で、どうにも消化できない疑問を吐き出す。
「それは……確かに……言われてみればその通りだな」
「アンジェリーナ様の言う通りですね。学生達の病気療養は噂になっておりましたが、当主や夫人が社交界から身を引いているとは聞いたことがありません。それに病気療養中なのを再度確認した際も、どの家門もご夫婦や家族の方は息災でした」
疑問を口にしたに過ぎないのだか、婚約を解消された私が何が何でもマデリーンを犯人にしたいように見えないだろうか?
「アンジェリーナ、他にも気になることがあるんだよな?」
アンドリューが促すと二人で考え込んでいたアビゲイルもルースティンも先程とは違う真剣な眼差しを向ける。
「ぁっはい……病気療養とされている方達は……本当に……亡くなられて……いないのですよね?」
私は同じことを何度も聞いてしまっている。
分かっているのだが、確認せずにはいられない。
「それは……もうすでに亡くなっているのではないか? という事か?」
私の言葉にアビゲイルの目つきが鋭くなる。
「……先程……アビゲイル殿下は『病気療養』と聞き無理に面会を望むものではないと考え、どの人とも対面はされていないと聞いたもので……」
アビゲイルは本人にではなく、家族にしか対面していない。
本人の為に『留学』と偽り、王族の追及に耐えかねて『病気療養』していると真実を口にしていると判断してしまった。
アビゲイルの大切な人も被害に遇い、同じ状況のため『弱っている姿を見せたくないのだろう』と判断し被害者家族の言葉を疑うことなく信じた……
「確かに……誰……とも……対面していない」
貴族に騙された可能性にそんな表情をしているのか、既にアヘンによって死人が出ている可能性に愕然としているのか……
私にはアビゲイルの心までは分からなかった。
「……それに駆け落ちされたと言っていた方達も、今でも行方は分からないのですよね?」
「まさか……彼らも症状が現れていると?」
駆け落ちと病気療養は完全に別物と切り離していた。
だけど、どの家門も『本人を確認できていない』という事は共通している。
「その可能性があるのではないかと……駆け落ちであれば、誰かしら周囲の人間は相手が誰なのか噂は残っているはずです……相手……いるんですよね?」
行方不明の彼らは皆、一人でどこか遠くへ行ったわけではないと信じたい。
「令嬢はどう考える?」
「……私は……これは一つの事件ではなく、その裏に何か隠れているのではないかと……」
アヘンに隠れた何か……
アヘンは利用された?
「……そちらも調査してみよう」
「あっもし、本当に駆け落ちでしたらすみません。こんな時に関係のない調査までさせてしまっては時間を……」
「アンジェリーナ嬢。令嬢の観察眼には感謝している。事件解決を焦るあまり視野が狭くなっていたところだ。駆け落ちした彼らが無事であれば、それていい。令嬢には今後も些細なことでもいいので気が付いたことがあれば教えてほしい」
「はっはい……わかり……わか……あれ……ん?」
何か……気になる。
「アンジェリーナ、どうした?」
三人が私の言葉を待っているが、私も私の頭が整理されるのを待っている。
何が気になるのだろう……
なんだっけ?
「学生……学……生……が……く……生……」
学生が気になる……
何故、私は学生が気になるのだろうか?
「アンジェリーナ、学生がどうしたんだ?」
アンドリューが私の顔を覗き込む。
「……アビゲイル殿下と……ルースティン様は……体調は……どう……ですか?」
分からない。
私は何故こんな質問を彼らにしている?
私は何が知りたいの?
「私は何ともない」
「僕も問題ありません」
私の質問に二人は疑問に思いつつ答えてくれた。
彼らは問題ない……
「そう……ですか……学生……学生……もし……犯人が……無差別に、不特定多数の学生を……狙ったのであれば
……彼らを……狙うなら……沢山学生が……いるところがいいですよね……」
私は虚ろな瞳で誰かと会話しているというより、自問自答しているに近かった。
「それってまさか……」
ルースティンが言葉を発するも途中で止まってしまった。
「学園でアヘンがバラまかれているという事か……」
アビゲイルの言葉に私は納得した。
そういう事か……
「そうですっ。確かアイリーン達のお茶会も休暇に入る前から始まり、マデリーンが持参していた茶葉も専用サロンに保管していると話してました」
ルースティンの言葉で、アヘンが何処から出回りだしたのか手掛かりを見つけたのかもしれない。
「まさか、学園で……」
確かに学園の食堂であれば貴族も利用するので、多数の貴族学生を狙うことが出来る。
学園の教師は厳選な審査が行われるが、料理人は技術を持った平民が多い。
貴族に恨みを持ち、そのような犯行を計画することも……
私達はどこかマデリーンと伯爵が犯人であるかのように物事を考え、些細な違和感を見逃していた。
「すぐにでも料理人や関係者を調査するが、今は長期休暇中なので決定的な証拠が得られるかは難しいな。それでも、情報が入り次第二人にも報告をする」
「分かりました」
私の正しいのか間違っているのか分からない推理のせいで、部屋は緊張感がなかなか解れないでいる。
この重々しい沈黙を打破できる何かは無いだろうか?
「ぁあの……」
「どうかしたかい? アンジェリーナ嬢」
アビゲイルは再び私が何かおかしな発言をするのではないかと、反応が早かった。
「お二人の婚約者の方には……真実を話したりはしないのですか?」
婚約者の話だと分かると少し緊張感は緩んだが、別の気まずさはあった。
「まだ、悩んでいる。エメライン……二人の様子はどうだ?」
「今は長距離移動で衰弱していますが、会話も問題ないですし……新たに紅茶を摂取しなければ時間と共に回復すると思います」
「……そうか」
「気になるのは今後起こりうる禁断症状です」
「禁断症状……」
「二人には自身の症状を自覚させ、現実と向き合わなければアヘンは断ち切れないと思います」
「……あぁ」
「……お二人は婚約者様にお逢いになって行きませんか? 相手側の意思を確認してからですが……」
「私は会いたいが……令嬢は、弱った姿を見せたくはないのではないか?」
「そうですね、他人には見せたくはないでしょう。ですがお二人は婚約者です。令嬢側が会いたくないのであれば面会するべきではありませんが、「会いたい」という気持ちを伝えることは悪いことではないと思います。寧ろ今後の励みになると思います」
「私はエメラインに会いたい」
アビゲイルの意思を確認しルースティンにも視線で尋ねる。
「僕もアイリーンに会いたいです」
「わかりました。私がお二人に確認を取ってまいります」
令嬢二人に確認を取ると、二人とも婚約者に「会いたい」だった。
アビゲイルとルースティンは婚約者と会い、相手に負担を掛けないよう一時間にも満たない時間だったが再会を果たす。
令嬢二人は自身の体調不良を婚約者に晒すのは怖かったに違いない。
それでも勇気を出した。
「アンジェリーナ嬢、本日はありがとう」
「いえ、私は何も……」
「いや、令嬢のおかげで色々進展した」
婚約者に対面できたからか事件に進展があったからか、アビゲイルは先程とは打って変わって表情が豊かだ。
「僕もアンジェリーナ様には感謝しております。ありがとうございます」
ルースティンも険しい表情から解放されていた。
二人は我が家に宿泊するのかと思ったが、再びサーチベール国に戻っていく。
我が家に滞在し、婚約者の体調やアヘンについて周囲に気が付かれない為に。
立ち去る際にアビゲイルが振り返る。
「ルースティンとも話した。二人には真実を伝えてくれ。但し、健康状態に問題がなくなったとアンジェリーナ嬢が判断した時に頼む」
「はい、承知いたしました」




